こころに映るよしなしごと

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  その土の上でその空気中でその酒を飲んで

  隠れ家のおやじと鍋をつつく。秋田からきりたんぽなべを持参して、台所を借りて作る。初めて作るので戸惑いながら、どうにか出来上がる。高級品でも希少品でも絶品でもない、隠れ家がある町にある造り酒屋が作った、ありふれた酒を買う。この町の空気を吸って、この町の土の上に座って、この町の水を飲んで、この町の酒を飲む。冷やしも燗にもせず、そのまま猪口に注いで飲む。偏屈なおやじも普段飲まない日本酒なのに、勝手にぐびぐび飲む。昔は嫌いだった甘口の酒が五臓六腑に染み渡る。しかし、鍋のセリはどうしてこんなに美味しいのだろうか。

  2012.10.07

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  油揚げは、焼いて、醤油をかけて、白いご飯で食べるのが一番

  あまりの猛暑のため、毎年夏場にも訪れていた隠れ家に、涼しくなったのでやってきた。隠れ家には冷房装置がない。大きな湖の近くの町の豆腐屋が峠を越えて油揚げを売りにやってきた。どうやら、一人息子が小さい時に囲炉裏に手を入れて大やけどを負ってしまい、そのお母さんがお参りがてら、隠れ家のある町まで来ているらしい。その油揚げは肉厚で、まるで厚揚げのようだが、繊細さは油揚げである。魚焼き用の網を使って、時間をかけてじっくりと焼き上げる。少しずつ少しずつ、油が滲み出て、こんがりときつね色に焼きあがる。炊き立てのご飯と一緒にいただく。あとは何もいらない。生きている幸せをかみしめて、喉を鳴らす。

  2012.10.06

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  カラオケボックスでギターを弾く

  夏の疲れが出たのか、いろいろとつまらないことで忙殺されたからか、何だかいろいろ嫌になって、隠れ家に赴く。途中、とある街に立ち寄る。ギターガールが住む街で、カラオケボックスで夕食を食べる。いつも一緒のギブソンＪ－45を抱え、カラオケなどを歌う。興が乗ってきたので、ケースからギターを出して、「家族になろうよ」などを弾いて歌う。ギターガールもギブソンを弾いてみる。女性が持っても似合うギターだと思う。ふくらはぎが痙攣するほど乗りまくって、隠れ家に向かう。疲れたけれど、気がつけば、少し気分が上向いている。隠れ家につくと、黒猫が玄関にちょこんと座って待っていた。夜になると寒くなって、猫も布団に入ってきた。やわらかい肌触りと冷たい鼻の頭に癒される。

  2012.10.05

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  秋田より涼しい東京麹町で抹茶ぜんざい

  　秋田の今日の気温は35℃らしい。東京は31℃と、比較的過ごしやすい。台風が近づいているからか、風が吹いて、汗が乾く。　しかし、半蔵門駅を降りて、坂道を下がったり、英国大使館前の坂道を、投石も略奪もせず大人しく登ったりしていると、なんだか乳酸が溜まってくるような気がする。　そんなわけで、東京エフエムとビルつながりの甘味処「おかめ」（puffyがお気に入りらしい）に入る。なんだか、反物屋か仕立て屋に入ったような佇まいで、珍しく、抹茶ぜんざいなどを頼む。人心地つく。　さあこれから、番組の収録だっ、というわけではなく、某所に行って謀議をはたらく。

  2012.09.18

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  杜の都のじゃずフェスの前の暑さ

  久しぶりに仙台に来た。こちらも暑い。牛タンでも食べようかと思ったら、仙台駅構内の牛タン通りの店は昼前にもかかわらず行列だった。仕方なく、定禅寺通り近くの蕎麦屋で、年配のご夫婦と相席で大ざるを食べる。食後に勾当台公園を散策していると、土日に予定されているジャズフェスの会場に出くわす。日比谷もそうだけど、緑多き公園内の野外音楽堂はいいものだ。野外ライブの、あの、音が空に吸い込まれていく感じが、いい。一瞬、幻想にたゆたって、現実に戻り、会議会場に向かう。

  2012.09.07

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  市民オペレッタのゲネプロで過ごす暑い夏の午後

  ひょんなことから、とある市民参加の歌劇の公開リハーサルを見に行く。市民ホールの１階席の一部をオケピットにして、２台のシンセサイザーとＰＡとティンパニーだけが入っている。数台のビデオカメラと演出とスタッフが客席に座り、本番と同じ舞台と衣装そして進行だが、時折、立ち位置のチェックが入ったりする。弦楽器の微妙なビブラートは無理だが、それなりにいい音具合完成されたものを当然のように見るのも結構だが、それまでパートごとに確認していたものが初めてその全容を現す通し稽古（ゲネプロ）は面白い。比較にならないが、本番直前に通しで数十分の演奏をする時が一番リラックスして状態が良いような気がする。まあ、本番にcoco一番の力を発揮するのがプロなんだろうけれど。そんなわけで、まったく似合わないオペラ鑑賞は、それなりに楽しめたということです。。

