"悪者"のいない、さびしいあたたかさーー『プリンタニア・ニッポン』4巻
最近もっとも気になるコミックス『プリンタニア・ニッポン』の第4巻がさきごろ出ました! 以前にも日記に書いたのですが、"さびしいあたたかさ"を心地よく感じるSFです。癒やし系ペット「プリンタニア」と、希薄で繊細な登場人物たち、そして見え隠れする終末後の世界設定が、絶妙に混じりあってじわじわ来ます。 以下ネタバレ! 第4巻では、この世界の子供たちが教育課程で必ず行う「凪の劇」が紹介されます。それは主人公佐藤46(また書きますけど、砂糖・白、というか佐藤四郎くんですね)を始め「現行人類」の、ルーツを物語るいわば神話でした。 神話というと、たとえばキリスト教等の創世記で、原罪(神に服従せず知恵の木の実を食べた等)と楽園喪失が語られますが、これは人間が人間である以上必然的な運命とも思えます。なんとなれば、禁を破っても本質を見極めたいという知への欲求、それこそが人間の特性で、いろんな神話や伝説に語られてきました。 この物語の「現行人類」も、生みの親であるシステム「大きな猫」に服従せず、猫が設定した安全領域の壁を破って外界に出て行ったのです。 自らの目で確かめたい ーー迷子『プリンタニア・ニッポン』4巻 と言って。(何だかトールキン『シルマリルリオン』でノルドールが神々の国から中つ国へ自主的追放となる話を思いだしてしまいました。) そして最後の旧人類マリアは「大きな猫」の制止をきかず彼らを助けに行って「残兵」に連れ去られ、さらにマリアの専属AI?ハリスもマリアを追っていき、破壊されてしまいます。さらに破れ目から「残兵」が侵入し安全領域は危機に瀕しました。 それでも禁を破った彼らを”悪者”とはとらえず、 進むことが/私達の償いです ーー同1巻 共に在るために/進むことが私達の償いなのです ーー同4巻 真理は我らを/自由にする 知ることで/広がることもあるし省みることもできる ーー同4巻 彼らを最初外に出さなかった「大きな猫」は、人類を守るためにプログラムされたシステムであり、しかもシステムなりの感情?でしょうか、 猫は再び失うことが嫌でした ーー同4巻などと動機が語られ、禁を課した判断も”悪”ではないとされています。さらに、破局のあと、猫は彼らへの理解を深め、外に出ることに同意しました。 残された「現行人類」である佐藤たちは、この壮絶な神話を子供の頃から劇として思考基盤にすりこまれています。だからでしょうか、彼らは私たち(というか、昭和な読者であるHANNA)からすると、非常に繊細で臆病でこわれやすい感じがします(ひょっとすると令和の若者たちはみんなこれぐらい繊細なのかもしれませんね)。だから登場人物全員がいとおしい。きっとプリンタニアたちもそんな気持ちで現行人類に寄り添っているのでしょう。 ”悪者”のいない物語。佐藤たちを脅かす「残兵」も、もとは旧人類が自衛のために?創ったロボット兵器のようで、「彼岸」の奥の幻影では、 お帰りなさい/・・・帰還をお待ちしていました ・・・お守りします ーー3巻などと、自国民にとっては心強い警護ロボであったことがうかがえます。 "悪者"はいなくとも、世界は破壊され、旧人類は失われ、その喪失と後悔を抱えて現行人類は未来を切り開かねばならない。劇のあと、塩野1が危険な外地へ知識を得に行く決意をし、皆は心配しつつそれを止めないのが、象徴的でした。 価値観の多様化の叫ばれる今日この頃に即した、せつなくさびしいけれど、よるべなくはかないけれど、まだまだかたよりや不足があるけれど、一生懸命であたたかい、そんな世界の物語。 そうそう、色々と次に来る種明かし(この物語流にいうと、開示される情報)を想像して楽しむこともできます(以下勝手な予測をふくむ); 1,かなり衝撃の「おまけ」つき。はなから怪しかった永淵さんは、ほんとの永淵さんでないことが判明。過去の壮絶な体験ののち、親友永淵の遺志を継いだのですね。劇の時ひとりでさびしがる永淵さん、ぼろぼろの白衣の上半身を大切にする永淵さん、泣けます! 2,プリンタニアたちが「うえがぐるぐる」してる、危険かどうかは「きてみないとわかんない」と言ってるのは、過去の破壊に際して宇宙空間に逃れた旧人類が帰還しようとしているのでは! 劇中の猫の「旅の友」というのは彼らのことかも!