昔話に花が咲く
A君の上京に合せて年に一度高校時代の友人が集る。毎回5,6人、A君とかかわりのあった者が集り、昔話に花が咲く。聞けばA君は元総理秘書に代わって関西の神社に参り、そのお札を毎年届けに上京していると言う。A君が現役で羽振りのよかった頃は、彼の驕りで赤坂の瀟洒な料亭で、女将直々のもてなしで「ふぐちり」のご馳走になったこともあるが、それも今や昔話。A君は大連からの引揚者で中学一年の時に知り合ったが年は一つ上。やることなすことが大人で、彼に扇動されて新聞を作ったり、街頭で台風被害者の義捐金を集めたりした。中でも忘れられないことは、停学処分になった級友を訪ねて被差別部落に入っていった時のことだ。余程印象が強かったのか、未だにその時の光景を夢にみることがある。当時は壊れかかった長屋が軒を連ねる薄汚い街も、今は見る影も無いのだが。そんな昔話に花が咲いた一夜だった。