さよなら、カモナン
あぁ、今日も食った飲んだ。今週は鴨南蛮ウィークだったはずだが、昨日まで一度も鴨南蛮を口にしていない。もはや諦めたかと見せかけての奇襲攻撃。火曜日に定休日だった店についに潜入。店の名は「手打 きだ」。3丁目の煉瓦亭の並びに新しく出来た店だ。自家製粉石臼挽きと銘打ってある。ということは、高級系そば屋であろうとは想像がついたが、ここまで鴨南蛮にありつけずに引っ張ってきたのである。多少高かろうが食べてやる。と、意気込んでドアを開けた瞬間、後悔した。鰻の寝床のような店内に客はひとりだけ。狭いのに閑散としている。それでもここまできたからには引き返せない。品書きを見ると案の定、高い。特に鴨南蛮はサラリーマンの昼食の水準を軽く超えている。さすがに、ひるんだ。しかし、エイヤッと清水の舞台から飛び降りた気分で鴨南蛮を注文。そばが出てくるのを待つ間に先客は出て行き、私ひとり。12時半まではもう少し時間のある、ランチの書き入れ時のはずなのだが。その後、ぽつぽつと客は入ってきたけれど。出てきた鴨南蛮の器は思った以上に小さかった。この値段でこれだけか、というのが正直なファーストインプレッション。実は器の口径が小さいだけで、思ったほどに少なくもなかったのだが(あくまでも「思ったほどに」であるが)、印象は悪い。そして、思ったほど麺の量が少なくなかったのが逆効果でもある。麺と汁の量がアンバランスなのだ。汁の中に適度な余裕をもって麺が泳いでいるのが普通であるが、ここのは麺がぎっしり詰まって、そのわずかな隙間を汁が埋めているように見える。これじゃ、麺が汁を吸って伸びきったように見えてしまう。それでいて、鴨肉と葱はわりと気前良く入っているのでますます窮屈である。で、そばの味はというと、可もなく不可もなく。新そばの香りが少しもしない。自家製粉石臼挽きという謳い文句に期待しただけに、裏切られた感じがする。鴨肉も鴨らしさに欠ける。葱も丁寧に焦げ目をつけてあるけれど、これといって特徴はない。あれはどこで食べた南蛮そばだっただろうか。噛んだ瞬間に熱々の芯が口内の上部を直撃し、やけどしたけれど、その甘みや香りに唸ってしまったことがある。南蛮なんだから肉だけでなくもうひとりの主役である葱が美味しくなくっちゃいけない。ついでに、柚子まで香りが弱い。汁も、出汁も醤油も効いていない薄味だったが、これだけは鴨の旨味が微かに溶け出して、食べ終わる頃にはなかなか良い味になっていた。食べ終わった後に残ったのは「満足感の欠如」、それだけである。これが安ければ、こんなものだろうと諦めもつく。しかし、この店の値段を考えると納得がいかない。とにかく、コストパフォーマンスが低過ぎる。客が入らないのも、さもありなん。もうやめた。高級路線のそば屋はやめた。そして、鴨南蛮をシリーズ化するのもやめた。Good-bye, Ducky.夕方が近付くにつれ飲みたい気分が募ってきたが、こんな日に限って連れが見つからない。満腹、満腹…じゃないんだ、今日は!(怒)