日常、三十一日目。(戦の後)
面接に向かうため、メトロに乗る。パリを横断だ。やはり初めて行くので、時間の見当がつかない。でも1時間以上もとったから大丈夫だろう。フンフンと鼻息も荒く出発したが、歩きながらはっと思い出した。パーキングチケット…。いつも車を路駐しているのだが、1週間ごとに在住者用のカードの横にパーキングチケットを買い替えないといけないのだ。1週間で2,5ユーロ。でも、駐禁をとられると11ユーロ。先週替えたチケットの期限は今朝までだったのだ。すっかり忘れてたー!帰って来た時には11ユーロのPV(*1:駐禁チケット)が待っているのか…。でも、出てしまったのだから仕方がない!進むのみ!メトロに乗って最寄りの駅に着いた。この番線はある駅を境に乗車している人の雰囲気が180度変わる。パリに10年いるが、なかなか慣れないものだ。淡いキャメルカラーのモルタル素材のような生地でできたラッパー上下の若者の目の前に座った。凄い恰好だ。恥ずかしくないんだろうな、彼は。ヨーメン!ヨーメン!と心の中で叫んでいるんだろう。膝の位置まで下がった腰のポケットからしきりにbonbon(*2:飴)を取り出して食べている。こんな恰好をしても味覚は幼児なところが可愛い。甘いものに目がないんでちゅね?。でも、一応鞄の取手をぎゅうと握り、警戒態勢を保つ。(嫌な性格ですねぇ、私って)最寄りの駅に到着。バスに乗り換える。もう、ココはアフリカだ。バスで目的地に着いたのは11時半だった。うーん、カフェでも飲んで待つか…。でも、どこのカフェに入ろう…。外から物色し、勇気を出して入った。当然、”アジアの子、何しに来たんじゃ?”という目線が私を刺した。そんな事にもめげず、意外においしいnoisette(*3:ミルク入りエスプレッソ)を頂き、時間がくるのを待った。12時5分前…。出発進行!大きな建物の8階にオフィスはあった。でも、7階にも9階にも誰もいない。空だ。そんな事は気にしない。ドアを叩いて中に入ると、意外や意外、まさにオフィスといった感じのごくありふれた風景であった。(って、何を一体想像していたんでしょうかねぇ、私は。)受付のお兄ちゃんに事を告げると、”そちらでお待ちください。”と言ったのであろう、あまりにも蚊の鳴くような声だったので聞こえなかったのだが、手をそこにあるソファーの方へ向けた。待つ事10分、日本人の女の人が来た。どっかに移動するかと思いきや、そこで面接開始。いやだわぁ、こんなだだっ広い所で自分の経歴をベラベラ喋るのは~。仕事内容を説明してくれたが、広報とか人事の人ではなさそうで、喋りが私より下手だった。人事の人が手が離せないとの事で先にテストをして欲しいと言われた。来ましたね。うはうは。デスクにつき、説明を受ける。Illustratorで化粧品の説明書を1から作るのと、あるカタログに翻訳された文章を流し込みする作業だ。ただ、この流し込み作業はInDesignでしなければいけないのだ。知らないのよー、このソフトー。レイアウトならQuarkの方が使え慣れてんですけどー。でも、Adobe社だから勘を使えばどうにかなるか。と、いうわけで、どうにかした。頭の良いソフトで文章をコピー&ペーストでフォントもそのまま自動的にかわってくれる。ふー。全部を1時間くらいでと言われたので、張り切ってやったが、やっぱり緊張していたのか、何回も点検してやっと完成。でも、流し込みの方のを1ページ忘れちゃった。”あっいいですよ。”って言ってくれたので、というか、彼女も早くお昼に出たかったらしく、人事の人に私を合わせて、さっさとお昼に行っちゃいました。人事の人はさすがに会話に長けていて話が弾んだし、サラサラっと方向を変えて探りも入れて来た。別に隠す事もないし、繕うのが嫌いなので、そのまま彼女のペースで話していった。こんなだから人付き合いが下手なんでしょうね。しかし、問題がある。私がフリーランスで働けるのを逆手に取られてしまったのだ。勤務したいんですよー。勤務。まぁ、フリーの方が勝手に料金とか決められるけど、今私が欲しいのは安定した職なんですよー。それでも仕事欲しさに強く出れなかったー。くー。でもこれで仕事が入って来たらそれでもいいんだが、シチュエーションは変わらんなぁー。