吉田修一著 『国宝(上・下)』
☆1964年元旦、長崎は老舗料亭「花丸」――侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、この国の宝となる役者は生まれた。男の名は、立花喜久雄。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。舞台は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか? 朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ、著者渾身の大作。☆吉田修一さんが歌舞伎の世界を小説にした!と聞いて、躊躇なく発売日に購入しました。最初、九州のヤクザの世界が延々と続いたのにはちょっと食傷したけれど、歌舞伎に世界が移ってからはとても面白く、すぐ読み切ってしまいました。数多くの役者さんのエピソードや思いを、主人公に凝縮したような、そんな作品でした。吉田さんは中村鴈治郎さんのところで黒衣(くろご)となって舞台の裏側をずーっと取材していたそうです。なかなか見ることのできない芝居の裏側を、見てきた人にしかわからない筆致で描いています。