4. 魔法人形は涙する 2
ガーディアンは、近接戦闘が得意ではないタルタル族がその魔法の技術を生かし、生み出した自律思考型の人形である。その開発にあたり多大な功績を残した、とある一人の天才魔道士が描いた設計理念は、彼をトップとし、ガーディアンたちを階級分けした指揮系統を持つ魔法人形による軍隊の設立である。しかしホルトト遺跡を徘徊し、時には冒険者に襲い掛かるガーディアンたちは制御を失っており、暴走する彼らにウィンダスは頭を抱えている。 また、彼らにはトランプのカードになぞられた名称が個々につけられている。その数字が大きいほど階級も高く、また彼らのコアである魔導球に込められた魔力も大きい。その力を推し量るには、まず彼らの固体名を見るのが一番早いのだが―――「こいつ、名前が・・・?」 個々を識別するために備え付けられているはずのマークを、そのガーディアンは持っていなかった。ぽっかりと空いた空白に、ヒトの警戒心が増す。「我ガ・・・名ハ・・・」 その視線を感じ取ったのか、人形は低く唸りを上げ、自らの名を告げる。「White...Blank of...Spare...」 聞いたことの無い名前。モンスターの名前の多くは、冒険者らがそれらの容姿から勝手に名称したものが多いが、それ以上の意味は持たない。誰かの祈りが込められて初めて名前は意味を持つ・・・それは、誰の言葉だっただろうか。 しかし、考えをゆっくりと巡らせている暇は無さそうだった。ガーディアンから漏れ出す魔力が、はっきりと敵意を持った色へと変わる。「力・・・持タヌ者ヨ・・・ココ・・・ハ貴様ラガゴトク・・・・・・」 まるで呪詛のように、ゆっくりとガーディアンは語る。「踏ミ込ンデ・・・良キ場所デハ・・・・・・ナイ!」 周囲に満ちた力の奔流が、一気にガーディアンへと収束する。素早く剣を引き抜き、ヒトは仲間達の前へと躍り出た。部屋の隅に倒れる冒険者達の姿が気になったが、問答の通じる相手では無さそうだ。「・・・やるしかないようだな」 そう短く言い、ツィンが武器を構える。悲鳴のような声をあげながら、トコも慌てて楽器を取り出した。「愚カ・・・ナル者ドモヨ・・・・・・悔イルガイイ・・・」 その、刹那――― どこをどう通ったのか、ガーディアンの真後ろにルーツの姿が突如出現する。気配を殺し、敵の死角から浴びせる必殺の一撃。シーフの最も得意とする技であり、基本にして最大の技。急所めがけて一直線に振り下ろされた青い短剣は――― ―――ギィンッ!「なっ・・・!?」 ガーディアンの体を捉える寸前の所で何かに弾かれたかのように、短剣は宙空を泳ぐ。打ち損じたことのない一撃を無力化され、驚愕の表情をルーツは浮かべる。 弾かれた短剣を、構えなおすことも出来ずに。「―――避けろっ!」 ヒトの怒鳴り声に、はっと我に返る。ガーディアンの体に、魔力の渦が円を巻いて収束していくのが見える。「―――チィ!」「・・・遅イ」 ガーディアンから放たれた赤い輝きが、巨大な一筋の光となってルーツの姿を弾き飛ばす。四肢を投げ出したまま宙へと放り投げられたルーツの体が、壁に叩きつけられ、耳障りな音と共に床に倒れる。「ルーツ!」 悲鳴のようなトコの声が、部屋に響く。しかしルーツはぴくりとも動かない。すぐにでも駆け出して行きそうな彼女をかばうように、ヒトとツィンがガーディアンと対峙する。「サァ・・・」 ゆっくりと、まるで開演を告げる指揮者のように、ガーディアンはその両手を広げる。「次・・・ハ・・・・・・誰ダ?」 無機質な声が、まるで笑っているかのように、部屋の中に静かに木霊した。