大藪春彦作品『傭兵たちの挽歌』(1978年)第三章 地獄の軍団 三
Photo by dardashew >前回 それらの回想が、一瞬のうちに、走馬灯のように片山の脳裡(のうり)を駆けめぐった。「S・C・Sのボスの一人のノーマン・アスペンからの電話はこうだった 」 フランシスコがしゃべる声が聞こえた。「〝西アフリカで仕事がある。戦争ではないが面白い仕事になりそうだ。週給千ドルで2年契約。死亡保険は三十万ドル。墓を一つ掘るごとに三千ドルのボーナス。任期が終わったら一万ドルのボーナスと世界一周の周遊券が渡される。再契約にも応じる。気に入りそうだったら、すぐロンドンのマーブル・アーチ駅近くのホテル・リッチモンドまで来てくれ〟・・・・・・というわけだ。俺は分解していたフェラリのクラッチを放っぽりだして、二時間後の便でロンドンに飛んだ」「西アフリカで何をやるのか、その時は教えてもらえなかったんだな?」「金さえ確実に払ってくれたら、何も文句をつけることはない。S・C・Sは俺たちと傭い主とのあいだでトラブルが起った時には、責任を持って解決に努力し、うまくいかなかった時は共済資金を使って補償してくれるんだ」 フランシスコは答えた。「それで、ホテル・リッチモンドに着いてみたら、ほかの傭兵上がりも集まってたんだな?」「ああ。南アフリカの連中はマッド・マイクの渡り雁(ワイルド・ギース)クラブを通じてやってきた」「気違いマイク・・・・・・かつてのコンゴの第五コマンドウの指揮官だったマイケル・ホウア大佐だな」 片山は、半ば伝説化している勇者の名を呟いた。南アのヨハネスブルグ・プリントチャード・ストリート三一に本部があるワイルド・ギース・クラブは、旧ベルギー領コンゴ 現ザイール やスーダンやナイジェリアやアンゴラなどの動乱に参加した白人傭兵の情報交換と相互扶助と募兵(ぼへい)の機関だ。そのクラブのエンブレムには、ホウア大佐が指揮をとってコンゴのスタンレーヴィルを攻め落とした英語系の傭兵部隊第五コマンドウの、ベレー帽の形をしたなかに5COMMANDOの文字と飛んでいる雁(がん)をあしらった、第五コマンドウ時代そのままの記章が使われている。 Gentleman's Military Interest Club- Col. 'Mad' Mike Hoare and 5 Commando 'Wild Geese'https://gmic.co.uk/topic/58377 Youtube - 5th Commandohttps://www.youtube.com/watch?v=EfSHcae0w2Q 「南アも不景気らしくて、あそこからやってきた連中は歴戦の猛者が多い。フランスやベルギーからやってきた連中は、パリに本部があるブラック・ジャックのユーロ・アフリカ友好協会を通じて口が掛かった、と言っていた」「ブラック・ジャック・・・・・・ジャック・シュレーメ大佐だな?」 片山は呟いた。 ベルギー人のブラック・ジャック・シュレーメも、傭兵の世界では半ば伝説化されている。ベルギー資本をまもるためにコンゴのカタンガ州分離独立軍をひきいて大暴れし、その後カタンガ州大統領のツォンベに傭われ、第十コマンドウの指揮をとって第二次スタンレーヴィルの反乱を起し、第六コマンドウ傭兵隊の指揮官に転じたのち、モブツの政府軍と国連軍に追われて隣国ルアンダに逃げこみ、やがて赤十字の仲介でヨーロッパに送還されたのだ。彼の部下は、これも有名な猛者のカーロ・シャノンがいる。 Jean "Black Jack" Schramme(March 25, 1929, Bruges, Belgium – December 14, 1988) Youtube - SYND 21 08 67 CONGO REPORT ON SCHRAMMEfrom AP Archivehttps://www.youtube.com/watch?v=Gf53kt-5cPU The Congolese Retake Bukavu (1967)from British Pathéhttps://www.youtube.com/watch?v=H4znc12jqZA 「あんた、傭兵組織にくわしいようだな」 フランシスコが呻(うめ)いた。