  2012.09.01

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  暑い夏に夕日を見て空を見ず

  八月も終わろうとしているが、暑気はまだまだ健在である。そんな夏の日に、つらつらと、廃屋やら廃工場やら、夢のあとの静寂という涼を求めて、彷徨う。とある丘陵地帯に行き当たり、なだらかな丘の上から巨大な夕日を見る。画像に残そうと携帯カメラを向けてレンズ越しの風景を見ると、不思議な色合いの雲に気付く。夕日ばかりに気が行っていて、空を眺める余裕がなかった。それは何も暑さばかりのせいではなかろう。日が沈んでも、暫く、不思議な雲が浮かんでいた。

  2012.08.29

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  オリンピックイヤーなので夏のカーリングに興じて海人カレーを食う

  今年は４年に一度のオリンピックです。オリンピックと言えば、チーム青森が活躍したカーリングに尽きるでしょう。というわけで、屋内のカーリング（ユニカール）をするために、海沿いの青少年体験宿泊施設の蒸し暑い体育館にやってきた。なかなか楽しく、夏休みの大雨の日に家の中でヤクルトの空き瓶に軟球のボールを転がして遊んだ廊下のボウリングを思い出した。汗をかいて汗を拭いて温泉に入って、海人カレーを食べる。噛みづらいタコと後からくる辛みで、無口になる。困ったように笑う向かいの女性は何を書いているのだろう。人生はカーリングのように思い通りにはならないとでも書いているのだろうか。そう、８月が終われば暑さも終わるというわけではないのだ。

  2012.08.26

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  暑い日の都市公園

  能天気に晴れた空と、人と金をかけて手入れされた公園と、帝国ホテルなどのビル群を見ていると、古いアメリカ映画を思い出す。女性たちはブロンドの髪をウエイブさせ、ブルーのヘアバンドをして、膝上のワンピースにハンドバッグを抱えて、後ろを気にしながら渋谷の東急百貨店のエスカレーターに乗る。地下の食品売り場には、噴水式のジュースの販売機があり、紙コップを準備して甘いジュースを飲む。屋上の遊園地は、あまりの暑さに人気がなく、ストライプ模様の日よけが伸びたゲームコーナーで、シンプルなピンボールマシンに興ずる。渋谷からの東横線の電車代50円は、学帽の校章の裏止めにあるので、両のポケットが老犬の耳のようになっても心配することはない。

  2012.08.25

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  蝉しぐれの日比谷公園で会った江戸の変化朝顔は「変顔」？

  所用があって朝の日比谷公園をぶらぶらと通り抜ける。園内清掃の勤労奉仕隊とすれ違ったり、悠々自適の往年のテニスボーイがいたり、朝からベンチに寝転んでいるサラリーマン風がいたり。木蔭を縫うように歩いていたら、涼を呼ぶような朝顔展に出会う。江戸の頃より受け継がれていた、変化朝顔の展覧会だった。自宅で育てる用に種をいただく。花の形状が手裏剣のようだったりする変化朝顔だが、字面で見ると、どうも「変顔」に見えてしまうのはどうしてだろう。蝉しぐれの中、一服の涼をもらう。しかしまた、汗が流れてくる。

  2012.08.24

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• 土砂降りの雨の中、最後の夏祭りライブの最後のリハーサル

  　毎年恒例の、夏祭りライブの日が近づいてきた。　今年で最後になる。振り返れば10年間、続けてきたことになる。　ギター１本から始まって、華やかな女性ボーカルが夏空に響いた時もある。　今年は、派手な演出も何もなく、パンクをオープニングに、走っていく。　今年目新しいものと言えば、ストレートのマイクスタンドを購入して使うことぐらいか。　若さにまかせたように熱く、最後の夏を駆け抜けて散ることにしよう。　

  2012.07.16

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  孤独の日帰りトレッキング～信仰と救済の房住山　その８～

  　気温はさほど高くなかったが、全身汗まみれになって、車の中でＴシャツに着替える。　　　　山は新緑に輝いている。何だか知らないが、体中に「山の気」というか生き物のエネルギーが満ちているような気がする。　途中、扇の滝の看板を見て立ち寄る。吊り橋の向こうに清廉な瀑布が見える。山頂でコーヒーを飲みながら食べようと思っていたアメリカンドックを食べる。気が付いたら腹がぺこぺこに減っていた。そういえば朝はバナナ１本だけだったな。　次なる山は、ケンシローの山版のような、七つの山頂（座）を持つ「七座山」か、ぽつんとひとつ隆起した「森山」か、あとは体力と天候次第。必ずや山頂コーヒーアンドアメリカンドックを達成するぞ。　山の元気を身にまとい、街に戻っていく。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〈おわり〉

  2012.06.03

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  孤独の日帰りトレッキング～信仰と救済の房住山　その７～

