もの作りの極み。
先日、NHKで京都・西本願寺の修復作業を長期にわたって取材した、「世界遺産・西本願寺10年大修復」 というドキュメンタリー番組をやっていたのだが、これが滅法面白かった。江戸時代初期に建てられた、西本願寺・御影堂の大規模な修復工事である。大掛かりな外側は屋根の梁、瓦、壁など、建物全体、そして内部は、柱、床、御簾、障壁画・・などである。 屋根部分は骨組みを解体し、老朽化して腐った箇所の梁と柱の修復、瓦の敷き直しをし、壁も塗り直す。梁の部分はカーブを描いた木が使われているため、同じように曲がった木材を探すところから始める。(樹齢100年~とも、150年とも思われる巨木を、山から切り出してくるのだ)解体して、使える材料はそのまま再利用する。しかし、その工法には、驚くとともに感心する。例えば、壁を再構築する際は、骨組みのあと、土壁を塗る。その土は、解体したときの、江戸時代の泥を使用する。泥の中には藁を入れる。その藁は、泥に混ぜて数ヶ月~半年ほど寝かせてから用いる。そうすることで、土中のバクテリアが藁を分解し、藁の繊維が細かくほぐれる。その繊維の広がった藁を含んだ泥は、土同志を繋ぎとめる役割をし、壁に塗ってもひび割れしにくくなるという。美観と共に、強度や耐震も兼ねてあるのだ。しかもそれが、既に江戸時代に考案されていたという事実・・。さらにその上から、漆喰を塗って白い壁が完成するのだが、その漆喰もまた、練って、寝かせて、職人の勘と経験によってちょうどいい固さとなめらかさに整えるのである。内部の修復は、支柱や障壁画の汚れの除去、剥落した部分の彩色、漆の塗布、さらに金箔による装飾・・など。障壁画の裏打ちには、こうぞで作られた強い和紙が使われるが、それをすくための巻きすの糸までが、職人さんの手作りで、(日本に一機しかない、強度の高い絹のより糸を織る機械で作られる)突き詰めると、一つ一つ、全部に細かく人の手が係わっている。前・後編に渡る長時間番組だったので録画して見たのだが、その後、何度か再放送されており、その度に(既に見たにも係わらず)必ずTVの前で足が止まってしまい,また見てしまうというロールプレイング状態(?)を繰り返してしまったのだが、何度見ても面白く、本当に奥が深い、究極のもの作り、もの作りの本質を見せてもらったという感のある、見応えのある番組だった。その見事な建造物(もちろん、文化的、芸術的価値も含めての)世界遺産とは、外観の美しさだけではなく、知恵と技術の結集した賜物でもあるのだ。それにしても、 微に入り細を穿つ とはこういうことをいうんだろうなぁ・・・その仕事の繊細さ(しかも300年以上も前に考案された)に、ほんとに脱帽です。