〝モザンビークではお前たちポルトガル人傭兵を部下として使っていたんだ〟と、片山は言ってやりたかったが、「どうでもいい、続けろ」 と、言った。「ギリシアはコーラン大佐のロビト戦友会が窓口だったそうだ」「コーラン大佐? あの〝殺人狂(ホミシダル・マニアック)〟と仇名(あだな)されたコスタス・ゲオルグはまだ生きているのか?」 片山は思わず口笛を吹いた。 Costas Georgiou "Colonel Callan"(1951 – 10 July 1976) Youtube - SYND 17 6 76 TRIAL OF MERCENARY SOLDIERS IN LUANDAfrom AP Archivehttps://www.youtube.com/watch?v=MUGBaa4_IjM RR7625A ANGOLA: THE MERCENARIES' TRIALhttps://youtu.be/QjD2vAwmmd0?t=860 アンゴラ戦争で反革命軍FNLAの白人傭兵隊長となった通称コーラン大佐ことギリシア系英人コスタス・ゲオルグは、金だけにつられて参戦はしたが、激しい戦闘に怖気(おじけ)づいて逃亡を計った、十四人の新米英人傭兵をまとめて処刑して悪名をはせた。 彼はその後革命政府軍に捕まり、傭兵十三人が裁かれ全員が有罪となった有名なルアンダ裁判で死刑判決を受け、すでに銃殺されたと伝えられている。「ああ、刑務所から脱走し、うまくアフリカ大陸から逃げ帰ったが、復讐を怖(おそ)れて英国にはまだ戻れないようだ。ドイツから来た連中は、ロルフ・スタイナーの募兵組織の、ドイツ語で何と言ったかな、英語で〝コ・オプ・フォー・ソルジャーズ・オブ・フォーチュン〟が窓口だったそうだ」「ロルフ・スタイナーか。奴もしぶとい野郎だ。どうやって、スーダンの軍事刑務所から脱走したんだ?」 かつてナチスのヒットラー・ユーゲントであったロルフは外人部隊に加わってインドネシアで闘い、その後ナイジェリア内乱に加わって敗残傭兵隊の指揮をとり、南部スーダンに転じてアニャニャ族の反乱軍に傭われた。南部スーダンの内乱が鎮圧された時にロルフはウガンダに逃げていたが、そこで憲兵隊に逮捕されてスーダン政府に引渡されたのだ。 Rolf Steiner(January 3, 1933 – ) Youtube - Trial of Rolf Steiner, German Mercenary, in Sudan | August 1971https://www.youtube.com/watch?v=-Zi3Q_gnxEc 「警備員を絞め殺して銃とランドクルーザーを奪い、エチオピアに逃げた。逃げるついでに、刑務所長の屋敷を襲って闇ドルと宝石を手に入れたから、逃走資金はたっぷり出来たそうだ」「なかなかの男だな」「アメリカ合衆国の連中は、西部や東部などの募兵組織を通じてやってきた。西海岸のはロスにあるコ・オプ・フォーチューン・トライヤーズだ。ヴェトナム戦争で鍛えられた連中を集めたようだ」「運だめしをする連中用の生協(コ・オプ)とは泣かせるな」 片山は苦笑いをしてみせた。しかし、ヴェトナム時代に顔を会わせた者が赤い軍団の傭兵(マーセナリー)のなかにいたら、自分の身許(みもと)をしゃべられる前に殺さねばならない。「東部はワシントンにあるアフロ・アフリカン援助協会だ。亡命キューバ人で、米国籍を取るためにヴェトナム戦争に志願し、あの戦争で生残った連中を集めた」「ホテルであんたらを面接したのは誰(だれ)だ?」「傭い主の代理人と言う三人の弁護士風の男たちだった。名前は、ただ、フランクとジョンとフレッドと呼んでくれ、と言うだけだった。 契約書にサインしてから、やっと傭い主が赤い軍団という組織だと教えやがった。