  　下山しながらいろいろ話をする。山が好きな人と、かじりかけの山の話をすると楽しい。　花の名前を教えてもらう。訳も分からず、咲いている花を撮影していたが、「羅生かづら」というらしい。花が片方にしか咲かないので、羅生門で片腕を切られた鬼にたとえて名がついたらしい。ふ～ん。なんで鬼なんだろう。　あっという間に通常ルートの駐車場に辿り着き、車まで送っていただく。山頂と同じように気持ちのいい風が吹いた。

  2012.06.02

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  孤独の日帰りトレッキング～信仰と救済の房住山　その６～

  　その後は一組の御夫婦（熊よけの鈴と携帯ラジオを流している）や、ストックを持った中年男とすれ違ったりして、何だか、「山登りだよ、やっほー」という感じになってきた。　眼下に見えだした風景も、「なんだか、遠いところや外国に行かなくても結構いけるじゃん」と思わせ、今自分がいるのが、ロッキー山脈の麓の山なのか、昭和後半のどこかのひなびた山なのか、わからなくなる。　少し急な坂の上に展望台が見え、ようやく、（通常は１時間）１時間半の登攀を終えて、山頂に辿り着く。展望台の上からは、遠くの山（踏破を狙う森山）や海沿いの火力発電所などが見える。気持ちのいい風が吹いてくる。しかし、今来た道を帰るルートを思うと気が滅入る。仕方ないので、通常ルートに降りて、そこからテクテク道路を歩き、登山口の車まで行くことにする。　しかし、救いの神はどこにでもいらしゃるようで、山頂で一緒になったご夫婦が通常ルートに停めた車で送ってくださるとのことになった。孤独のトレッキングがテーマであるが、背に腹は代えられないので、山頂コーヒーは断念して、奥様の美味しい塩味が効いたリンゴ（吉田拓郎）をいただいて、下山する。今まで来た道とは打って変わって石段などがある、良いコースだった。しかし、登るより降りるほうが難しいということを身を以て知ることになる。膝が笑って笑って大笑いして大変だった。ふうっ。〈つづく〉

  2012.06.01

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  孤独の日帰りトレッキング～信仰と救済の房住山　その５～

  案の上、大変な坂道だった。太いロープが急な坂道の上のほうまで続いていて、ロープを手繰りながら、体を地面とほぼ垂直にして、腕の力で登っていく。おいおい、エレキギターでロックはやるけど、これじゃあロック・クライミングだぜえ、などと頭の中でジョークを言うほどパニック気味になる。　ロープを持つ手を離さないように、途中の木に身を寄せて休む。崖の向こうに今まで歩いてきた峰が続いているのが見える。食事の量を減らしたり怠惰な軽い運動をするよりも、こうして実践で「体が重いと腕で上げられないよ」「体重は第二のリュックだよお」と体が感じて減量するのが即効性があるような気がしてきた。　気が付くと（いつもそうだが）、坂道は終わっていた。その先に平坦な土地があり、すわ、山頂かと思いきや、まだまだ登山行は続くのだ。〈つづく〉

  2012.05.31

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  孤独の日帰りトレッキング～信仰と救済の房住山　その４～

  どうやら本流のルートに入ったようで、「天下森」へのルートを案内する看板を過ぎる。ひたすら山頂を目指して行くが、なかなか辿り着かない。そうこうするうちに、垂直の岩の壁が木々の間から見え、「台倉の坂」に着く。　案内板を見ると、「急峻な坂」「ババ落とし」「姥捨て山伝説」などと書いてある。少し足に来つつあったので、迂回ルートを通ろうとして「冒険コース」の表示が目に入る。途端に、ムラムラと根拠と意味のない冒険心が湧き出して、気付くと「ババ落とし」の坂に体は向いていた。おいおい、大丈夫かよ。周りはカッコウの声しかしないぜ。〈つづく〉

  2012.05.30

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  孤独の日帰りトレッキング～信仰と救済の房住山　その３～

  まるで先の見えない人生のような、登っては休み、少し平坦になったかと思えばまた急峻な坂となり、少し下ってまた登ってを繰り返す。ふと傍らの木々の向こうを垣間見ると、麓の山がかなり下に見える。少し気を取り直して、「ヒーヒーフー」といつか覚えた呼吸法を思い出し、上を目指す。　ようやっと、石像に辿り着く。何故か「２番」の聖観音様だが、後で確認したところ、１番は登山口の道路向かいにあったようだ。自然と帽子を脱ぎ頭を垂れ目を閉じる。　その後、３番以降の石像に辿り着くたびに（それまでの道のりが険しいほど）何だか信仰心のようなものが芽生えそうな気がした。人生の負荷と救済を具象化したものに求める信仰に触れたような気がした。　しかし、「初心者にとってはやはり大失敗だったか」との疑念は払拭できないまま、人っ子一人いない山道を歩いて行くのである。〈つづく〉 

  2012.05.29

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  孤独の日帰りトレッキング～信仰と救済の房住山　その２～

