タイル
「タイル」柳美里著【ストーリー】離婚した妻への未練、やり場のない欲望を抱えながら、マンションの部屋中にタイルを敷き詰める男。金と時間を持て余し、盗聴器に聞き入る老人。タイル貼りの異様な部屋に招かれた女流作家の目の奥で、危険信号が激しく点滅しはじめた―。都会にひそむ狂気と殺意を描きだして絶賛されたホラー純文学の傑作。(文庫の裏-http://bunkonoura.web.infoseek.co.jp/index.html-より転載)【感想】☆☆☆公序良俗に反する表現として、使うとエラーになる言葉がありましたので、直してアップしましたので、婉曲な表現になっていておかしく感じるかもしれませんが、ご了承ください☆☆☆不能になってしまい、わずかな反応は見せるものの、完全には勃つことができない男。勃つから何だ!何の使い道も無い!という老人。金のために意に沿わない官能小説を書く女流作家・・・セックスができないというより勃たない自分へのジレンマを感じ、何かの代償行為のようにタイルに固執する男。妻は亡く友達も無く家族にも心を許せず、局所の隆起などと思いながら受け入れてくれる存在を求めども無い、そんなジレンマから盗聴に固執する老人。この二人の存在感が、特別でなく、身近にありそうな感じでうまく描かれています。”性”とは何なのだろう、とても考えさせられる。男はセックスに固執するのではなく、勃つことができない自分自身にこだわっているように見える。例えば勃つことはできるが、相手がいないでもんもんとするのとは様相がぜんぜん違う。男は作中、何度か”兆し”を感じるが勃たない。そしてさらに深い闇へ進む。ただ勃つということが、それだけで欲望の放出につながるのだな・・・と納得させられる。そしてこれに対を成すように登場する老人はその先の肌のふれあいを求める。これは世代の差か・・・そしてこの二人がフラストレーションのはけ口を無意識に求め計画するのが、男が好きな、不能の男とその妻の物語を書いている女流作家の拉致。男、老人、女流作家の対決シーンはすさまじいものがありました。男は狂った目で、女流作家に小説の結末の説明を求める。脇で正気を保ちながらことの推移を見守る老人。そして、このやりとりの中から、女流作家ははじめて書きたいという情熱を感じる。男の男性としての生、作家の作家としての生が火花を散らすが、男は闇から抜け出せず作家を殺してしまう。作家を拉致してから殺すまでの描写は恐ろしいほど生き生きしていて、引き込まれます。「ゴールドラッシュ」を読んだ時も思ったのですが、柳美里氏は内なる静かな狂気を描くのがとてもうまい。やはり、目が離せない小説家の一人だな・・・と改めて思いました。