日常、十六日目。ー帰還ー
朝、気分よく目覚めた。田舎の朝の澄み切った空気はいいもんだ。みんなにおはようをして、支度し始める。いつもは6時起きのママンだが、田舎のいい空気でよく寝れたのか、今日は寝坊だわ~と朝からご機嫌な様子。くわばらくわばら。ムートンのシャワーからでたくな~い攻撃で、ピキピキしていたが、無事に食卓に予定通りついた。いろんなパンがのったcorbeille(*1:かご)、かわいいpichet(*2:ピッチャー)にはいったカフェ、手作りのconfiture(*3:ジャム)。うーん、なんてリッチな朝食。なんて思っているのもつかの間、疲れる時が私を待っていた。ママンは宿の婦人が最近ハマっている食事療法の話に夢中になっていた。ママンの肺が悪いと聞いた婦人が、私もリュウマチで悩んでいたのを、Dr Seignaletの食事療法で直したと熱弁していた。聞くのはいいが、熱中しすぎて周りがみえないらしい。バターもジャムも何でも自分お手元の置いちゃうから、いちいち手を延ばして取らなきゃいけないし、姪っ子が紅茶を飲みたいけど、ポットが重くて自分のカップにお湯を入れられなので、私が仕方なくいれてあげた。しかも私の膝の上にはムートンがいるのだ。そのムートンの要望も聞いて、パンにバターを塗ったり、牛乳をついだり…。(手伝えよ、気を使えよ…。)夢中で聞いているママンに反して、パパは小声で、”僕はちゃんと食べるものに気を配っているから、今までのように好きなものを好きなように食べるよ。”と呟いている。(火に油をさすなよ…。)ふんふんと聞くママン。”口に入れる物は大切よねー”と言っている彼女の冷蔵庫の中身を知っている私は、???な気持ちであった。彼らの冷蔵庫の中は常に空っぽである。あるのはヨーグルトとチーズとバターくらい。”あっ、買い物したね”という日にはハムが入っているくらいだ。生野菜が入っているのをこの10年間見た事はない。でも、この機会に少し考え直すのかな?(こう思った私はかなりnaive(*4:ナイーブ)…。)朝食後、宿の皆さんに別れを告げ、海の方へと足を延ばした。これはママンの意向で、パパの不動屋さんまわりの希望はペッシャンコ状態である。車で30分もしないで海辺に着いた。赤土の崖の下に砂場が広がっているので、mine d'or(ミンヌ・ドール)と名付けられた海辺であった。そんなに天気は良くなかったが十分な陽気であったと、寒がりな私が思うのだが、異様な寒がりなママンには不満の材料のひとつであったらしい。海辺でゆっくり日焼けを希望していたのに、曇っていたのでは話にならない。”Il fait pas chaud, hein?”(*5:あったかくないわねぇ)いかにもふてくされたフランス人の台詞である。(いーじゃんか、お天道様ピカピカじゃなくても。海が見れるだけじゃ、駄目なの~?)そんなママンの不機嫌さを感じてか、自分のmission(*6:任務)の遂行の為か、パパは海辺に着くなり、我々を置いて近くの不動屋さんまわりに言ってしまった。(勝手にしてくれ)ママンは寒そうに丸まっている。ならばせめてセーターの前を閉めればいいのに、シルエットが崩れるのを嫌ってかそのままである。(勝手にしてくれ)ムートンはラパンに肩上げしてもらい海で遊んでいた。今回も毎回のように、”砂きら~い”といって、ラパンに抱っこされ続けるのかと思いきや、はっと気がつくと、海辺にたっているではないか!砂の上に立っているだけで奇跡的なのに、波が足にかかってきても泣いていない!あー、ハレルヤ!ムートンの海デビューである!その後、砂浜を駆け回るムートンを見ながら、我が目を疑いつつ、今回来てよかったと思えることがあって良かったと心をなでおろした。しかし、パパが戻ってきて、くつろぐ我々に反するように、”これからどーするんだ?”と急かしてきたので、お昼を食べようという事になった。我々は折角来たんだから、ムートンの好物のムール貝を食べたいと思っていたが、お金を使うのが嫌いなパパは、”僕は食べないよ。ダイエット中だから…。”などと、小声で言っていた。が、ママンも食べたいということで、あっけなくレストランに行くことに決まった。しかし、車を止めた所に不動屋さんが!パパは車を降りるなり、ラパンを呼んで、物件を見始めた。