【S耐】救世主になったブリヂストン
2023年5月25日~28日、スーパー耐久シリーズ第2戦 富士スーパーTEC 24時間レース。今季最後になるはずのタイヤサプライヤーハンコックの他に、国内メーカー ブリヂストンがスーパーGTなみの大規模なタイヤサービス基地を設置。全スタッフメンバーが、せわしなく作業を行なっている。なぜBSがタイヤサービスを行っているのか?理由は 3月に韓国のハンコックタイヤ工場の全焼失による。この火災により、大多数のタイヤが焼失した。一般市場タイヤ供給を再開するには 最低でも1年以上かかると言われるほどにダメージが出ている。さらに悪いことには、今季からスーパー耐久用タイヤがCNFを考慮し、スペック変更されたため在庫保有数も少なく、スーパー耐久はシリーズ中止か?とまで言われ始めていた。そこに救世主としてブリヂストンが現れた。2024年シーズンからのタイヤサプライヤーブリヂストンがサポートを申し出た。今季第2戦の富士スーパーTEC 24時間から、急遽 ブリヂストンがハンコックに代わってドライタイヤを供給することになった。第3戦SUGOからはブリヂストンが正式にサプライヤーとなることも決まった。スーパー耐久機構(STO)は、これにより2023年シーズンが継続開催される運びとなったことに 溜飲が下がる思いだったことを明かす。STOは「まさにホワイトナイト登場ですよ」と話した。通常であれば、タイヤメーカーと言えども、年間計画になかったレースカテゴリーに、急遽タイヤを供給するというのは、どだい無理な話である。STOとブリヂストンは、この危機をどうやって回避し、奇跡的にシーズン続行につなげられたのか? ブリヂストン モータースポーツ開発部門首席主幹 寺田浩司に訊いてみた。「2024年スーパー耐久タイヤサプライヤーとして、開発および供給に向け準備を始めていました。そんな中 ”スーパー耐久のこと、知らないことが多過ぎる”ということもあったので、全員で開幕戦鈴鹿を観に行きました。今までの数あるレース経験が生きるだろうと軽く考えていたのは事実です」それがレース中には「新しいタイヤを考えなければ、ダメだね。という結論になり、今 設計中のモノをさらに良くすることで、みんなの考えがまとまったと思います」そういったとき、韓国ハンコック本社の工場火災とその大きさが報じられた。「富士24時間レースには かなりのタイヤが必要。でも彼らの事だから、乗り切れるだけのストック持ってると思う。在庫が切れるまでに工場が再開すれば大丈夫だろう」と思ったという。ところが、予想に反してハンコックタイヤの状況は、最悪の状態だった。「STOさんから『富士24時間の途中でタイヤがなくなってしまいます。BSさん、助けてください』と言われました」その時点で答えは「『無理です』と言うしかなかったんです。とにかく、富士24時間は1レースだけでドライ・ウエット合わせて約6000本というとんでもない本数のタイヤが必要です。レースを2ヵ月後に控えた段階で、(S耐として使える)在庫は各サイズ数える位しかない状態で、その本数のタイヤを用意するのは、どだい無理なのは事実でした」と語る。「STOさんからは『ウエットタイヤはハンコックの在庫があるから、それを使います』と言われましたが、それでも無理ですとお答えしました。その後に、『下位クラスは市販のSタイヤで構いません』というお話でしたので、RE-12DとRE-71RSのカタログを見ながら話しました。これは量産工場で生産しているものなので、無理すれば作れるかな?それは何とかなるだろうなと思いました」「一方、レース用スリックタイヤは小平の“開発工場”で作っています。ここはあくまでレース専用工場。過去にはF1やMotoGP、今はスーパーGTにおける研究開発部隊の試作工場ですので、ある程度の量しか作れません。生産性という点ではそれほど高くありません」「生産のキャパがない中で、どのくらいの量を上乗せできるか?を現地でSTOさんと調整し、この本数ならなんとかなるかもかもしれないとお答えしました」「その後、東京技術センターで、富士24時間以後のS耐用タイヤ供給スケジュールとすでに決定している生産スケジュールを組み合わせ、鬼のような生産調整をしました。今年のS耐最終戦までの生産計画を作り、ギリギリの綱渡りですが、いけそうになったので『協力できます』という話をしました」今回はST-4、ST-5クラスに供給される市販溝付きタイヤ(ポテンザ)を全国の販売店から集めた分と新規に製作分を含めて、4200本のタイヤを持ち込んだブリヂストン。富士24時間走行初日には摩耗状況、グレーニング発生の確認と各チームから上げられた本数の確認に追われ続けた。ドライバーからは、ハンコックタイヤと比較したグリップや前後バランス、ピックアップの有無、剛性の違いなどが報告されたが、概してどのドライバーもハンコック以上に使いやすさやグリップ力の長時間保持は称賛していた。ブリヂストンとしても、多種多様な車両が多く走るスーパー耐久のようなカテゴリーの経験がなく、ブリヂストンとして新鮮に感じるコメントも多くあった。寺田氏は「S耐レースの歴史を途絶えさせず、さらなる記録を作れるようにしたいです。富士のタイヤには、弊社名マーキングする時間さえなかったんですよ」と力強く語った。戎井健一郎氏の文章より抜粋