シベリア抑留壮絶人間記録4
5,自分自身を磨き高める運動 わたしは知らず知らずに、その話に引き込まれていました。 わけもわからずに、時には涙があふれんばかりの戦慄におののき、呆然として立ちすくんでいました。 私に心はどんどん彼に引き込まれカーッと熱くなっていくのを覚えます。 ハッと気づいた時は、明け方の3時。およそ7時間というもの。M一等兵の言葉に釘付けになっていたのです。 「Sさん、大事なことは、目的意識の自覚です。あなた方はこの自覚を喪失している。捕虜として敵の仕事をさせられている。この考え方に根本的な間違いがあるんです。」 「希望のない人生は闇だ。戦いに敗れたからといって日本人の希望まで奪い去られたと思うのは大間違いです。私たちは、亡くなった戦友たちの霊と遺志を背負って、祖国に帰り、日本を立派に再建させる義務があるのです。」 「大きな目的とはね。Sさん。この世の中で一番大切な自分自身を磨き、高め仕事なんです。より大きな目的と自覚し、使命感に燃え、手元の目標めがけて集中するのです。その時人間の能力は無限に発揮されます。最大のエネルギィーが発揮されるのです」 M一等兵の一言一句が私の胸に容赦なく突き刺さります。 これまでのように、サボることばかり考えていたその日暮らしでは、本当に負け犬になってしまうと痛切に感じることができました。 すると彼はこ言うのです。 「Sさんは理屈では理解してくれたようだが、そんなものはすぐに実行しなければ忘却してしまうものです。どうだろうか明日一日だけでいい、私の言ったことを素直に行動に表してみませんか。駄目だったら止めたらいい。もともとじゃないですか」