うんざりなママンはレストランの方へ歩き出した。私もちょっとうんざりなので、ママンと一緒に行った。8ユーロでmoule-fritesが食べれる。前回のブルターニュ・ノルマンディー旅行の時よりも全然いいムールで、満足感たっぷり。ふっくらと大きいムールちゃん達。ムートンもふんふんいいながら、ムールを貝からむしって食べた。お腹いっぱい、cidre(*7:シードル)も飲んでいい気分。と、思っていたら、今朝の食事療法の話が浮き上がってきた。相変わらず、”あんなの勝手に好きなやつがすればいいのさ!”という態度を変えないパパはよしとして、今度はあんなに熱心に聞いていたママンが、“気をつけないとね。あれは流行のsecte(*8:信仰宗教)よ。”なんて言い出した。(おやおやややぁ~)今朝の”あなたに乾杯!”的な態度はどこへやら。”あなたにピーム光線!”な発言じゃないですか!私の胃で消化され始めたムール達もびっくりしていたよ。さっさと片付けし始め、ムートンが遊びたがっているからと席を外した。あとは、各自の車に乗って帰るだけだと言い聞かせ、この満腹いい気分を壊さないようにした。車に乗って、いざ出発と思ったら、ガソリンが足りなさそうな事に気づいた。どこかでガソリンを入れたいとパパに言うと、”Nanteまわりで帰るけど、Nanteまでもちそうか?”と聞いてきたので、”大丈夫”と答えた。ここからだと長くて40~50キロだから、十分間に合う。が!が!が!出発して、しばらくしてから、Nanteにいくかと思いきや、Nante手前でAnger行きの高速にのるじゃないか!お?お?お?ガソリンタンクの赤ランプがつき始める。おいおい、高速のあちらこちらにガソリンスタンドはないんだぞ。急いでパパの携帯に電話するが、”もたないのか~”みたいな反応。(どっか壊れてる?)運良く20キロ先にスタンドがあると発見。ちょっとドキドキしながら、economique(*9:経済的)な走りでスタンドに到着できた。ガソリンをごくごく飲むma voiture(マイカー)。と、その時、パパの車に乗っていた姪っ子が、水を飲みたいと言ってきた。ムートン用に1本残っているのを仕方なくあげると、ママンまでごくごくのんでいるじゃないか!夏の車旅行で水を持参せんのか!(そういやぁ、何も用意してなかったね。そのくせ酸素吸入している時、”これすると本当に喉が乾くのよ”って、水をがぶがぶのんでたっけ…。勿論私が用意した水を。)水を返してくれを言いたくなかったので、ラパンとムートン用に別の水を買いに行った。車の中でムートンが暴れだした時に対応するように、Hariboのcrocodile(*10:ハリボのワニの形をしたグミ)も購入。出口でパパに会い、”何を買ったの?”というので見せると、”あー、またお菓子かい?太るよ~”と、言われた…。(放っといてくれ…。)その後、ムートンと通り過ぎるトラックやバスを見ながら、ゆっくり帰る事ができた。家に着いた私は、週末の小旅行であるにも関わらず、骨抜き状態であった。でも、海が見れて、ムール貝を食べれて、ラパンとムートンの笑顔も見れたのでよしとしよう。(でも、次回は遠慮するが。)*1:corbeille〔コルベイユ〕;Macのゴミ箱もcorbeilleと呼ばれている。*2:pichet〔ピッシェ〕;レストランでワインを1本飲めない時、 25mlか50mlのpichetで注文できたりする。*3:confiture〔コンフィチュール〕*4:naive〔ナイーブ〕;これは女性形。男性形だとnaif〔ナイーフ〕。*5:Il fait pas chaud, hein?〔イル・フェ・パ・ショ・ア~ン〕; この”hein?”は”よねぇ~”的に使われる。*6:mission〔ミッション〕*7:cidre〔シードル〕;doux(甘口)brut(辛口)、 fremier(とても辛口)の3種類がある。 よく冷やして飲むのだ。*8:secte〔セクトゥ〕;フランスには結構いるのよ~。*9:economique〔エコノミック〕*10:crocodile〔クロッコディル〕;Hariboはヨーロッパの駄菓子。 だが、中身は恐ろしく、ゼラチンは豚の脂肪のゼラチン質を使用。 うまいがこわいお菓子である。