働く人のメンタルヘルス(10) 労働組合が強い味方に
働く人のメンタルヘルス(10) 労働組合が強い味方に代々木病院精神科科長 天笠崇労働組合の組織率は年々下がり続けています。2014年6月末の推計で17・5%になりました。しかし、働く人のメンタルヘルスにとって、労働組合が果たす役割はますます重要になっています。「継続」2倍差労働政策研究・研修機構が13年に発表した調査(図)では、メンタル不全になった場合、労組の有無によって「就業の継続」に約2倍もの差が生まれていることが示されています。正社員、非正社員とも同じ傾向です。労働政策研究・研修機構「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」(2013年11月)からA事業所で働き、労組の仲介で来院した患者さんを5人同時に受け持っていたことがあります。3人目の受診が始まった頃、労組の役員2人に話を聞く機会がありました。A事業所ではかつて、精神科受診者が出たらまず休職となり、その後は間違いなく退職に至っていたとのこと。「何とかしたい」と考えた労組では頭を悩ませ、経営側への働きかけを通じて職場の衛生委員会に労働者側委員を2人出せるようになりました。労働者側委員は、厚生労働省の「復職支援の手引き」や「パワハラの予防提言」が出ていることを産業医に説明。私が受け持った1人目の患者さんの復職にあたっては、復職判定委員会を組織するなど復職支援プログラムが整備されました。その後、私は職場内講演会に2回招かれました。参加した経営側衛生委員が「私の目の黒いうちは職場のメンタルヘルス対策をしっかりやる」と従業員を前に宣言するのを見て、私も目頭が熱くなりました。現在、5人の患者中1人は通院を終了。2人は元気に職場復帰を果たし、2人は休職せずに通院・就労しています。労働法制の改悪反対を訴える労働組合員の人たち地方センター労組がない場合でも、心の病を抱える労働者が個人加盟のユニオンに加入し、団体交渉を通じて復職した例もあります。椙談窓口としては「働くもののいのちと健康を守る全国センター」の各地方センターも心強い味方です。「職場の助け合い」精神科医になったばかりの1980年代後半。私は統合失調症を抱えたCさんの主治医をしていました。職場の上司から「先生、職場復帰可能の診断書を書いてください。後はうちで面倒をみますから」と頼まれました。「良くなっていない状態なのに大丈夫?」と驚きましたが、Cさんは職場に復帰。実は、「Cさんの不足分の働きは周囲の同僚がカバーしてくれた」と後で耳にしました。これには当時ある種、感銘を受けました。この十数年来、日本の職場環境どんどん悪化しました。「職場の助け合い」も消えつつあります。心の病を抱える人は、相当良くならないと職場に戻れないのが現実です。働く人メンタル不調の多くは職場で生み出されるもの。職場の努力で予防し、病を抱える人を支援することも可能なはずです。「しんぶん赤旗」日曜版 2015年12月20日付掲載メンタルの症状を抱えた労働者を、「後はうちで面倒をみますから」「○○さんの不足分の働きは周囲の同僚がカバーする」なんて暖かい職場だったらうれしいですね。