都会の孤独?
地下鉄を降り地上に出ると、風が強かった。
土地勘のない駅前で目的地を確認しようと、道端にあった地図に近づいた時のことだ。
どこから現れたのか杖をついたおじいさんが車道にいて、風に煽られよろめいた。
よろめいたというより、飛ばされたという方が正確かもしれない。
足がもつれ倒れこんだ先には運悪くガードレールがあった。
ガードレールに胸を強打した老人は、反動で真後ろにひっくり返ったのだ。
そんな光景があれよという間に私の目の前で起こった。
老人が被っていた帽子が風で飛んでいったが、構ってはいられない。
車道に仰向けに倒れている老人に駆け寄った。
「大丈夫ですか?私の声が聞こえますか?」
すると老人は、細い目をパチパチしばたかせながら、モゴモゴとなにか言おうとする。
とりあえず意識はあるようだ。
「動けますか?痛みは?」
男は上半身を起こしながら、声を絞り出して言った。
「む、胸を打って…。驚いてしまって…。痛いけど、大丈夫」
「救急車を呼びましょうか?」
「ご心配なく」
そうは言うけど心配だ。
立ち上がらせ杖を手渡してようやく歩道に上がったところへ、若い男性が老人の帽子を持ってきた。
もう一度尋ねた。
「病院へ行かなくてもいいですか?少しでもおかしいと思ったら、すぐに病院に行ってください」
大丈夫、大丈夫と言いながら、老人はよろよろと去っていった。
5分ぐらいの出来事だったが、駅前を行き交うおびただしい人たちは、なにをしていたのか。
私と帽子を拾った男以外の人々の目には、車道に倒れている老人が映らなかったのだろうか。
誰ひとり近づいてもこなかった。
嘆かわしいことである。