SEX AND THE TOKYO
私の数少ない知り合い達の内2人が今、日本にいない。2人とも週に一度ほどしか直接会って会話をすることはないのだけど何かあった時、すぐ会いにいけない距離にいないという事がなんとなく、あたしを不安にさせる。2人の行き先はパリとアメリカ。なんとも遠い。パリに行った友達は帰りしなにアメリカにも寄るという。うっかりニアミスです。2人は知り合いではないけれど。なんとなく、そんな2人の予定にニヤっとしてしまう。あたしの身体を半分にちぎって2人のスーツケースに入れてもらいたかった。そしたら、パリに行ってる友達がアメリカに行ったときもう一人の知り合いに会うことが出来るからあたしはまた一人に戻れる。考えるだけでちょっと嬉しかった。でも、アメリカに行ってる知り合いは一足お先に明日帰ってくる。あたしの半分が先に戻ってくるような気がして少し残念なようなワクワクするような複雑な気持ちでいる。何年か前までアメリカが大好きだった。休みが取れて財布との折り合いが付けば飛んで行っていた。言葉も出来ないくせにSex And The Cityのキャリーになったつもりで街とデートしていた。いるだけで、幸せだった。つい数年前からアメリカよりもヨーロッパに行きたいと思うようになった。あんなに狂ったように行きたいと思っていたアメリカがなんとなく色あせて見えた。石畳の道路も凍えるように寒かったパリも言葉が通じなくて泣きそうだった事も何もかもが輝いて見える。この変化はあたしの中の変化なのだろうか。母に言わせればきっと、両方とも外国に変わりはないときっと鼻で笑う。アメリカから帰ってくる知り合いはそろそろ飛行機に乗るだろう。アメリカに発つ前にお土産は何がいいかと聞かれた。あたしはお土産よりも元気に帰ってきてくださいと言いたかったけれど海を越えることは四半世紀前と違ってそんなに大したことじゃないのよね。あたしは、自分は糸の切れたタコのように人の心配も聞かずに何処へでも飛んで行ってしまうのに自分の息の掛かった人が飛んでいってしまうと無償に寂しく、心配でたまらなくなる。発った後は何度とも知れず、フライト情報を確認してしまう。そして、次の日の朝付けるテレビに墜落事故がなかったことを確認してほっと胸をなでおろす。そんな事を考えていたらぼんやりしてしまい何が欲しいのか早く言えと怒られた。あたしは無事に帰ってきてくださいなんて言葉は時代に合わないのだなーと思って大して欲しくもない香水を指定した。きっと今頃あたしが欲しいと言った香水を抱えてその人の乗った飛行機が飛び立つ。あたしはまた今夜もフライト情報を見るのだろう。そして明日の朝は起きたら一目散にテレビをつけて墜落情報がないかどうかを確認する。今朝は久々に良く眠れた。この一週間ほどなんとなく心配で寝つきが悪かった。笑っていても人と話していても仕事をしていても美味しいものを食べていてもなんとなく緊張していた。明日、無事に飛行機が着いたら緊張はほどける。あ・・・・・・・・・・。でも、パリの友達が帰ってくるのは来週だった。あたしは暫くの間眠れたり眠れなかったり不安になったりホッとしたりする毎日を過ごして行くのだろう。東京には何もかもが揃っている。そんな中で過ごしているとなんとなく自分にも何もかもが揃っている気になってしまう。だけど、不安は不安なのだ。自分の周りの人がいなくなるのは怖い。それは、都会に住んでようが田舎に住んでようがなにも変わることはない。外国旅行も国内旅行もあらゆる旅行はは素晴らしく楽しい。東京にいようが大阪にいようが唐津にいようがタイにいようがオーストラリアにいようがLAにいようがNYにいようがロンドンにいようがパリにいようがきっとあたしは何処かに旅行に行きたいと思うだろう。あたしがそう思うようにあたしの周りの人達だってそう願い、出かけていく。それをあたしの勝手な心配性で止めることは出来ないのだ。だけど、出来ることならあたしの身体を幾つに契ってもいいからポケットにでも入れて一緒に連れて行って欲しい。そうじゃないと心配でみんなが出かけている1週間や2週間、あたしもまるで東京にいなかったんじゃないかと思う程ぽっかり穴が空いてそのくせ心配で何も手に付かなくなってしまうのだから。パリに行ってる友達が帰ってくるまで後1週間弱、なんとなく不安な日々が続きます。そんな事を思いながら今日の夕方ふと考えた。あたしが出かけているとき不安に思う人もいるのだろうか。自信がないなとちょと苦笑いをしてしまったけれど考えてみればあたしこそ、人の言うのも聞かずに勝手にフラッと何処かへ一人で飛んで行ってしまう張本人なのだ。お前に言われたくないと2人の機嫌の悪い顔が見えた気がした。それでも、どうか2人とも無事に帰ってきてください。君たちが少しいない間に東京は冬が深まりました。