『朽ちるインフラ 忍び寄るもうひとつの危機』
今月中の閣議決定と国会提出を目指している消費増税法案の民主党内における事前審査が始まった。今や1000兆円を越えた財政赤字、少子高齢化による社会保障費増の状況で、増税議論は待ったなしであるが、本書は書名の通り、「もうひとつの危機」である社会資本の崩壊を指摘している。 ここで云う社会資本(インフラ)とは公共施設(建築物(学校、病院、公営住宅、庁舎、公民館、図書館など)、インフラ(道路、橋梁、上下水道)、機械(廃棄物処理プラント、浄水場、下水処理場、医療機器、情報機器など)を指す。 80年代にアメリカに行ったことがある方はわかると思うが、どこに行ってもインフラが老朽化していることを実感したものだ。世界大恐慌後のニューディール政策により大量の橋梁や道路等のインフラ整備が行われたのは1930年代、それから50年が経過した時期だったのだ。翻って日本では東京オリンピックの前後がインフラ充実期にあたる。それからまさに50年。今、中国等の新興国に行くと、日本のインフラの古さを痛感するのは当たり前のことなのだ。 本書では公共投資予算が減少する中、インフラの更新需要が増大していることを具体的に示す(総額330兆円、年間8兆円)。さらに適切に更新が図られないと例えば橋の崩壊のような信じられないことが起きると警鐘を鳴らしている。日本のインフラはしっかりしているので大丈夫という根拠のない思いこみは間違いであると云うことだ(東日本大震災でいやというほど認識したと思うが)。 著者はいくつかの自治体におけるインフラの老朽化対策の実践例を紹介。基本的に人口が減少していく中、公共施設のマネジメントに関する情報公開、市民参加、民間提案等を通じて、公共施設の多機能化(学校に公民館を設置など)、インフラマネジメントの導入、広域連携(複数自治体での共同利用)、不動産の有効利用(廃校舎を利用したデザイナーズオフィスなど)、プロジェクト・ファイナンス、PPPなど、コストを抑制しながらインフラの更新を図る処方箋を提案、さらにインフラの「選択と集中」を図るべきことを強調している。 社会資本更新の危機は広く認識されているとは言い難い「ゆるやかな震災」である。しかし、利用するのも納税者として負担するのも我々市民。子どもの世代のためにもまずは足元の自分の住んでいる街の社会資本について考えることから初めて見たいと感じさせる好著である。一読を勧めたい。 著者は東洋大学PPP研究所センター長の根本祐二教授(日本経済新聞社刊、2011年)。