眠れぬ夜に・・・『百億の昼と千億の夜』
海への旅行なので持っていった本、『百億の昼と千億の夜』(光瀬龍)。日本のSFの金字塔、だそうです。私も高校時代からの愛読書ですけど、特に寝苦しい夜中の読書にぴったり。体調不良な子供を見守り(?)ながら読みました。 萩尾望都がコミック化していて、そっちの方も有名ですが、私はあえて原作派。萩尾望都の絵はとても好きなんですが、どうも表紙の阿修羅王のイメージが、私の中のイメージと違っていたので、今までコミックを読む気になれずにいます。 純SF好きの友人は、「傑作だけど、最初とっつきにくかった。海の場面がかったるくて・・・」と言うのですが、 寄せてはかえし 寄せてはかえし かえしては寄せる波の音は、何億年ものほとんど永劫にちかいむかしからこの世界をどよもしていた。 ――光瀬龍『百億の昼と千億の夜』 という詩のような序章は、私が最も好きな場面で、だから海に行くとき持っていったのです。 でも、豊かな海の場面はここだけで、あとはこれでもか、これでもかと、砂漠や岩原、氷原などの茫漠とした死の広がりが描かれています。 『星を継ぐもの』『ガニメデの優しい巨人』(J・P・ホーガン)のシリーズが、人類文明への批評をもりこみながらも楽観的に力強い希望を掲げているのに対して、『百億』は徹底的につきはなした目で、人類文明の悲観的終末を静かに語ります。 このさめた終末観は、萩尾望都の『スター・レッド』や佐藤史生の『夢みる惑星』などにも影響をあたえているのだろうと思います。 すべてのものが乾いて、砕けて、風に散って、無にかえってゆく、そして時空の広がりだけが果てしない。そのあまりの凄絶さに、むなしいのを通り越して、何だか心がさーっと澄みわたり冴えていきそうな、そんな読後感があります。 ・・・もっといろいろ感想が書けそうなのですが、私はSFにはうといし、今日は私も不調なので、ここまでとします。