  登り始めから急峻な坂道で、5分登ったら傍らの樹木に手をかけて、ひーひー言って休む。緩慢な平坦な道の1時間ウオーキングなどといったものなど何の役にも立たないように、太もも膝ふくらはぎ足首がきしみだす。見上げても鬱蒼とした木々が見えるだけで、その先がどうなのか皆目見当がつかない。そんな中、「こんなことするんじゃなかったという後悔」「みんなこの時間はゆっくり朝食でも摂っているんだろうなという世俗へのよろめき」「戻りたくてもこの坂じゃあ戻れねえやというジレンマ」が頭の中で噴出してくる。急激な行動は大失敗だったのか？〈つづく〉 

  2012.05.28

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  孤独の日帰りトレッキング～信仰と救済の房住山　その１～

  さあ、やってまいりました、待ちに待ったトレッキングの季節。実際のところ、小学校の時に2千メートル弱級の山に登ったことがあるぐらいで、経験的には甚だ難があるが、「自然の中で孤独になりたい」をメインテーマに、とりあえず、そこそこ低そうな山に登ることにする。最初は、秋田市からほど近い標高409メートルの房住山（ぼうじゅさん）に行く。適当に荷物をリュックに詰め、一見トレッキングシューズに見える実は普通の街靴を準備し、まるで遠足かスキーに行く前の晩のように、なぜか眠れず、5時起き予定が6時となる。しかし、アローンハイクのいいところは、誰からもなんだかんだ言われないことだ。まあ、成り行き任せで、ローソンの店員と分かりにくい標識と、集落の郵便局前にいた軽トラのやさしいおじさんに導かれて辿り着く。しかし、通常1時間ルートではない、なぜか、1番の観音石像付近からのルートから登ることになる。これが実は大変なルートで・・・。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〈つづく〉

  2012.05.27

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  君と最初に行った水族館で見たものは

  秋田県から逃れるように朝鮮半島方向に突き出た男鹿半島の突端近くにある、水族館に行ってみた。平地がほとんどない断崖と山の間の道を行くと、まるで、絶海の孤島（ゴジラとミニラ）か、lost（ダーマが作った道路？）の世界のようだ。すれ違う車もほとんどなく、途中のドライブインは廃墟と化し、果たしてこの先に水族館なぞあるものか？こじんまりとした水族館が崖の向こうに姿を現し、期せずして、今日は秋田県の防災の日（日本海沖地震と津波が発生）だったことを知る。日本国や欧米、亜細亜の観光客ともども薄暗い館内を廻る。クラゲの展示スペースの前でふと立ち止まる。君と初めて行ったサンシャイン60の水族館で君がずっと見続け（僕が具合が悪くなった）たものは何か。「くらげ。たくさんのくらげ。」（ねじまき鳥クロニクル）海でみかけるとぞっとするけど、こうして安全に観察すると、何にも拘束されない自由な魂の浮遊のように見える。

  2012.05.26

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  指輪はないけど、1年で2番目に注目された今日の太陽サン

  　まさか、秋田県でも部分日食がみられるとは思わず、何の準備も無く、無謀に裸眼でメドウサを直視する蛮勇もなく、妙に茶色に光彩のトーンが落ちた朝の街を真ん中より下目線で歩いていた。　仕事を終え、ほとぼりもさめた夕刻、1月1日以来、注目された太陽がちょっと赤らめて沈もうとしている。目の前を月が横ぎったからって、いつも地球を注視しているわけではないだろうに。お疲れ様でした。

  2012.05.21

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  野山歩きに良い陽気だけど、とりあえず庭でアウトドアコーヒー

  長い冬の終わりがおわって、ようやく初夏のような春が来た。冬の訪れの前のしまりすのように、アウトドアグッズをこつこつ買いためていた。諸般の事情で野山に行けないので、とりあえず、試しにガスバーナーでお湯を沸かしてコーヒーを飲んでみる。何だか旨いような、ふつうのような。野山をテクテク数時間歩いていないからだろうか。週末の天気と都合に期待して、また、一週間を走り出す。

  2012.05.20

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  5月の雨は恵みの雨か

  ４月に育苗ポットに蒔いた、朝顔の芽が、５月の緑雨を浴びてようやっと出てきた。不自然な人間の自然な暮らしには、雨や低温や高温は好ましいものではないが、自然な自然界の自然な暮らしには、それらも大切な恵みなのか。今年こそ、健全な沢山の朝顔の双葉を育てて、涼風を呼ぶ緑のカーテンを作りたいものだ。そしてできれば、食べられる野菜なども少し。   

  2012.05.14

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  雨の日の快適

  朝から雨の日は、できれば家の外に出ることなく過ごしたいものだ。一日中雨の日は、テレビよりラジオが似合う。もしもかなうなら、自由ヶ丘の「マジョリカ」で午後のアンニュイなひとときを客のいない店内で棒編みをしながら過ごしているママが聞いてたＦＭ東京から流れるバラードなどがよい。それでもこうるさいラジオ番組しか残念ながら放送していない居所であれば、雨の日に鑑賞するのが似合うＤＶＤソフトを、リクライニングに身を横たえて、コーヒーでも飲みながら見るのもよい。部屋の中には、いまお気に入りのかおり（pure clean soap）が満ちている。

