江戸の空気そのままに「百物語」
ほんとうに久しぶりに杉浦日向子さんの作品を読みました。彼女の作品は、かなり昔・・・確か私が学生の頃だったかな、新撰組に夢中になっていたときに「合葬」を購入しました。「合葬」自体は新撰組の話ではなく、彰義隊の少年たちが主人公です。新撰組と同時代に生きた、まだ幼い少年たちが戦に、そして時代に巻き込まれていくさまがとても切なく描かれていました。また同時期に、新聞記事で彼女が取り上げられていて、ずっと気になっていた作家でした。その記事は、時代考証家として有名な稲垣史生氏の弟子に若い女性がいるというものでした。新撰組が大好きだった学生時代に、毎週末は京都へ行き、新撰組関連の書物を読んで、すっかり江戸時代が好きになった私が、杉浦日向子さんの作品に惹かれるようになるのに時間はかかりませんでしたね。(笑)この「百物語」は、あるご隠居が、自分の住居を訪れる客らに珍しい話を1話ずつ聞いていくという構成です。毎回ご隠居が登場するわけでもなく、突然話が始まる時もあるのですが、それぞれの話の内容が、奇妙だったり、不思議だったり、こっけいだったり、そしてどこか物悲しかったり。1話から始まり、99話で終わるというところも、面白いです。100話聞いてしまったら江戸時代のばけものが出てくるかもしれませんから。(笑)現代のように照明器具が発達していなかった江戸時代では、ろうそくの光がとどかない部屋の隅に何か住み着いていても不思議ではない・・・と、作品を読み進むうちに確信を持ってしまいます。それは決してただ怖いだけではなく、どこか懐かしいような、私たちが失ってしまった大切なものを教えてくれているように感じます。そしてそれらは目新しい話ではなく、自分の遺伝子の中に刷り込まれているストーリーなんですよね。遠い昔、母から・・・いえ誰かから聞かされたような感覚があります。頁をめくるたびに、どんどん江戸の世界へと引き込まれていきますから、帰り道を見失わないように・・・ご用心。