松井冬子展 「世界中の子と友達になれる」
3月2日 横浜美術館に松井冬子展を観に行く。以前から興味のあった日本画家松井冬子さん、彼女の本格的な大規模展覧会ということでどうしても観に行きたかったもの。代表作が全て見られるなんて、こういう機会にぜひ行かないと・・。みなとみらい駅で下車、あいにくの雨だが美術館はそこから数分のところだ。館内に入るや、本人の映像が大画面で現れて度胆を抜かれた。プロジェクタから流れるのは、松井さん初の映像表現だそうだ。ちょうどこの日から館内で流し始めたらしく、見れて良かった。ルイス・ブニュエルのアンダルシアの犬、の狂気を思わせる映像はスタイリッシュで、カッコイイ。普通じゃないボルゾイ犬が映像の中で動いていて、異様で摩訶不思議。広い館内に、本人の年表と略歴展示、その後テーマごとに作品が区切って展示されている。大胆な構図、ドキリとするモチーフ、日本画らしい細密な筆使い、私には学術的な解説はうまく出来ないが、技巧も優れていて、とにかくデッサンが素晴らしく巧い。その描写力はダヴィンチもかくや、いや、私的にはタッチの細かさはデューラーとも・・。ともかく、それだけでも必見に値するのだが、興味津々だったのは、製作過程の下図やレイアウト。配置を違えて何度も試行錯誤を繰り返した様子がその何枚もの下図から伝わってきて、そして、これだという1枚に突き当たる。神が降りた瞬間ともいえるが、テーマをとことん突き詰めた末の、必然、の瞬間とも思える。そこから先は一気呵成に仕上げて行くのだ。たぶん、そう思う。光が見えたら、あとは走るだけ。しかし、この、テーマごとの解説文(学芸員による)が、繊細かつ的確で、解説者の愛情すら感じてしまう。あんなふうに製作意図をちゃんと汲み取って解説されたら、作者冥利に尽きるのではないか。そして、作品の横には、作者自身による作品解説もあって、これがまた非常にユニーク。じっくり読みたかったが、後ろのお客さん(男性)が、煽るように接近してきてやむなく移動。残念。 悪天候のせいか、(それでも入客していると思うが)さほど混雑せずに、絵は比較的じっくりと間近で見られて満足した。ところで、この横浜美術館、立地もよいが建物自体もかなり広く、作品がゆったりと設置されていて、その空間の使い方がとても贅沢で良い。ソファーも適所に配してあるし、で。(以前上村松園展で行った、東京近代美術館とはえらい違い。)こちらの横浜美術館は、広くてモダンでかっこいい。美術館は、やはりその建物自体も(空間を含めて)展覧会、というものを堪能したいと思うのだ。何回かに一度、(来て良かった。画集とはまた違う、本物をじかに観る事ができて良かった。)こういう展覧会に巡り合う。松井冬子展 at 横浜美術館それがこれ。追記:私はこういう催しの際は図録を購入することが度々だが、今回もまた然り。展示物が多かったので、それが全て掲載されている今回の図録は見応えがある。件の本人によるユニークな作品解説をじっくり読みたいと思ったが、それはこれにはなく、豪華版の高価な作品集にのみ記載していたので諦めた。ところでこの図録、インクの匂いなのかなんなのか、とにかく紙の匂いが良くて、本を見ながらも、途中で何度もクンクンと匂いを嗅いでしまう。なぜだか得した気分になった。