「気取り」をやめる・3
咲坂と桃内の「今夜はごちそうさま」 http://www.youtube.com/watch?v=5QZn8-CbEdI 鈍る、感覚。1990年代に、有名店のコックや料理人を対決させ、審査員が勝敗を決める番組がありました。「料理研究家」や「食通」とされる審査員は長年の贅沢な食事で味覚が壊れているのため、試食のとき、その人たちに出す料理だけ特別辛く味付けしないと味をわかってもらえなかった、という話を聞ききました。 これは自分の体験ですが、連日ひどい耳鳴りがするので耳鼻科に行き検査した際、医者の先生から、「あなたは何か、工事現場とか、機械を使うとか、 大きな音のする作業場で働いたことがありますか?」と訊ねられ、なぜそんなことがわかるのか、不思議に思いながら「機械のそばで働くアルバイトをしたことがあります」と答えたところ、こう説明してくれました。「低音域に聞こえていない領域があります。 職場で大きな音を聞き続けた人の特徴が出ていますね」。どうやら「やっと仕事に慣れた」とか「環境に馴染んできた」というのは、実は神経が壊れて麻痺しているだけ、という場合もあるようです。ヘッドホンをして大きな音で音楽を聴いている人は、わざわざ難聴を進行させて、聞こえない音域を増やしているわけです。 特定のキーワードにしか反応しないマニアたち趣味の感覚も五感と同じで、極端なことをやりすぎると麻痺してしまうでしょう。ナイフ趣味でも、「コレクターならこれぐらい持たなくては」などと事情通を気取って、極端なものしか評価しない店員やメーカー、コレクターをずいぶん見かけました。ランボーのサバイバル・ナイフからナイフ趣味をはじめ、1年後にはラブレス・ナイフを買っているようなマニアがこのたぐいです。こういう人たちは、「レア物」「ヴィンテージ」「オールド・ミント」とか「ラブレス」「トニー・ボーズ」「ストライダー」「千代鶴」「藤本ナイフ」といった特定メーカー、「特殊な用途に使われているプロの道具」、…などのキーワードにしか反応しません。なぜなら、国内ナイフ店で取り扱う商品の中では、それらのキーワードが多角形の頂点であり、店頭やナイフショーで、他者に差をつけたり、ナイフ通として一目置かれるための必須要項だからです。 大量生産品、無名メーカーでもよいものはある もちろん、日本のコレクターが好むナイフブランドやメーカーはすべてダメだ、というつもりは(それほど)ありません。じっくり選べばよいものはあるでしょうが、アメリカでの売価と比べると、数倍以上の値段になっています。中でも伝説的にすごい実例が、「ストライダー マントラック」というナイフ、アメリカでは $420 程度で売られていたものが、日本での小売価格は消費税込みで20万円!ステンレス板をプレスでぶち抜いて、ナイロン紐を巻いたナイフでしたが、それでも日本国内のマニアは喜んで飛びついたのですから、彼らのセンスたるや、それほど大したものではないのは明らかです。 ナイフの初心者や刃物にあまり興味のない人は、そのような情報を見て、「××××というナイフがすごいと聞きました。 ネットで探しても売り切れの店ばかりです。どこで手に入りますか?」などと慌ててしまうものですが、何のことはない、日本の商業誌で広められているナイフ情報は、特定の刃物業者が低い天井をつくり出して、一部のマニアたちがそれに反応して騒いでいるだけ。端から見ると「それほどたいしたことないじゃん」という別にどうでもいいものばかり。ですから、マニアではない人たちは、慌てず騒がず、ある程度の品質が保たれている製品の中から、好きなものを選んで買えばよいと思います。 Opinel "Les Legendes des Montagnes" http://www.opinel.com/ 上から、Rosace, Edelweiss, Soleil, Coeur, Spirales, Festival ハンドルに装飾が施されたフランス製実用ナイフ。 ブレードはステンレス鋼。