失恋
大学2年のとき、ひとりの女の子を好きになった。彼女は私たちが開催したイベントに熱心に協力してくれた。自分の心の中で「この子だ」という気持ちが大きくなっていった。夏が過ぎ、秋になったある日、彼女の大学の文化祭にいった。友達に車で会場まで連れて行ってもらった。彼女の大学は都心からずいぶん離れた場所にあり、目的地までは時間がかかった。彼女に会えるという気持ちの昂ぶりに時間は気にならなかったが、すっかり夕方になってしまった。大学のすぐ近くまで来たのに、なかなか大学が見つからない。文化祭が終わる前につかなければと必死だった。ようやく大学を見つけることができた。文化祭はまだ終わっていなかった。彼女のサークルのメンバーは、遠くから来た私たちを歓迎してくれた。イベントのときの思い出話をして盛り上がった。文化祭は終わりに近づいていた。「このままでは帰れない。」私は、彼女とふたりになったときに、思い切って「好きだ」と告白した。しばらくの沈黙ののち彼女は言った。「好きな人がいるの。ごめんなさい」私は何も言えなかった。なんと言っていいかわからなかった。車を運転してきた友達は私と2人の友達を残して先に帰ってしまった。私たちには車がない。駅までは遠く、スクールバスに乗らなければならなかった。しかもスクールバスは頻繁に出ているわけではない。結局、彼女たちと一緒のスクールバスで駅まで出ることになった。私の友達は彼女の友達たちとはしゃいでいた。それに対して私は何もしゃべれなかった。いつのまにか私はバスの中の彼女の顔をぼっと眺めていた。「好きな人がいるの。ごめんなさい」を言う彼女の映像が繰り返しよみがえった。「なんか今日は静かだね」事情を知らない他の女の子は、いつもよくしゃべる私にそう言った。私は苦笑いをするだけだった。「彼女を好きだった気持ちに間違いはない」「断られても告白してよかった」強がっている自分を感じて虚しかった。一方、正反対の想いも同時に感じていた。「自分はほんとうに彼女を好きだったのか」「彼女をどれだけ知っていたのか」「告白は正しかったのだろうか」ふられたことから逃げたい自分を感じて情けなかった。ふられたことに悔しさはなかった。彼女を恨む気持ちもなかった。ただ自分の対人関係に自信がなくなり、自分自身にも自信がなくなった。