  2012.05.04

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  ます屋のたまごパン

  隠れ家にいると、世間の風評は耳に入らなくなる。どこそこにある、だれそれが言った、なにがしが、これこれで美味しい、といったことは、隠れ家の１年じゅう取り外さない、今は火が入っていない掘りごたつに座ってお茶を飲んでいる身にとっては、何の意味もない。このまちにぽつんとある、雑貨屋の「ます屋」は何故かパンを売っている。それも自家製のパンを売っている。早朝も夜の６時過ぎも店が閉まっているようなところだが、朝の10時頃に行くと、沢山の幼児とおばさんがいて、たまごパンを含む数種類のパンをショーケースに入れて売っている。行列も宣伝もpopも何も無いけれど、紙袋に入れてもらったたまごパンとブラックの熱いコーヒーが入った水筒を携えて、ひなたのひかげに座り込んで、その匂いを嗅ぎ、咀嚼する時、天上界でお釈迦様と一緒にお昼をむかえているような気さえしてくる。天上界の蓮の池を覗くと、はるかかなたに、グルメ本を抱えた亡者に追われているカンダタが見えるのでございます。

  2012.05.01

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  河原沿いの桜並木を君と歩く

  いつものことだが、隠れ家に来て特にやることはない。ギブソンＪ-45は同行したが、ケースを開ける気にもならない。午後６時に夕食を食べて、９時に就寝、朝５時に起きて６時に簡単な朝食を食べて１時間ほど散歩すると、あとはただ、庭を眺めたり、お茶を飲んだりしているだけだ。河原の土手には桜の並木が続いている。満開の動かぬ桜の不気味さより、散りはじめた頃の風に花びらを託したような風情がよい。河原沿いの桜並木を、桜色した、風のように移り気な、実体のない、君とそぞろ歩く。

  2012.04.30

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  隠れ家は過ぎゆく春とモニタリングポスト

  少し疲れたので、久しぶりに隠れ家に行く。秋田市は４月中頃まで雪が降っていたが、隠れ家付近は初夏のように暑い。半袖のTシャツに着替えて、支那そばを食べる。食後に街中を散歩するが、相変わらず人の往来はほとんどなく、郊外の農地で夫婦が農作業をしている。街の中心あたりにある郡役所の前には、堅牢なモニタリングポストが設置されていた。墨田区から送られた桜の老木から、風のように水のように桜の花びらが流れ出している。   

  2012.04.29

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  桜が咲いたよ、ようやく咲いたよ、青空の下で風に揺れるよ

  ようやっと、ほんとうに、ようやっと、暖かい日が続いて、日本海沿岸の北緯40度線にある秋田の街にも桜の便りが届く。秋田気象台の標準木の桜に会いに行く。ひとつひとつの小さな花が桜の木全体で咲いているようだ。中にはまだ蕾あるけれど、稽古不足を幕は待たない。マクロとミクロ。各論と総論。個人主義と全体主義。そんなことはどうでもいい。ただ、桜が咲いている周囲は、なぜか森閑と、静かだ。 

  2012.04.24

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  焼鳥屋いちの酉で鳥皮食って、刈穂の冷に酔う

  忙しいばかりで、何だか、あまりぱっとしない４月が始まって数週間。ここいらでちょっとリセットしようぜ、ということで、変な日本家屋作りの秋田市山王のいちの酉へ。お得意の一番奥の部屋をキープして、まずは絶品の鳥皮と生ビールで走り始める。中盤から、辛口の名酒「刈穂」を冷でいただく。五臓六腑と焼鳥に染み渡る。常識がぐらっとすこし傾いて、益々、座は収束と拡散を繰り返す。  引き際は、大人らしく、ぱっと引き上げる。

  2012.04.21

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  梅は咲いたが、桜はまだかいな

  好天が続いている秋田だが、朝の通勤途中、ふと、梅の木に近づいてよく見ると、二、三輪の白梅が咲いていた。梅が咲かねば桜は咲かぬ。桜咲かねば、皐月も来んわいな。  

  2012.04.20

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• 3月30日のきんようび

  年度末最後の日だ。スーツとネクタイとマスクの戦闘服で奮い立たせて職場に行く。みんな声は掛けてくれるが、仕事は容赦しない。だからこっちも仕事に容赦しない。夜にはもうヘトヘトになる。ヒーローのように無敵で無限の力があれば、今ここから南へとひとっとびで行けるのに。非力な自分を恥じる。

  2012.03.30

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• 具合の悪い時は意味不明なナイトメア～悪夢を見る

  熱があって眠りにつくと、意味不明の夢の世界に落ち込み、不条理の世界で生真面目に奮闘している。そんな世界を何かで再現できればジキルとハイドや、夢十夜などが生まれるのだろうか。貧困な想像力からは、対して面白いものも生まれないだろう。