赤いといっても血の赤さで赤色思想には関係ない・・・・・・組織の闘いの最終目的は、経済力を武器にして再び世界征服をもくろんでいる日本の政界や財界に壊滅的な打撃を与えてやることだ・・・・・・ということだった。アジアのあんなちっぽけな国がのさばりやがっているのは俺(おれ)たちも気にくわんから、誰も契約を悔いる者はいなかった。日本人など面(つら)を見ただけで吐き気がする。何だあの超ユダヤ人(スーパー・ジュー)は!」「・・・・・・・・・・」「翌日、俺たちはこの国に飛んだ。弁護士風の三人の男も一緒だった。俺たちが着いたルサンゴ空港にはガメリア国軍の輸送機が待っていて、俺たちはそれに乗るように言われた。これから、ガメリアの奥地で、軍事再訓練を受けてもらう、というわけだ。 俺たち・・・・・・少なくともアフリカで闘ったことがあるものは・・・・・・一瞬、罠(わな)ではないか、と疑った。俺たちが闘ったことがある国の政府に俺たちを引渡す罠じゃないか、とな。 だから俺たちは三人の弁護士風の男たちを人質に取った。俺たちは、ヒースロー空港のハイジャック防止検査のX線の目を逃れて、砥石(といし)をショールダー・バッグに突っ込んであったから、機内食のナイフを鋭く研ぎあげておいたんだ。 三人の男は、罠じゃない証拠を見せてやる、と言って、同乗していた黒人兵に何か命令した。黒人兵たちは俺たちに拳銃を渡した。拳銃を点検してみてガラクタじゃないことが分ったから、俺たちは人質を解放した。 輸送機は、東部高原に向けて飛んだ。機が着陸態勢をとると、目の下は一面にケシ畠だった。輸送機が降りたエア・ストリップは、ルサンゴの首都防衛師団長チョンバの専用機用だとあとで教えられた。 エア・ストリップの格納庫に、戦闘服が積まれていた。戦闘服に着替えた俺たちは、軍用トラックに乗せられて、二十マイルほど離れた演習場に連れていかれた。そこには中型のヘリ三機と、速射砲やロケット砲や迫撃砲、それに機関銃などが弾薬と一緒に山と積まれてたな。 俺たちは次の日の夕方まで射ちまくってから、サンチョ・パンサ号に移ったんだ。ヘリは、アメリカから来たヴェトナム帰りの連中が操縦して、武器弾薬と共に船に運んできた。」 フランシスコは答えた。「首都防衛軍の師団長と赤い軍団の関係は?」「知らん。あの猿どものことだから、金を積まれると何でも言うなりになるんだろう」「サンチョ・パンサ号に乗っているパク兄弟とキム・チョンヒについて尋(き)きたい。奴等は組織の処刑人だそうだが、あんたらにも睨(にら)みをきかせているのか?」「ふざけちゃいけねえって言うんだ。あんな黄色い猿どもに、何度も生死の境いをかいくぐってきた俺たち傭兵上がりが舐(な)められてたまるか、と言うんだ。奴等が威張ってるのは、東南アジアや黒やインディオの血が混った南米の下等民族に対してだけだ。しかも奴等は、エロス・センターでグエン何とかいうヴェトナム野郎が殺(や)られたと聞いた途端に、ヤケにビクつきはじめた 」 フランシスコは鼻で笑い、「ところで、あんたは誰なのか、そろそろ教えてくれたっていいだろう? どうせあんたも誰かに傭われたんだろうが? 傭兵同士いがみあったってしょうがねえ。そろそろ俺を解放してくれよ。放しくれたら、あんたに何を尋かれたかを絶対しゃべらんと約束するから」 と、言った。 それから半時間ほど片山は尋問を続けたが、大したことはフランシスコから聞けなかった。 フランシスコの延髄をナイフで抉(えぐ)って楽にさせてやった片山は、その死体をジャングルの奥に隠し、オールズのトルネードを駆ってルサンゴの街に戻る。 検問は行われてなかった。夜行性の野獣に痛めつけられた先祖の血を濃く受け継いでいるせいか闇を矢鱈(やたら)に怖がるガメリア黒人兵は、夜哨に立たされると、ちょっとしたことでもパニックにおちいり同士討ちをはじめることが珍しくない、と聞いている。 街の入り口の近くで、片山は目立つトルネードを捨て、路上駐車のオンボロ・ルノー一二のオートマチック・ミッション車を盗んだ。ステアリング・ロックを壊し、バッテリーとイグニッションを直結にしたその車をしばらく走らせてから公衆電話ボックスの近くに停める。 