ファンタジーの古典的ネタ本--マンデヴィルの『東方旅行記』
ずっと昔もらった本で、東洋文庫(平凡社)『東方旅行記』というのを再読しました。 これはマンデヴィルという14世紀イングランドの旅行家が、コンスタンチノープル案内から始まって中東の聖地訪問、インド・エジプト・中央アジアや元王朝の中国で見聞した珍奇な風物や伝説をまとめたものです。が、本当にそんな遠方へ旅行したかどうか疑わしく、実は古今のいろんな旅行記や紀行文から寄せ集めた書物だそうです。けれど、この"中世版「地球の歩き方」"は大人気だったらしく、発表後すぐから写本が多く作られたとか。 で、「なるほどマユツバだな」と思いながら読んでいるとこんな記述にぶつかります([ ]内はHANNAが挿入); また、この国[エチオピア]には、いろいろ風変わりな人々がいる。たとえば、一本足の人間どもがいて、彼らはその一本足でたまげるほどすばやく駆ける。それに、その足がまたとてもでっかいので、体全体を掩って日光をさえぎれるほどである。 ーーJ.マンデヴィル『東方旅行記』大場正史訳 これは、ナルニア国物語(C.S.ルイス)の『朝びらき丸東の海へ』に出てくる「のうなしあんよ(Dufflepud)」ではありませんか! 大きな一本足でとんで歩き、寝るときは足をパラソルがわりにする小人です。朝びらき丸は東の大洋を探検するうち、ある島で魔法使いや一本足の人々に出会い風変わりな冒険をするのです。 また、こんな記述も; ・・・[インド国の]海中いたるところに、堅硬物と呼ばれる巨大な岩石があって、自然に鉄を引きつける・・・その磁石のため、鉄釘をうった船はひきつけられるから、だれもあえてその海へははいろうとしないわけである。 ーーJ.マンデヴィル『東方旅行記』 今度は、ミヒャエル・エンデ『ジム・ボタンと13人の海賊』に出てくる<オソロシノ海>の磁鉄岩のことが思いだされます。 さらに、ムルストラクという島には楽園のような城塞があり、ある富豪が大麻を与えた部下たちに暗殺をさせたと紹介されていますが、訳注を見るとこれは暗殺教団を率いた「山の老人」伝説のことだそうです。「東方見聞録」のマルコ・ポーロ一行を襲ったというこの「アサシン(暗殺者)」は、最近ではFGOの「山の翁」で有名かも。 さらにさらに、何カ所かに巨大な蛇の一種としてワニが紹介されていますが、「人間を殺して涙を流しながら食う」のだそうで、これは『ドリトル先生アフリカゆき』に出てくる英語のことわざ”ワニのそら涙 crocodile tears”の由来となった伝説のようですね。 というふうに、あちこちでネタを発見して楽しめる本でした。 また、中世西洋人の目にうつった東アジアの風物の描写で面白かったのは、彼らは巨大な葦(アシ)で家から何からいろんな道具を作る、というくだり。マンデヴィルいわく、引き抜こうとして力いっぱい頑張っても全然抜けないほど巨大な葦である。わかりますか、これは、竹のことでした!