  2012.03.29

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• 恒例？の年度末発熱性消耗性疾患でしっかり一日眠り込む

  月曜日にくしゃみが出て、こりゃあ去年デビューした花粉症かなと思っていたら、火曜日に悪寒がした。一体どっちだろうと思って、仕事を休んで耳鼻科に行くと、ドクターも迷ってしまい、抗アレルギー剤と漢方の風邪薬の処方を受ける。薬が効いたのか実際風邪だったのか、まる一日眠り続ける。しかし、体調は回復しない。

  2012.03.28

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  ブラバンジョイントミニコンサート余話～廃校教室がパワーステーションスタジオ～

  昨日、春の雨の中、あっという間のブラスバンドとのジョイントミニコンサートが終わった。例によって例のごとく、ライブの翌日は虚脱状態だ。週に1回程度、練習しただけだったが、練習会場は、廃校になった小学校の空き教室だった。管理のおじさんが時間前から石油ストーブをガンガン焚いていてくれたので暑いほどだった。床が板張りの教室は、さながらハドソン川沿いのパワーステーションスタジオのようだった。暑い教室から廊下に出ると、ひんやりとした空気があった。何だか狭くて小さい廊下の先には小さきものたちの未来があった。

  2012.03.18

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• ママさんブラスとのジョイント　ミニライブ

  週いちで練習してきた、ママさんブラスとのジョイントのミニライブは、昨年のクリスマス会のサンタ帽をかぶってのものより、何だか一体化したというか、「不良な」ギターが入っていてもまあ、いいんじゃないか、と思えてきた。メンバーの一人（スイングガールズの関口似だが担当はフルート）がご主人の転勤で離脱するので、ライブ後、子供たち中心で打ち上げをやった。もちろん酒は出ないのだが、大好きなアメリカンドックが出るというのでよろこんででた。遅れて参加して「アメドはあるか！」と物色していたら、子供たちが珍しそうに「アメド、アメド」と言っていた。２本も食べて、３本もお土産にもらって、とても幸せ。１歳の男の子がヨチヨチ寄ってきて膝の上に乗って抱き着いてきたが、何だか、とっても懐かしい感触だった。子供ってほんとうに軽いね。お礼と言ってはなんだが、一日かけて、新型ＰＣ（ローン２年）を駆使して、洒落た編集のＤＶＤを作って渡すこととした。外は春の細かい雨が降り続いている。  

  2012.03.17

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• 春の雨はやさしいはずなのに

  秋田市は、早朝霙が舞い、雨になった。睦月如月の雨とは異なり、何だかそこはかとなく、優しげ。まあ、暦は弥生なのだから、春の雨なのだろう。ところどころに残雪のある北国はとまどう。倉庫部屋でさみしく仕事をしていても、ふっと目を上げた窓の外に、音もなくやさしい雨が降る。

  2012.03.05

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• たくさんの、まじりっけなしの、すこしだけの、ほほを流れる、なみだ

  春は別れの季節と言ったのは誰だろう。幹は雪を溶かし、木々は芽吹き、草は濃い色になり、すべてが力強く再生を詠う。生まれ変わる季節だからこそか、古い皮が脱ぎ捨て去られるように、それまでの束縛から抜け出た若い魂は、頼りな気に遠い青空に飛び出していく。その直前に流す涙は、まじりっけなしで、当の本人が驚くほど唐突に頬を流れ出るが、涙はすぐ乾き、言葉が出ないほど嗚咽したことなど忘れるほど、流れの速い時の川を渡らなければならない。   

  2012.03.01

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• 滞空時間の長い雪がまるで白い桜の花びらのように舞う日

  日中の天気は良くなったが、晩は冴え返すこのごろ。仕事の手を止めてふと窓の外を見ると、滞空時間の長い白い風花が空中に舞っていた。もうすぐ桜三月散歩道の三月。シベリアと朝鮮半島にほど近い北国では、桜の花びらのかわりに、白い風花がさみしさとよろこびと不安と期待を攪拌するように、ふわふわと舞う。  

  2012.02.29

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• 寒気の緩みと気の緩みと転倒むち打ち

  すっかり長い冬に飽いて、ちょっと寒気が緩んだら気も緩んで、駐車場のブラックアイスバーン（黒いアスファルトが透明に凍結）に朝の雪が積もったところをサッサと歩いたら、見事に転倒して腰、次いで後頭部を打った。あまりにも見事に大外刈り一本！といったキレのある技だった。しかし、後頭部を痛打してしばらく動けず、その後は一日何だか頭が重い感じがした。 翌朝、おかげさまで頭痛は止んだが、首が痛くて起き上がれも寝返りもできない。どうやら咄嗟に首の筋肉が強張って頭を守った、らしい。所謂、むち打ち症状。一日休んで、首に病院から渡されたバンドを巻いて、ぼーっとする。寒気の緩みに気の緩みは気をつけよう。  