Renault 12 電話帳はトイレットペーパー替りに使われたのか残っているのは表紙だけであったが、電話自体は壊れてなかった。片山は日本大使館のなかの、外部に公表されていない番号にダイアルする。 電話が終ってから、ルサンゴ・シー・サーヴィスのビルを一度偵察(ていさつ)する。それから二十分ほどのち、片山はルサンゴ市の北東にある高台の高級住宅街に車を乗り入れた。そこに建っている豪邸は、かつては支配者の英人たちのものだったが、今は新生ガメリアの黒い支配者たちが使っている。 ガメリア国軍の首都ルサンゴ防衛師団長パトリック・チョンバ閣下の官邸は、幅三百メーター、奥行き二百五十メーターほどの敷地を持ち、白亜の三階建て大理石造りの母屋(おもや)は大使館のような構えであった。 石塀(いしべい)はアラベスク模様の透(すか)し塀だ。芝生とソテツの植込みの広い前庭の中央部に噴水プールが見える。 プールの近くでは、毛布をかぶった三十人ぐらいの番兵が焚火(たきび)を囲んで坐りこんでいた。門の両脇に立哨の兵士がいないところを見ると、彼等は焚火に加わっているのであろう。焚火には、コーヒーを入れてあるらしい農薬の十キロ罐が掛けられていた。 兵士たちの脇にライフルが投げ出されている。手動のボルト・アクションのモーゼル九八Kなのは、命中精度を重視しているからというより、自動銃だと出鱈目(でたらめ)に乱射して、たちまち弾薬を浪費してしまうからであろう。 官邸の表通りをゆっくりと車で通りすぎた片山は、裏通りに回ると、近くの公園の無料駐車場に車を突っこんだ。無論、そこに番人はいない。 車を降りた片山は、日本の針金で車のトランク・リッドを開いた。そこに入っていた牽引用ロープを輪状に丸めて左肩にかついだ。左手にアタッシェ・ケースを提げ、チョンバの官邸の裏庭に忍び寄った。 バオパブやソーン・ツリーなどの樹の多い裏庭こそ厳重に護られていないといけない筈なのに、外から覗(のぞ)いたところではそこに番兵の姿は見当らなかった。 片山は身軽に裏庭を跳び越えた。木陰から木陰へと音もなく走って母屋に忍び寄る。 母屋の裏口のドアの前には格子型のシャッターが降り、一階の窓々は鉄格子防禦(ぼうぎょ)されている。しかし、二階から上の窓には鉄格子がはまってない。 二階にも三階にもバルコニーがついていた。灯(あかり)が消えている窓がほとんどだ。 片山は牽引用のロープを肩から外した。アタッシェ・ケースを開き、ワルサーPPK拳銃を一丁出すと、それをロープの一端に縛りつけて重しとした。 二階のバルコニーに向けて投げる。片山のロープ・ワークは年季が入っているから、するするとのびたロープは、バルコニーの手摺(てす)りに捲(ま)きついた。 ロープをきつく引っぱると、先端の拳銃が滑り止めの役を果し、ロープは手摺りから外れなくなった。 アタッシェ・ケースの把手(とって)をくわえた片山は、並外れた膂力(りょりょく)を使い、ロープを伝ってバルコニーによじ登った。 バルコニーに蹲(うずくま)り、手摺りからロープを外した。ロープからワルサーを外して、スラックスのベルトに差しこむ。ロープで投げ縄を作り、そのロープの後端を二メーターほどナイフで切取る。 アタッシェ・ケースから出した短機関銃を首から吊った。弾倉帯を腰に捲く。切取ったロープを把手に通したアタッシェ・ケースを背負い、ロープの両端を胸の前で結ぶ。 アタッシェ・ケースの隠しポケットから出してあったガラス切りと強力なガムテープを使って、バルコニーのフランス窓の閂(かんぬき)の近くのガラスを直径十五センチほど切り外した。 そこから手を突っこんで閂を外す。そっとフランス窓を外した。カーテンの隙間(すきま)から室内にもぐりこむ。 真っ暗な部屋だ。人の気配はない。片山はボールペン型の懐中電灯をつけてみた。 そこは室内ジムになっていた。減量用の固定自転車やボクシングのリング、重量挙げ用のベンチなどが見える。チョンバは西アフリカ・ヘヴィー級元ボクシング・チャンピオンなのだ。 