i 西加奈子
i 西加奈子 ポプラ社
アメリカ人の父と日本人の母を持つアイは、シリア生まれの養女だ。優しい両親はアイを愛情込めて育ててくれている。しかしアイの心の中は、自分が他の誰かを押しのけて選ばれてしまったのではないかという罪悪感に苛まされている。高校の時の数学教師の「この世にアイは存在しません」ということばが、自分のことを指していないのに、ずっと心の奥に居座ってしまっている。そういう罪悪感からか、アイは世界中で起こった災害や事故、テロなどで命を失った人々の数をノートに書き留めるようになった。
連載小説をまとめたのではなく、書き下ろしの、この小説は、なるほどリアルタイムで起こっている世界中の悲惨な出来事が記録されている。阪神淡路大震災や911同時多発テロ、東日本大地震やシリア内戦。実際に起きている出来事が小説の中の主人公アイにも起こっている。アイの感情の動きと自分のそれと比較しながら、共感したり疑問に感じたりしながら読み進む。
自分の存在価値を求めるが故に、血の繋がった子どもを熱望するアイ。親友ミナがとった行動がどうしても許せない。
私もニューヨークでミナのとった行動は理解できないし、少々設定が破綻しているのではないかと感じる。しかし一番疑問に感じたのは、アイが自分の親のことを知りたがらなかったこと。自分の存在が曖昧で不安なら、その原因となった、「なぜ生みの親が自分を手離したのか?」ということを知りたいと思わないのか?
恵まれた環境で親友も寄り添ってくれ、ユウという優しいパートナーにも出会い、自身の頭脳も優秀で、それなのに子どもも欲しいという。アイは聡明で繊細だが、贅沢だ。他者に対しての引け目から罪悪感に苦しむが、そういった気持ちさえ、私は鼻についた。登場人物が全員良い人だというのも、そう思った一因かもしれない。ミナやユウが裏切るのではないかと、ヒヤヒヤしながら読んだ私は捻くれ者なのかなぁ。