ぼーっとしながら建物を出る。最寄りの駅まで歩いて行けそうなので、天気も良いので、バスを乗らず歩く事にした。頭の中をいろんな事が巡る。自分のした仕事は良かったのだろうか…やり残したページをちゃんと終わらせればよかった…もっとテキパキこなせば…人事の人の反応…もっとフランクに話した方がよかったかも…どうなるんだ…どうなるんだ…。お日様ピーカンの中、私の周りだけ梅雨模様だったかもしれない。しかし、駅の方に近づくにつれて、面倒くさい事が起き始めた。それは、”コニチハ””ニーハオ”を言われる事である。私はコレが大嫌いである。言う人に睨む事もあるが、睨むのに振り返るのを勘違いするバカも多いので大抵無視する。相変わらず、四方八方から聞こえる。イライラが頂点に達した頃、それを超える嫌な事が。一台の日産ミクラがのったりのったりと私の横を走る。私と同じ早さで。おいおい。そりゃーねーだろ。横目でチラッと見る。やはりそうらしい…。気が一気に滅入った。このお日様ピーカンの下、リクルート姿までとはいかないが茶のブラウスに黒のパンツ足下はカーキのballerine(*4:バレーシューズの形の靴)そして手に茶のコートを抱え、型からカーキの小バックにブックの入った布袋を下げてるというストイックな恰好だぞ…。そんな姿したpute(*5:売春婦)が何処にいるんじゃー!!!しかも、ミクラだぞ、おまえの車は!引っかけんだったらフェラーリくらい乗ってろよ!しかも328ならもっといい!(↑それは私の勝手な好みでしょう…)面接してどきどきして疲労した上に、”君、いくら?”攻撃かい…。そんな時に横を通ったあやしい黒人のおっちゃんが、”Ca va?”(”どうよ?”)と行って来た。無視していたら、”Tu ne parles pas?”(”話さないのぉ?”)とか言う。”tu”で話しかけるなよ。私はこれも嫌いである。”J'inore que vous savez comment il faut parlera la personne qu'on ne connait pas, je suis desolee, on ne parle pas comme ca !Si vous voulez me parler,j'aimerais bien que vous me parliez correctement;Sinon je n'ai pas du tout l'intention de vous repondre !”(*6)と言ってやりたかったが、変な気を起こされると嫌なので、そそくさとメトロに乗る。変な脱力感に見舞われたので、技術上の問題で一旦停止した駅で降り、腹ごなしにMacDoで遅い昼飯を取った。こんな些細な面接でここまでボロボロになるとは情けない…。っつーか、面接だけだったらここまで疲れんだろーに。ガランとした家は嫌いだ。ラパンが居たら、グワーッと愚痴を吐き出して、頭をなでなで、良い子良い子してもらえんだけどなぁ。早く帰ってこないかなぁ~。って、出発したばかりよ…。*1:PV〔ペーヴェー〕;ちゃんとした名前は contravention〔コントラヴァンシオン〕。 最近はかなりうるさく、下手してlivraisonの所に止めると、 朝の7時から取り締まられるので、レッカーされてしまう。 *2:bonbon〔ボンボン〕;またはfriandise〔フリアンディーズ〕。*3:noisette〔ノワゼット〕;ミルクがほんの少し入ったエスプレッソ。 色がノワゼット色をしているからこの名がついたが、 ノワゼット味ではないので気をつけて下さい。*4:ballerine〔バレリン〕;今流行のバレーシューズ。 私はこれが大好きなんですよ。 ムートンも捕まえるのに、走れるんでね。*5:pute〔ピュット〕;きちゃない言葉です。 覚えるなら、prostituee〔プロスティチュエ〕の方が上品ですな。*6:”知らない人にどういう口のきき方をするべきか、 あなたが知っているかどうかしりませんが、 すいませんがね、ふつー、こんな口のきき方しませんよ。 私に話しかけたかったら、 もうちょっとましな口のきき方してくださいな。 じゃなきゃ、答える気なんかぜんぜ~んありませんから。