市バスの中で席を代わられる事に戸惑いが少なくなって。
5年余りのバス通勤、ということはそれ以前の15年間ほどはタクシー通勤、朝8時に家を出る、西大路仏光寺の角の8時5分、いつも運転手のタクシーが止まっている、信号を渡り終えると、ドアーが開いて、乗り込み、「おはようさん」、この運転手は仕事の始まりから暫くの間、五条通あたりのマンションの住人さんで、阪急電車で沿線、或いは大阪までの通勤の他人を阪急西院駅まで、殆どワンメーターであるが、そんなお客さんを何人か乗せてから、8時にはいつもオレが乗る場所で待機、乗った後は居眠っていても河原町今出川あたりになると、「お客さん、出町ですよ」、と声をかけてくれる、そこから信号一つ先の、川端今出川の信号を東に越したところで降りる、だから出張の時などや大阪へ直行の時には、前もって言っておく、こういう事が何年も続くと、新車での初日の日には、最初に乗せるお客さんはオレという事になる、また、その運転手が急用で休みの日には別の運転手が、頼まれて代理としていつもの場所にまっていてくれる、そんなわけだからマンションの管理人の仕事をするようになって、「バス代って、いくらだったかなァ」、バス通勤に慣れるまで暫く時間がかかった。 しかし、平日の仕事の日には、バス停が約15停留所、この区間を2往復するわけである、車内アナウンスで、「交通事情により、遅れる事があります」、とあるが、バスの時間なんて端から当てにしていない、前のバスが時刻表よりも先に来て、後のバスが遅れてくる、こうなるといつもは待ち時間が5分のところが約10分ほどになる、この5分間とうのは実に長い、拳銃でも持っていれば何度運転手を射殺した事か、それほど最初の頃はイライラしていた、時給850円也の身分、これに慣れなければ、お陰で最近ではいつからタクシーに乗っていないのか思い出せないほどタクシーに乗る事はなくなった、この2往復、4回バスに乗るわけだが、8時、12時、16時、20時、このうちで8時と20時は大体空いていて座れるのだが、12時と16時はその日によって随分と差がある、座っている人の中で、早く降りそうな人に狙いをつけて、その人の傍に立つ、敬老乗車証を持っていそうな人、こういう人は乗る期間が極めて短い、1駅でもバスに乗る、それと座っていて降りる準備をしたり、停留所名を確認するような素振りの人、ところがこれが時々外れる時がある、オレが降りそうな気配と思っている動きが、実はフェイントだったりする時、単なるオレの思い違いに過ぎないのだが、「紛らわしい動きをするなァ」、と妙に腹が立つこともある、敬老乗車証を持っていそうな人の傍に立っていて、勘が見事に的中と思っていると、立つ時にお年寄りに声をかけて、「ここがあきますよ」、「そうかオレは、まだ若いからなァ」、と納得する、座った人も敬老乗車証を所有していそうだ、その人も2駅ほどで降りる、そして席を立つ時にまたお年寄りに、「ここがあきます」、と声をかける、こうなるともう忍耐の限界、「お前等は互助組合かァ」、という事になる。 後50日足らずで68歳、年々バスの中で席を代わられる機会が増えてきた、還暦を過ぎた頃、紅葉のシーズンで銀閣寺からの帰りのバスで、乗ってすぐにカップルの女性が席を立って、「どうぞ」、余りにも予期せぬ瞬間であった、フイに後から思いっきりドツカレたようで、次の瞬間には完全に拒否反応、思わずに、「イイエ、結構です」、と言って後ろのほうの開いている席へ、オレに席を譲るために立った女性がもう一度席に座って、カップルはオレのほうを見ながら話しをする、思いすごしか知れないが、「折角代わってあげたのに、可愛くないねェ」、そんな感じの会話であった、「よし、次にこういう事があれば、ニッコリと笑って、お言葉に甘えよう」、そう意を決したわけだが、席を代わられる事が度々あれば慣れるのだが、そんな事を忘れた頃に突然である、何度もぎこちなく断ったりしながら、漸く最近は席を立って、「どうぞ」、声をかけられると、ニッコリと笑って、帽子のひさしに手をかけてお礼の挨拶をして、うろたえる事無く、席を代わってもらえる事が出来るようになった、文字が見難くなって老眼に、下の毛に白髪が生えて、頭にも白髪が生えて、額が広くなり、マウンテンバイクのサドルも年々低くし、オシッコの後の水切りも丹念且つ慎重になり、バイアグラやレビトラに興味を持ち出し、歩く姿勢が悪くなり、スピードも遅くなり、固いものは食べられなくなり、若く見られて余り喜ばなくなった、徐々に老いの自覚症状を積み重ねてきているが、バスの中で席を譲られる行為は自覚症状では無いだけに、慣れるまでには随分と時間がかかった、それゆえに折角の親切な行為にたいしての、何度か失礼な、不愉快な行為に許しを請いたい。 ■「今日の言葉」■ 「 心配事が多いのではない心配 する気持ちが強いのである 」 (自然社・平成22年・新生活標語より)