『リスとお月さま』――リアルな絵でユーモア満載!
パラパラめくると写実的な美しい絵がつづき、モノクロのページもあったりして、落ち着いて上品な絵本? と思ったら! 全体のストーリーにも、細部の描写にも、ユーモアたっぷり。すました顔で笑わせてくれます。ドイツの若手絵本作家の作品だそうです。 表紙は、『リスとお月さま』(原題Herr Eichhorn und der Mond 「リス氏と月」)というタイトルどおり、リスが大きな黄色い満月?に頭を押しつけているような絵ですね。本文も、 ある朝、リスはびっくりして目を覚ましました。お月さまがリスの家におっこちてきたからです。 ――メッシェンモーザー,ゼバスティアン『リスとお月さま』松永美穂訳などと始まるものだから、うっかりほんとに月だと思って読み進んでしまいます。 ぼくが月を盗んだと思われたら大変だ、とリスはあわてます。で、ページをめくると突然モノクロの牢屋の絵。鉄格子がはまり、囚人(人間の男)がうなだれてつくろいものかなんかしていて、室内には寝台とトイレ(便器)しかなくて・・・、何ともリアルすぎる暗い絵。よく見ると、リスもその牢屋の中にいます。これはパニックになったリスの頭の中の想像風景なのですね。 リスが月を押してころがすと、「月」はハリネズミの上に落ちたり、ヤギの角に刺さったりします。そのたびに心配性なリス氏が、ほら君も月を盗んだ泥棒ってことでつかまったらどうするの?と騒ぎます。そのたびに、どどーんと暗い牢屋の絵が挿入される。まるで動画を見ているようです。 結局、「月」は臭い始め、ネズミがやってきて食い散らかします。ここに至って読者は、あ、なーんだ、そうだよね、月なわけないよね、これは(ネタバレ→)チーズだよ! と気づいたりします。 実は、いちばん最初のページに、のどかな田舎道の荷車から転げ落ちる「月」ならぬチーズの絵がちゃんと描かれているんですけどね。 読み聞かせにどうかと検討されましたが、日本にはなじみのない形のチーズが果たして子供に分かるだろうかということで、見送られました。手にとってじっくり楽しみたい絵本です。 同じ作者の『リスとはじめての雪』『空の飛びかた』も面白そうです!