図子慧 『蘭月闇の契り』
(あくまで個人的な意見ですが)読まない方がいいと思った本のレビューなので粗筋はなしで。 まず、表紙に『角川ホラー文庫』とありますが全然恐くありません。それらしい描写があることはあるんですが、想像を助長してやってもグロいだけでそれ以上の恐怖には程遠かったです。ホラーは被害者側からのみ提示される視界、映画でいうところのカメラワークでしょうか、これの働きによって未知なる対象に圧倒され凍りつくわけですが、この本多視点構成のため襲う側の意思が激モレなんですよね。こんなことでは、主人公空目の空虚と膨大な体系化されたオカルト知識に裏付けされた『Missing』の生々しさにしびれた後には、ホラーとしての価値を屁ほども見出すことができませんでした。 次にキャラ設定について。物語に深く関わる晶彦というキャラがいるのですが、彼は容姿端麗、成績優秀、運動抜群、抜け目がない上でのちょい悪、といういかにも女好きしそうなやつなのです。この設定は間に美少女美魚を挟んだ伸雪との三角関係を形成する上で、嫉妬心という重大な要素を喚起するのに大いに役立っているわけですが男としては大分引いてしまいます。マンガかなんかで女主人公が美男子にモテまくると、今をときめく読者である女の子はその主人公に嫉妬するという傾向が存在するらしいのですが、それと少し近いものがあるかもしれません。なんでおまえだけそんないいとこ持ってくんだよ、とね。んでもって劣等感の塊にさせられすっかり腹黒くなってしまった伸雪君。平凡な日本男子である僕は彼を応援していたのですが、汚名返上の希望もむなしく最後で見事に撃沈。彼と読者の嫉妬を煽りに煽った作者の意図(あくまであるとしたらの話)が見事に浮いてしまいました。 それから登場人物の行動に一貫性がまるっきし感じられないんですよね。小説の多くはキャラの成長の過程を描くものですからカクカク折れ曲がること自体は全然構わんのですが、折れ曲がるにしてもなにかしらのキッカケが示されていないと読者にしてみりゃ『なんでやねん』となってしまいます。伸雪君も手を貸した相手の悪さを知って改心したのかなぁ、でもその割には最後まで悪人面だし、真魚を危なっかしい目にあわすし。 結局本読んでないと何が何だかわからん文章になってしまいましたが、読まないほうがいいよ、後悔しても知らないよというメッセージを汲み取って頂ければ幸いです。