ポール・マス来訪 [11] 市場が創り出すワイン
味良し、価格良しのポール・マスに対して、私が少々気に入らなかったのは、土地への愛着が、やや希薄に感じてしまう点である。トワベー・オーモンについて、特に白は、AOCなのだからもっと「リムー」を前面に押し出して欲しいような気がする。 トワーベー・オーモン 白 [2004] ジャン・クロード・マス (ドメーヌ・ポール・マス) 1,512円(税込)しかし、赤と同様、芸術家ラベルにして、「III B & Auromon」(トワべー・エ・オーモン)の白というブランドにしている。ラベルは美しく、確かに消費者に訴求するものはある。それ以上に内容が優秀だから、ワイン屋としてもお客に勧めたいと思う。…ってところで気づいたのだが、では、「ACリムーを謳うメリットはあるのか?」という点である。リムー?何それ?って消費者ならずとも、(ワイン屋でさえ)言ってしまいそう。まして白のみのAOCで、シャルドネが認められている…なんて小理屈は、買う側としてはどうでも良い。いや買う側が認知していればメリットがあるけど浸透していない今、このAOC名を出しても何のメリットもないのが現実かもしれない。消費者としては、え~?それどこの国?って言って終わりのような気もする。マーケティングのクールな目で見れば、このAOCは今は使わず、違うイメージを前に出せ…というのが、現時点での正解なのかも知れない。そう考えれば、地名を必ず表記せよ!なんて事を、まだ名が売れてないAOCに強要するのは、当事者でない者の勝手な思い入れなのかも知れない。その地で葡萄を、そしてワインを造っている者が土地を愛していない訳はない。その気持ちなくして造り続けられるはずはない。その名を名乗れないのは、流通と市場側にこそ、表記しない原因がある…と考えた方が自然なようである。一方、トワべーの赤。これは、ヴァン・ド・ペイ・ドックでしかない。有象無象が溢れ返っている中、それだけに、実力本位で見られるこのカテゴリーは、圧倒的な品質と、目を引く外観があればOK!…なのだ。 トワーベー・オーモン 赤 [2004] ジャン・クロード・マス (ドメーヌ・ポール・マス) 1,512円(税込)実際、旨い。価格をかなり超えた迫力がある。濃度がある。樽香もある。果実味もある。ボディがある。アフターがある。好バランスがある。この価格のワインとして、ちょっと文句はつけ難いワイン。派手なラベルが、ワイン通にとってもマイナス要因にならぬワイン。つまりは、ホンモノと言わねばならぬ内容。このカテゴリーを創り出したのは、結局は“市場”そのものなのかも知れない。