懐中電灯を消してポケットに収めた片山は、廊下側のドアのエール錠をそっと回した。ドアをそっと開いていく。廊下には電灯がついていた。 廊下を素早く覗く。廊下の右の端の階段の近くで、二人の番兵が机に乗せた腕に顔を伏せてイビキをかいていた。 片山はネオプレーン・ゴムのチャッカ・ブーツを脱いだ。片手に丸めた投げ繩、右手に刃を起したガーバー・ナイフを持って階段のほうに忍び寄る。 片山が三メーターまで迫ったとき、左側の番兵がハッと顔をあげた。血走って朦朧(もうろう)としたドングリ目を開いた。ポカンと分厚い紫色の唇が開き、ヨダレが垂れる。 その喉笛(のどぶえ)に、片山が投げたナイフの刃が吸いこまれた。気管と食道を裂き、頚椎(けいつい)を傷つけた刃は首の斜めうしろから突き出た。 悲鳴をあげることも出来ずに、その兵士はショックで意識を失った。 もう一人の兵士が目を覚まして頭をあげた。その喉を片山の投げ繩が捕らえた。兵士は腰の拳銃を抜くことも忘れ、ロープを外そうと喉を掻(か)きむしる。投げ縄を左手で引っぱりながら近寄った片山は、右の手刀をその兵士の首筋に叩きこんで意識を失わせた。 左側の兵士の喉から一度ナイフを抜き、耳から耳に達するほど喉を切り裂いてトドメを刺す。 投げ繩に捕らえられている兵士の拳銃ベルトを摑(つか)んでぶらさげる。八十キロは超えていた。拳銃ベルトにつけられているのは、フラップつきの軍用ホルスターに収められたワルサーP三八だ。 IMFDB.org - Walther P38http://www.imfdb.org/wiki/P38 その兵士をジムナジウムの部屋に運んだ。チャッカ・ブーツをはき、ドアを内側から閉じると、左手で懐中電灯をつける。兵士の腰椎を蹴って活を入れ、投げ繩をゆるめてやる。 唸(うな)り声と共に男は息を吹き返した。その目に懐中電灯の光を浴びせた片山は、「死にたくなかったら、大きな声を出すな」 と、分かりやすい発音の英語で囁いた。「た、助けてくれ」 失禁でズボンを濡(ぬ)らしながら、兵士は哀れっぽい声を出した。「この屋敷の警備状態を尋きたい」「き、貴様は誰だ? 反乱軍が傭(やと)った刺客か?」「あんたが、まともに答えたら、殺さずに済ませてやる」「助けてくれ! 何でもしゃべる。庭を警備しているのは門衛も含めて三十人だ。一階に番兵はいない」「二階にいたのは、あんたと、さっき死人になった連れだけか?」「そうだ。二階には将軍閣下の家族が住んでいる。閣下は三階に住んでいて、囲った女たちとハーレム生活を楽しんでいるが」「三階にいる番兵は?」「階段の脇に二人だ」「チョンバの寝室は三階のどこだ?」「廊下を突当たった大きな部屋だ・・・・・・頼む、殺さないでくれ」「分かってるさ。あんたには、三階の仲間の説得係になってもらう。だが、その前に、ちょっとのあいだ眠っていてもらいたい」 片山は呟(つぶや)き、番兵の耳の上を鋭く蹴った。兵士は二度目の失神を味わう。 片山は軍服の上で締められているベルトを抜き、バックルを外した。ベルトを縦にナイフで裂き二つに分けた。ワルサーP三八が収められていた軍用ホルスターの革を切って孔(あな)をあける。 それらを使って石投げ器を作った。石がわりに、兵士の銅バックルやジポーのオイル・ライター、それに分解したワルサーP三八の遊底や銃身や弾倉などを使うことにする。 WWII Walther P38 Holster Quora.com - How exactly was it possible that the biblical King David killed Goliath with only a slingshot as a young boy? How would that be possible to do in such a huge giant as Goliath was?https://www.quora.com/How-exactly-was-it-possible-that-the-biblical-King-David-killed-Goliath... Youtube - Primitive Technology: Sling by Primitive Technologyhttps://www.youtube.com/watch?v=RzDMCVdPwnE How to make a sling by Tod's Workshophttps://www.youtube.com/watch?v=49v8RAcJTMQ Leather Sling by Skill Treehttps://www.youtube.com/watch?v=B3dgmX18cBQ Shepherd Sling: amazing accuracy with primitive rock ammunition!by Wannabe Bushcrafterhttps://www.youtube.com/watch?v=28r-MQejnHg 再び兵士に活を入れて意識を取戻させた。「いいか、三階に近づいた時に誰何(すいか)されたら、頭が痛いので何か薬をもらえたら、と思って登ってきたんだ、と答えるんだ。おかしな真似をすると皆殺しにする」 片山は囁いた。「分った」 兵士は答えた。 その兵士を先にたてて三階に続く階段を登る片山は、左手に投げ繩、右手にジポーライターを革袋にはさんだ石投げ器の片方の革紐(かわひも)を捲きつけていた。 階段を三分の二ほど登ったところで、三階から、「誰だ?」 と、怯(おび)えた声が掛けられた。怯えているので、姿は見せない。拳銃の撃鉄を起す音が聞えた。 片山は楯(たて)にしている兵士は、片山の命令通りに答えた。「薬はないが、だべっていけよ。気がまぎれるぜ」 三階の声は安堵(あんど)の響きを帯びた。拳銃の撃鉄を倒す音がする。 片山は投げ縄を口にくわえ、左手でそっとガーバー・ナイフを抜いた。刃を起し、背中を見せている兵士の延髄に突き刺して抉(えぐ)る。即死した兵士が崩れ折れるのを支え、そっと階段に横にさせる。 ナイフをくわえ、片山は三階に登った。右手の石投げ器を頭上で振りまわしている。 廊下のデスクの向うの二人の番兵は、茫然(ぼうぜん)と口を開くだけで動かなかった。片山は振りまわしていた石投げ器の革紐の他端を親指とほかの指のあいだから離した。 石がわりのライターが矢より早いスピードで飛び、右側の兵士の額にめりこんだ。 片山は投げ繩でもう一人の兵士の首を捕らえておき、短機関銃をその兵士に向けた。 兵士はあっけなく気絶した。片山は、その兵士と額を砕かれたほうの兵士の心臓をナイフで抉った。 死体から投げ繩を外し、廊下の突当たりの部屋のドアに忍び寄る。石投げ器の革袋には、ワルサーP三八の実包が塡(つ)められた弾倉をはさんでいた。 ドアのロックを二本の針金で解いた。ドアをそっと開きかけたとき、男の大きな罵声(ばせい)が部屋から漏れた。怒鳴り続けているが、現地語なので片山には意味が分らない。 片山はドアを開いた。 チョンバは身長二メーター五十、体重二百五十キロほどの大男であった。いま、電話を叩きつけるように切ったところだ。 チョンバは素っ裸で立っていた。その前で片膝をついたブロンドの白人娘が、一升壜(びん)ほどもある紫色の巨根の中間を両手で握りしめ、口を一杯に開いて亀頭をサッキングしている。その娘もヌードだ。 確かにハーレムであった。その部屋には一ダースの娘がいる。ヨーロッパ系と東洋系と黒人が四人ずつだ。 百五十平方メーターほどの部屋にはアヘンの煙がたちこめていた。籐(とう)のベッドに腹ばいになった四、五人の娘たちが、アルコール・ランプで炙(あぶ)ったアヘン・パイプを吸っているからだ。 片山はうしろ手にドアを閉じた。 片山を見つけたチョンバは、巨体に似合わず素早く動いたので、サッキングしていた娘は喉を突かれて悶絶(もんぜつ)した。 ライオンのような咆哮(ほうこう)をあげ、チョンバはゴリラのドラミングのように両手で自分の胸を叩いた。娘たちは麻薬に酔っているらしく、馬鹿笑いの声をたてた。「無礼者!」 