成田美名子『天の神話地の神話』
成田美名子というと、『エイリアン通り』や『Cipher(サイファ)』連載当時、友人から借りて読んでいましたが、『天(そら)の神話地の神話』はこの二つの長編の間に発表された前後編の短い話で、当時は「近未来SF」と銘打たれていました。 新装版では「ファンタジー」とうたわれているのが、何か時代を感じさせます。「ファンタジー」って言葉がそれだけポピュラーになったんだなあ、と。 舞台は、CRACKED MOON ISLAND(ひび割れた月の島)と呼ばれる島。 その昔/この地には/白馬の姿をした/神が/住んでいた やがて/この楽園に/ヒトが/現れた たちまち/争いが始まり/大きな戦いがおこり 長い/冷たい冬が/地表をおおった 馬たちは/愛想を/つかして/月へと移住してしまった この土地からは/けっしてきれいな/月は見えない いつもひびが/入ってる 罰なんだよ/これは ――『天の神話地の神話』成田美名子 最終戦争で文明がほろびた後の地球で、生き残った人々・・・という設定は、たしかに80年代SFのオハコです。また、その残存人類が「天の人々」と「地の人々」に分かれて対立してしまい、その二派のかけはしとなるカップルが、悲劇的な死を遂げ、彼らの忘れ形見が成長して真相を知り・・・というと、中山星香の『フィアリーブルーの伝説』なんかもそういう筋書きでした(これって古典的テーマだけれど、SF史的に考えてみると冷戦時代の産物なのかもしれません)。 ともかく、設定だけSFなファンタジー『天の神話地の神話』では、そうした2種族の血を引く忘れ形見の少女ヴィーが、人間たちの反目やそのはざまに暮らす超能力者たち(妖精)の歴史を知り、自分のルーツを知って、小さな島に分かれて暮らす人々をどうにか仲直りさせようとします。 けれど、天真爛漫な無邪気さだけでは、とうてい不可能。成田美名子のほかの話なら、ヴィーのテンネンな純粋さが次第に周りの人間を変えていく過程が長々と描かれるところなのでしょうが、ここでは紙幅の関係かぐっと簡潔(ご都合主義ともいう)に、突然襲ってくる地震と津波のごたごたで、天の人々・地の人々・妖精の三者がヴィーを中心に顔を合わせ、急転直下に和解が成立します。 そのあたりはだいぶハショッている感じなのですが、印象的なのは、このクライマックスに、津波の波頭が、駆けてくる白い馬たち(戻ってきた神々)に見える、というところです。そのシーンがカラー見開きになってますが、それを見て、ああ『最後のユニコーン』のクライマックス・シーンだ! と思いました。もちろん、ツノはなくて白馬なんですが、神的存在であるところは同じです。 押しよせる波とともに駆けてくる無数の白馬たちの美しさ。それを描き出す成田美名子の淡いタッチのカラーイラストが夢のようにキレイで・・・。このシーンゆえに、私はこの物語を今でも記憶しています。 そうそう、『エイリアン通り』の人気脇役セレムが、若き賢者(魔法使い)として登場するのも魅力。