  2012.02.15

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  荒海や。やさしい日本海だって荒れるときはあるのだ

  何だか息の長い冬の日々に辟易して、日本海が見える日帰り温泉に行く。春や夏や秋だと、沈む夕日や夜の闇に浮かぶ漁火？や満天の星を見ながら熱い湯につかっていたが、今日は、荒れ狂う日本海の海だった。だけど、週末に温泉に入ると、一週間の疲れが真綿の袋に固めて出されて、翌日の朝は、ぐったりするけれど、気持ちと体の切り替えには良いものだ。  

  2012.02.12

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• 今月の気になる外食～吉野家の豚丼～

  連日の吹雪が昼ごろに止み、雪国に白と青が浮かんだ。吉野家と言えば「牛丼」「牛皿」「ビール」「中島みゆき」といったところだが、甘いにおいが忘れられず、新製品の豚丼を食べに行く。店内はなぜだか幼児を連れた家族連れが多く（幼児が牛丼に生卵と紅ショウガと七味をぶっかけてかっこんでいるのではなかろう）、数時間前にナッツ（ジャイアントコーンfromアンデス）を食べただけだったので、豚焼き定食を食べる。白いご飯にたれをちょんちょんつけながら食べる。コールスローサラダも食べる。また明日から雪との遭遇だけど、束の間の、甘だれの匂いと屋根からの雨だれの音。

  2012.01.29

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• 縁側に飽きて蟹味噌を過ぎて鮟肝にいる

  　誰の縁側か分からないが、縁側ばかり食べていた時期がしばらくあった。あぶらに飽いて、蟹味噌の密やかな濃厚さに行った。　今は鮟肝にいる。記録的な今年の寒さのせいなのか、何だか体がそれを求めているようだ。　昔読んだ十七文字に、「鮟鱇の～ぶらちぎる」というのがあって、すべてを覚えていないが、この「ぶらちぎる」というフレーズが、冬の荒海の吹雪と厚手の防寒具を通して伝わってくる底冷えと奇怪な鮟鱇の様態とその鍋の美味さを想起させる。　ほんと、「今年の寒さは　記録的なもの　凍えてしまうよ　毎日吹雪吹雪　氷の世界」ですよ、陽水さん。

  2012.01.25

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• 白い雪が空からふわりと舞い降りた

  　あまり記憶力はよくないけれど、なにかのヒントで結びついていて思い出すものもある。　ましてや曲を作ったりすると、その傾向は顕著なわけで。　今年の雪はなんだか冷たいな。

  2012.01.24

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• 小春日和の今日この頃

  12月から断続的にというか継続的に続いていた例年にない雪の多い氷点下の冬も小休止なのか、今週はよく晴れた日が続いた。国道は雪もないが、それはつまり、融雪剤を大量に散布しているということでもあり、つまるところ、そこを走行する車にはナトリウムが含まれた薬剤が付着しているということで、放置すると鉄製の物体はあまりよろしくない状態ということになる。なので、久しぶりにセルフ洗車場に行って車を洗う。車は止まっているのに正面と左右のブラシが向かってくると車が前に進んでいる錯覚に襲われる。自分は停滞しているのに周りが動いていると、さも自分が前に進んでいるかのように思うように。そんなわけはない、と思いつつ、もしかしたら、自分の意志とは関係なく、自分が前に進んでいたりしてと、楽観的に考えないわけでもない。それもこれも、厳しい冬から、いっとき、解放されたかのようなインディアンサマーの青空だからか。

  2012.01.20

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• コンビニで見つけたなみえ焼きそばを食べる

  　高くて旨くても安くて美味くても、うまいことに違いはない。Ｂ級がＡ級になったらＡ級だ。　そんなわけで、10年ぐらい前に秋田県横手市のＪＲ駅前辺りの路地にあった横手焼きそばの店に入って「肉入りや卵のせなどトッピングで値段が違う、手持現金別に食べ分けられる食べ物」と理解したものが、何だか妙な様相を呈している昨今だが、昨年来、いろいろ聞いている「なみえ焼きそば」に関心を持っていたらコンビニでみつけた。　よくある細い焼きそばと違って麺が太く、がつんと来る。紅白歌合戦の福島への歌を思い出してぐっとくる。あっという間に食べ終わる。

  2012.01.14

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• 古本屋の片隅のなんとも落ち着いた空間

  　そういえば、古本屋に最近行ってないな。新書の本屋や図書館の書棚の前をゆっくり歩いて、まるで街角で偶然に運命の人に出会うかのような邂逅を期待するように、時代の相違という悪戯で出会えなかった二人が、古本屋の片隅のなんとも不思議なタイムトラベルのような空間で目が合うように、本屋ではそんな楽しみがある。　時間がないのか余裕がないのか本を楽しむ心すらないのか、ネットや新聞批評・広告で知った本をただ探して買ったり借りたりして読むだけ。　まあ、それだって、買ったり借りたりしなかった無数の本に比べれば運命の出会いなのだろうけれど。　はるか昔。神田の古本屋街をはしごしているだけで嬉しかった頃を思い出す。　店主は大概古本同様に古びた老人かお餅のように炬燵に座りっぱなしの中年女性だったけれど、こんな不思議な店主であれば、古本に用がなくても通ってしまうかも知れない。否、本に興味のない人間は相手にされないだろう。