と、英語でわめきながら近づいてくるチョンバの胸に、片山は石投げ器から放った弾倉を叩きつけた。 弾倉はチョンバの分厚い肉にめりこんだが、チョンバは一瞬よろめいただけであった。片山は今度はワルサーの銃身部を、石投げ器を使ってチョンバの腹に叩きこむ。 チョンバは片膝をついたが、すぐに起き上がった。片山はワルサーの遊底をチョンバの額に向けて放った。 チョンバはダッキングしてそれを避けた。もう片山の二メーター前に迫り、片山を摑もうと両手をのばす。薬でも塗っているか巨根はしぼまない。 片山のナイフが流星のように閃いた。 両手首の腱(けん)を切断されたチョンバは、体ごと片山にぶつかってきた。素早く横に跳んだ片山は身をかがめ、チョンバの右膝の軟骨を切断した。 悲鳴をあげてチョンバは倒れた。右膝が横にねじ曲る。片山はその右膝を簡単に切断した。チョンバがいかに大男といっても、大型のアンテロープや鹿類よりもはるかに軽い。 切断した右足を目の前に突きつけてやると、チョンバは白目を剥(む)いて気絶した。膝の切断面から、蛇口(じゃぐち)がこわれた水道のように血が流出する。 片山は投げ繩のロープを使ってチョンバの膝の上をきつく縛った。それでもまだ血が止まらないので、椅子の脚を一本手刀でへし折り、それをロープに通してねじった。 膝の上にロープは深くくいこみ、やっと出血は止まった。「みんな、英語は分るか?」 片山は夢を見ているような表情の娘たちに英語で声を掛けた。喉をやられて気絶している娘は別だが。「よし、向うの壁に並べ」 片山は手で壁を示した。 素っ裸の娘たちは、のろのろと命令にしたがった。「よし、壁に向いて四つん這いになれ」 片山は命じた。 十一個の尻が並んだ。十一個のプッシーも丸見えになる。色も形状もさまざまだ。見られて興奮し、ジュースをしたたらせる娘もいる。 それを見ているうちに、片山のスラックスの前が窮屈になってきた。 ジッパーを開いて出したものに数回しごきをくれてから、片山は右端の娘にうしろからインサートした。 だが、チョンバの巨根にひろげられているからか、ひどくゆるい。片山は床に落ちているワルサーの遊底を拾って、その娘の頭に叩きつけた。 娘の体は失神の痙攣(けいれん)に震えた。ゆるかったプッシーがぐっと締まる。だが、それはすぐにまたゆるんだ。 片山は次の娘に移った。はじめの娘と同じような具合であった。 左端の娘も気絶させた時、片山はやっと放った。 しばらく余韻を楽しんでから、浴室で洗う。スラックスとジッパーのあたりも、固くしぼった濡れタオルで拭う。 浴室を出ると、喉をチョンバに突かれた娘が意識を取戻しかけていたので耳の上を鋭く蹴った。 チョンバの巨体を横にさせ、尾骶骨(びていこつ)を蹴る。 物凄(ものすご)い唸(うな)り声を出しながらチョンバは意識を取戻した。目の前にある自分の切断された右足を見て黄水を吐きながら咳(せき)こんだ。反対側に横向きになり、「救急車・・・・・・救急車を呼んでくれ・・・・・・金(かね)ならやる・・・・・・現ナマで百万ドルくれてやる・・・・・・だから命だけは助けてくれ!」 と、泣きわめく。「大きな声を出さなくても聞える。百万ドルはどこにあるんだ?」 片山は尋ねた。「金庫室は隣りだ」「よし、案内しろ」「動けない・・・・・・どうやったら歩けるんだ?」「甘えるなよ。立たせてやるから、片足でケンケン跳びしろ」「貴様は誰だ?・・・・・・分った、サンチョ・パンサ号の連中を傷めつけてるという殺人鬼だな?」「どうして分った。電話で報告が入ったんだな? 誰からの電話だ?」「・・・・・・・・・・」「よし、今度は右腕を切断してやる」「やめてくれ! ルサンゴ・シー・サーヴィスのマネージャーのヨンボから・・・・・・」「サンチョ・パンサ号の代理店のルサンゴ・シー・サーヴィスの本当の社長は、ルサンゴ治安警察本部長のチャンポングだそうだな?」「その通りだ、早く救急車を・・・・・・」「まず金庫室に行こうぜ。そこに麻薬も隠してあるんだろうが?」「ヘロインもアヘンもくれてやる。だから命だけは助けてくれ」 チョンバは涙をこぼした。 (つづく)