役員会資料・役員会報告
ビジネスの場で、プレゼンテーションにパワーポイントが使われるようになって、かなりの年数が経つ。普及し始めの頃は、個々人の表現スタイルがストレートに反映され、小うるさい資料も少なくなかったが、最近では それなりに平均レベルが整ってきて、分かりやすいものが多い。そして、プレゼンテーションをする側のスキルも一般化されてきて、どこの会社・どこの業界に行っても、上手な人のプレゼンは 汎用的に通用する。パワーポイントで作るプレゼンテーション資料の対極にあるのが、役員会資料である。数千人・数万人の組織を抱える会社では、事業・技術・機能領域の数だけ役員がいるが、それぞれ専門分野の外までは詳しく知っている訳ではない。経営トップであるCEO・COOなども、大局的・経営直感的な判断は下せても、いちいち細かなことまでは憶えていない。そこで、役員会で審議するための資料は、各事業部門やスタッフ部門から、役員に決裁して欲しいことを理解してもらうために、こってり手間をかけられて作られる。当然のことだが、役員会資料は、社外に出ることがほとんどない。従って、自社の役員会資料が他社のそれとどのように違うのか、多くの人は知らない。例外があるとすれば、他社の社外取締役を兼務する役員自身と、各社の役員会資料の元となる戦略立案段階で関与するコンサルぐらいである。役員会資料は、パワーポイントが普及する何十年も前から存在していた。そのため、会社によっては、作成ツールとしてそれが使われても、あまりスタイルが変わっていないことがある。あるいは、パワーポイント導入によって、表現がすっかり様変わりした会社もある。ある大手自動車メーカーの役員会資料は、A3版にびっちり細かく書いた資料が基本スタイルだと聞く。同様のスタイルを採る会社は少なくないが、このメーカーの資料の特徴は、書いてあることがとても多いのに、良く整理されていて分かりやすいことである。パパッと資料を眺めるだけで、背景・やりたいこと・現在値と目標値・乗り越えるべき課題・解決手段・必要リソースなどが、手に取るように分かる。金太郎飴のように、どこを切っても○○ウェイが見えてくる同社だからこそ、いつも中身が整理・共有されている状態で仕事が進められており、そのことが資料にも表れている。A3版資料を使ってプレゼンテーションを行う場合、パワーポイントを使った場合と比べて、話し方が大きく変わる。パワーポイントでは、一枚一枚の画面送りがペースメーカーになるが、A3版資料では配られた瞬間に全てが見えてしまう。そのような資料を使って話す人は、その時点その時点で 細かな資料のどこを役員に見て欲しいのか、話しながらナビゲートする役割が求められる。ナビゲートでは、論点のストーリーに沿って落とし込まねばならず、途中で疑問点を抱かせてしまったり、飽きさせてしまったりするとすると、ストーリの最後まで付き合ってもらえなくなる。即ち、納得ある決裁が得られない。こんなテクニックは、技術やビジネスに関わる上で、本質的ではないような気がする。だから「資料が分かりやすい」「説明がうまい」と誉められても、ちょっと虚しい気持ちになる。きっと、悟りが足りないのだろう。