  2012.01.12

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• いきあたり、ばったり（第２回）

  　アパートを出て住宅街の路地を数ブロック行くと、小さな鳥居をくぐって狭くて細いコンクリート塀が両側にそびえる路地に入る。そこを抜けると、電話ボックスがある街道に出る。電話ボックスの前には10円玉を掌に何枚か抱えた人たちが順番待ちで並んでいた。それを横目で見て、横断歩道を渡る。　富士銀行の先にある板壁の地味な店が「店員も客も男ばかり」のハンバーグ屋だ。細長い店はＪの字に曲線を描くカウンターしかない。できるだけ一番奥の壁際の席に座り、いつものメニューを頼む。　薄暗いこの店のカウンターに座って、有線放送だけど流れてくるのはロックだけを聞いて、不思議な味わいのデミグラスソースとトロトロのクリームコロッケを食べていると、学生紛争からここ30年、何も変わっていないような中央線沿線文化に首まで浸っているような気がする。　「男闘呼組」とでも名付ければよいような店だが、確か、ヌーベルバーグのような名前だった。　一日分のエネルギーとカロリーを450円で摂取して、店を出る。

  2012.01.05

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• いきあたり、ばったり（第１回）

  　僕は、この春から親元を離れて、中央線沿線のボロいアパートで独り暮らしを始めることにしたのだ。郊外の私鉄沿線の街は、何だか田園の憂鬱（佐藤春夫）というか、新興住宅街の無常（今作った）というか、人が生活している実感が希薄な気がして、昔からの古い街に住もうと思ったのだ。というより、何だか変わり映えのしない日常が少し違って見えたら面白いと思っただけなのだ。　引っ越し荷物は、机と布団と段ボール５個分の本と、段ボール１個分の服と、ラジカセとギターだけだったので、多摩ナンバーの軽トラの荷台に自分で積んで自分で降ろして、半日で引越は終わった。小学校の時のＨＲの罰則適用を受けて学校の廊下の拭き掃除をやらされた経験が生きて、部屋の拭き掃除は完璧だった。「人生に無駄なものなし」といったところだ。　玄関とトイレと台所と６畳間と窓がひとつしかない部屋で、家賃は２万５千円だった。軽トラをレンタカー屋に返して、アパートの近くの角の煙草屋で缶入りのコカコーラとハイライトを買って、雑然と段ボールが置かれた部屋に座って、コーラで乾いた喉を癒し、ハイライトを吸った。　正直言って、何の目的もなく独り暮らしをはじめてしまったが、まあ、今までだって、いきあたりばったりだったので、これからもそんな風だろう。コーラを飲み干すと腹が減っていることに気づいたので、駅前にあるカウンターだけのハンバーグ屋に行くことにした。　玄関で靴を履いて、まだカーテンもかかっていない部屋をぐるりと見回し、ドアを開けて閉めて、スタジャンのポケットから部屋の鍵を取り出してみて、自分が独り暮らしをしていることがようやく「じわ～」と感じはじめた。（つづく）（第１回おわり）

  2012.01.04

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• 未完の小説は物語が小さくならない～井上ひさし「一分の一」～

  　12月中旬に図書館から借りて読み切れずに延長してもらっていた井上ひさしの最後の小説（未完）「一分の一」上下巻を正月休みを利用して読了した。　夏ごろに、ロシア抑留を題材にした「〇週間」（〇の数字が思い出せない）を読んだが、今回は（未完ながら）大層面白い。学生のころに読んだ「吉里吉里人」は、脇道の膨大な知識に根負けしてしまったが、本作は、ほどよいスパイス若しくは口直し程度であり、本筋に戻りやすい。主人公が数多くの別人になり替わるので、それがまたいい場面転換乃至は気分転換になる。　　読み終えて、長い小説の最後が期待した割につまらなかったりすることが多々あることを思うと、このお話はフレッシュなまま、緊張状態を保ったまま、ギターの７thコードのまま、永遠に続いていくような気がした。

  2012.01.03

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• 年頭所感そのいち

  　年頭なので、心に映り移ろいゆく所感などを。　〇クールのドラマは２本ぐらいがちょうどいい。　　冬は夏よりまして早寝早起きなので、連続ドラマにはまるのは２本ぐらいがよい。　〇出を制してしまうので「出を計って入りを制す」　　体重減少のためには運動と適量の食事がよいが、運動が絶対的に少ないので食事の量を　　減らすしかないのだろうか。なんだか楽しくないな。　〇あまり余計なことは口走らない　　経年とともに口が悪くなってくるようで、余計なことはしゃべらないようにしよう。しか　　し調子に乗るとついつい、なので困ってしまう。わんわんわわ～ん。　まあ、そんなところかな、とりあえず。

  2012.01.01

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