「Begin~COLORSへ」ジェジュンとの恋 3
3、Begin 翌日、山本先輩からの電話で目が覚めたのは、渋谷のGホテルのベッドの上だった。「美咲ちゃん、起きてる?昨日はごめんな。あれからジェジュンと仲良くやったか?」「ちょっと先輩、ひどいじゃないですか。あんな子と二人きりにさせて帰っちゃうなんて」電話の向こうの先輩は笑いをかみ殺したような声で、「あんな子とはひどいな。ジェジュンはけっこう人気があるし、とってもイイ奴なんだよ。で、彼と何かあったのか?」と言う。「な、なんにもあるわけないじゃないですか!一緒に飲んで話をして、送ってもらっただけですよ」確かに、何もなかった。酔いがまわり、足元がおぼつかなくなった私を、タクシーに乗せて、ここまで送ってきてくれたジェジュン。部屋の前で身構える私に微笑むと、「じゃ」と言って、行ってしまった。なんだかあっけなかった。「美咲ちゃん、今日ヒマ?昨日付き合わなかったおわびにお昼をご馳走したいんだけど、渋谷の局まで来られる?」「そんないいですよ……」遠慮する私に、重ねて言う。「ちょうど午後から音楽番組の収録があるから、見学していったらいいよ」私は収録現場を見せてもらえると聞き、先輩の好意に甘えることにした。昼食を終え、山本先輩と私は放送局のスタジオに入った。天井には数多くの照明器具がぶら下がっている。上を見上げていると、リハーサルが始まった。澄んだ柔らかい声がスタジオに響く。なんだろう、とても優しい歌。心の奥にすっとしみこんでくる。♪泣きたいときは 泣けばいいから ねえ 無理はしないで涙枯れたら 笑顔がひらく ほら もう笑ってる♪歌声の主はと見ると、ステージに5人の若者が立っていた。ジェジュンの顔も見える。「ジェジュン?」「ああ、そうだよ。彼らが東方神起なんだ。イイ声してるだろ。以前ゲストで出てもらったら、けっこう反響があってさ。また出てもらうことにしたんだ」山本先輩が目を細めながら言った。♪Every day and night with you小さな君の手を握りしめるからEvery day ,every night,everywhereつながる感触を ずっと確かめよう 今 ものがたりはBegin♪「この曲は……?」私の問いに山本先輩は「『Begin』っていうんだ。この6月に出たばかりの曲だよ」と答えた。『Begin』……“始まる”って、私と康平はもう終わっちゃったけど。ジェジュンの声はまるで柔らかな光のように、私の心の痛んだ部分を包んでくれる。私は彼から目が離せなかった。収録が終わり、東方神起は控え室へと向かった。スタジオの出口でジェジュンが私に気付く。人懐こい微笑みを唇に浮かべ、走り寄ってくる。「美咲さん、来てたの?」「え、ええ。あの、昨日はどうもありがとう」しどろもどろになりながら私が言うと、ジェジュンはいたずらっ子のような笑顔を見せた。「美咲さん、これからヒマ?僕とデートしよう」「え?デートって……」私が答える前に、ジェジュンは「着替えてくるから待ってて」と言い残すと、控え室へと消えていった。どうしようかと迷っている私の前に、東方神起のメンバーがやってきた。「あなたが美咲さんですか?」リーダーらしき青年が問いかける。「え、ええ」「僕、ユノといいます。ジェジュンがあなたのことを話していました」「え?ジェジュンが私のことを?」「はい。とっても可愛い人に会ったって」ユノの言葉を聞いて、顔が熱くなった。「あ、彼女が美咲さんなの?ユノ」「ああ、そうなんだ、ユチョン」他のメンバーも私の周りに集まってきた。ますます顔が熱くなる。「ほんと、可愛いや~。ジェジュンヒョンのタイプだよね」「ジュンスヒョン、そんなこと言っちゃって、ジェジュンヒョンに怒られますよ」背の高い青年が困ったような表情で、ジュンスと呼ばれた青年をたしなめる。しかしジュンスは私の顔を見つめながら言った。「あ、うん、わかってるよ、チャンミン。でも彼女ソヨンに似ていない?」言ってから、しまったという表情になった。他のメンバーもお互い顔を見合わせている。「え、ソヨンって?」私はジュンスを見つめたが、彼は私から目を逸らすと、頭を下げて控え室に入っていった。「ごめん、なんでもないんだ。美咲さん、もうちょっとここでジェジュンを待ってやってくれるかな」ユノはそう言うと、他のメンバーと一緒に控え室に入った。入れ替わりにジェジュンが出てくる。「お待たせ」収録の時の衣装と違い、年相応にジーンズとTシャツを着ていると、私よりずっと年下に見える。「さ、行きましょうか」ジェジュンは躊躇する私の手を握り、強引に歩いていった。後ろを振り返ると、山本先輩がにこにこしながら手を振っていた。続く