日常、百二十一日目。
先週の土曜日に同僚の誕生日パーティーに招待された。彼女は仕事仲間でも有名な異次元の感覚を持つ人である。この異次元の感覚とは、普通ではない思考回路を持ち、それに従った行動を自然に天真爛漫に行える事をさす。例えば、彼女の仕事はマーチャンダイザーなのだが、地方に一人で出張することができないのである。または、パリの1区から3区にタクシーで移動する。または、5時くらいに仕事に来たにも関わらず、取りあえずカフェで一休みしてから仕事にかかり、結局終わらず、“明日、これしといて”と人に頼んで帰る。または、1日、実質5時間程度の仕事で、月手取り2000ユーロの給料に不満を持っている。そんな彼女の誕生日パーティーなのだが、行く前日に、電話がかかって来た。“うちの住所と入り口のコードナンバーを教えてなかったから。”メモ用紙に書き取っていると、彼女はこう続けた。“パーティーは21時からで、シャンパンかワインを持って来てね。と、指定してきた…。いや、コレって、ありなんでしょうか。そして、その後、違う同僚が、彼女から同じ電話をもらって、言われた事は…”じゃ、タルト、持って来て。”だったそうだ。いや、自分の誕生日パーティーに人を招待して、シャンパンだの、ワインだの、タルトだの、要求しちゃうもんなんですかねぇ。同僚みんなで買ったプレゼントに20ユーロも払わなくちゃいけないのに。結局、3ユーロ50セントのワインを片手に彼女の家に向かった。中に入るとディスコ顔負けの演出が彼らのロフト内にされていた。巨大なスピーカーが2台、それと接続されたi-Pod対応のDJプレーヤー、クルクルまわって模様が変わるライト、そして今回の主役、ホームビデオ用のプロジェクターが映し出すサーファーのドキュメンタリー。それはそれは素敵なパーティーなのだが、このだだっぴろいロフトに置かれた2台の小さなテーブルにブッフェ風の代物がのっていたのを私は見逃さなかった。何故ならば、一応1児の母だし、旦那は熊なので腹ごなしできるものが必要だったからだ。(土曜日は出勤してますから、ご飯作ってる暇なかったしね)この小さなテーブルには、質の良さそうな生ハムが数切れと、質の良さそうなパテがドンっとそのまま置かれ、質の良さそうなパンが置かれ、ピーナッツのボールが1つ、ピクルスのボールが1つ、オリーブのボールが1つ、ポテトチップスの大きなボールが1つ、チュッパチャップスが数本はいったボールが1つ、飴のボールが1つとマシュマロのパックが1つあった…だけだった。これが30人ちかい招待客のもてなしであった。お酒はみんな持ち寄って来た為か、飲みたい放題ではあったが。パーティーも終わりに近い頃、彼女と仲がいい同僚が、このクソ忙しい土曜日の仕事の合間にダッシュで閉店間際のジュラール・ミュロに買いにいったと思われる桃のタルト(しかも6人分サイズの)に彼女の歳、28の形をしたロウソクをさし、火をつけた。自慢のDJプレーヤーにかぶりつきの主役の彼女の彼氏はそんな事も目にはいっておいらず、と、言うか、自分の彼女の誕生日パーティーなのに、ケーキも用意していないから当たり前だが、タルトを手にした同僚に音楽のボリュームダウンを要求されやっと気がつく。なんなんだ、このカップルは‥。みんなにハッピーバースデーを歌って貰いご機嫌な彼女なんだが、もう少し頭を使って生きた方がいいのではないだろうか…。でもまぁ、ムートンもサーファーのムービーを楽しんでいるようだったし、ラパンもご機嫌だったので、個人的には楽しくさせてもらった。パーティーにおける一番大切な事は楽しむ事ですからね。