ホスピスの4つ葉のクローバー
今日も朝から小学校で付き添い。12時半に帰ってきて、給食はまだなので、娘に昼食。次の日の準備を一緒にして、そんなこんなでもう2時半。3時半が耳鼻科の予約なので、あっという間にまた出発。この後、息子を迎えに行けば、あとはいつもの怒涛の夕方~夜コースで、またたくまに一日が経ってしまう。娘の耳鼻科が終わり、疲れを感じながら駐車場への道を歩いていたら娘がいない。もしかしたら…と思って聖堂へ入ったら、娘はそこでもう席についていた。このキリスト教系総合病院には聖堂がある。私たち母娘は信者ではないのだが、なんとなく、この聖堂が好きでよく足を止める。足元にある台を手前にたおすと膝がつけるようになっていて、そこにひざをつくと、自然と神様に祈るような体勢になる。青と赤のステンドグラスを通してふりそそぐ自然な光と、コンクリート打ちっぱなしの無駄なものがはぶかれた空間。そこで、私たちはよく会話をする。2人だと上手く話せない話も、不思議と神様をはさんで3人だと解決することがある。たとえば、こんな話もあった。娘がピアノの練習をしたがらず、だったらピアノをやめろ、やめない、とお互い感情的になっていた時に、ここに入った。私がわざと娘に聞こえるようにピアノの話を神様にすると、娘は心配そうに、「…かみさま、なんていってた?」と、聞いた。「神様も、今日練習しないと明日はもっと弾きたくなくなるし、明日も弾かないと明後日はもっともっと弾きたくなくなると、って言ってたよ。」ここまでは、2人の会話でもしていたことだった。でも、聖堂だと、何か不思議な力があって、私は自然とこう続けた。「…でもね。神様はね。『△△(娘の名前)は、そんなことは分かっているから大丈夫。△△を信じて、いつか弾くときまで見守ってあげてね』って言ってたよ。」娘は、じっと考えて。聖堂を出て。車に乗るときに、「△△…うちにかえったらピアノひくわ。」と、言って、家に帰ったら自分から弾いたのだった。今日も学校での、着替えが遅い、だの、靴はすぐに履きかえないと、だの、下敷きで遊ばない、だの、小言だけど、ずっと見ているとイライラする小ネタを、ぶつぶつ言っていたら、声をかけられて驚いた。娘にすぐに目がいったので、真横の列に人がいたことに気付かなかったのか。それとも、後から入ってきたことに気付かなかったのか。点滴棒に、病棟衣。初老の女性だが髪にツヤがなく、痩せた様子から、なんとなくホスピスの人かな、と思った。この病院にはホスピスがあって、ホスピスの中に聖堂もあるのだが…。「これ…あげますね。」その手には4つ葉のクローバーが3本、のせられていた。聖堂の横にはクローバーがいっぱいはえている。「ありがとうございます。以前、私も探してみたのですが、1本も探せなかったんですよ。」と、それを受け取った。彼女は何も言わず、微笑んで会釈をすると、点滴棒に体重をまかせて、ゆっくりと聖堂を出ていった。3本あるなら、1本は娘、1本は私、で、1本は彼女でわけあえばよかったのでは…と、ふと思い、聖堂を出て彼女を探したのだが、もう彼女はいなかった。「これなに?」「これはね。4つ葉のクローバーといってね。クローバーは3つしか葉がついてないんだけど、4つあるクローバーもあって、見つけた人は幸せになれるんだよ。」「△△、みつけてくる!」「もう見つけなくて大丈夫だよ。あの人が見つけた幸せを△△とママにくれたから。」「ふうん、そうなんだ。よかったね。」「そうだね。よかったね。」うちに帰って障子紙の残りをひっぱりだし、そっと4つ葉のクローバーをはさむと、本の間にはさんでみた。押し花なんてやったことなし、これでできるのか分からないけど、いつまでも、その4つ葉のクローバーが残っていてほしいと思った。