日本でも一旦は効果があったが、無くなった?
サイコオンコロジーの、がん患者への治療に心理的介入を加えた時の治療効果の話について調べています。昨日は、このことを解説してくれているページをみつけました。NPO法人ガンバラナイトというところの「サイコオンコロジーとは」。サイコオンコロジーの世界と日本での状況を説明してくれています。詳細は上にリンクしたページを見ていただくとよいのですが、1970年代に乳がん患者について、病気に対する心理的対応が生存期間の違いと対応しているという発表がされ、ついで1989年に、スタンフォード大学のSpiegel(スピーゲル)らにより、乳がん患者について、悩みなどを相談する集団療法を取り入れた場合の治療効果の研究成果が発表されました。「集団療法を取り入れたグループ(介入群)とそうでないグループ(対象群)を10年以上フォローしたところ、平均生存期間が介入群36.6ヶ月、対象群18.9ヶ月 と、集団精神療法を取り入れたグループが約2倍長かったという結果が得られ、大きな反響を呼び起こしました(スピーゲルの研究を引用する文献は800を超えています)。」とのこと。さらに続く研究のことも載っています。これら他にもサイモントン博士の講演会でも紹介されていましたが、沢山の文献が出ているようです。そしてさらに載っているのが、日本人についての、国立がんセンター精神腫瘍学グループの内富先生の研究です。Fukui S, Kugaya A, Okamura H, Kamiya M, Koike M, Nakanishi T, Imoto S, Kanagawa K, Uchitomi. A psychosocial group intervention for Japanese women with primary breast carcinoma. Cancer. 2000 ,89(5),1026-36.(PDFファイル 269KB)内容のまとめとしては、「このことから、構造化された心理社会的介入は文化的な差異を考慮すれば日本人にも適用でき、ガン治療において効果が期待できることが明らかになりました。内富氏らはその研究論文において、今後もさらなる詳細な研究が必要であるものの、今回の調査結果は、アジア全体のガン患者に対する医療への心理社会的介入の応用において、将来の研究・調査に刺激と方向を与えた、と締めくくっています。」だそうです。輝かしい一歩です。このように、この2000年の発表の段階では、この先生もがん患者への心理的介入が治療効果を高めると考えておられたようです。だけど、最近の内富先生のお話では、この効果を否定されていることを昨日書きました。昨日紹介した記事は2005年か2006年のがんナビというページでしたが、「生存率に変わりはないことが分っています。」と言い切っておられ、科学者としては危ない、たぶん間違った断言ですが、もう1つみつけました。「がんになっても」というHPに載っていた、2006年『がん-医と心を考える』セミナーハイライト集に、「しかし、残念ながら現在、そういったことががん患者さんの生存期間に直接関係するという科学的な研究の結論にはいたっておりません。」との記載がありました。こちらも、内容的には否定しています。但し、"直接"とか、"結論には"いたっていない、との書き方で、『がん-医と心を考える』セミナーの記事は一応科学的には正しいのですが。心という形のないものが、体という形のあるものの治癒にどうやって効果を与えているのか、解明できている者はまだ誰もいないでしょうし、もちろん"直接"かどうかは分らないし、何百本の論文が出ても疑問に思う人がいる間は結論にはいたらないとは言えますから。でも、臨床医なら、関係のしかたの解明がされていなくても結論が出ていなくても、効果がある可能性があるなら否定すべきではないし、使っていくべきなのに。書き方は色々ですが最近はなぜか効果を否定されている内富先生も、かつては効果を確認しようとする論文を書いておられたことが分りました。しかし、国立がんセンターのHPや、ここへ研修にいらした方々の研修報告や、ここでの研修内容や、学会発表内容をインターネットで見る限りでは、これに続く研究が国立がんセンターから出そうではないかもしれません。だけど世界の潮流は今更変わらないでしょう。日本以外のアジアの国から研究発表があるかもしれないし。日本の機関の体制も、整っていってほしいものです。また、研究発表になるような規模での実施ができなくても、既に国際的には承認されている研究があるのだから、個々の病院で実施することはできるわけです。見つけた中で好ましいと思ったのは、横浜市立大学附属病院(福浦)の専門外来(婦人科腫瘍・がん)。治療に神経科(精神腫瘍学の専門家)も加わったカウンセリングが含まれるとあります。うつ病になっていなくてもカウンセリングが受けられそうで、上の方に書いたスピーゲルさんらの研究結果をちゃんと受け止めて最新の治療をして下さっていると期待されます。こういう姿勢が広まってほしいと思います。横浜市立大学附属病院は、私が最初の頃に行ってお世話になった横浜市立大学医学部付属病院の名前が新しくなったものです。今まで何回か書いていますが、海のそばの、とっても良い病院です。