止める・呼ぶ・待つ
「止める・呼ぶ・待つ」という言葉をご存知だろうか。異常を顕在化させ、不良を流出させないためのルールで、いわゆるトヨタ生産方式では、一般的な考え方である。わずかな異常でも、それを見つけた作業者はラインを止め、管理・監督者を呼び、判断してもらうまで待つということ。逆に、作業者に「ラインを止めるな」というルールを課すと、生産性は維持されても、不良が後工程に流れる可能性が高まる。---モノづくりの品質を決めているプロセスには 大きく二つがある。一つは、試作や評価を繰り返して、設計図面を確定させたり、図面通りのモノが作れる製造・検査の条件を決めることによって、目論見通りの品質とコストで量産できる段取りを整えること。もう一つは、その条件に基づいた量産プロセスを運営する中で、不良を排除したり、不良が起こらないようフィードバックすること。私の中では、前者を設計品質、後者を製造品質と考えていて、工程設計・生産準備プロセスは前者、購買プロセスは後者に入る。先の「止める・呼ぶ・待つ」は、製造品質を維持するために、製造現場で不具合を埋もれさせず、顕在化させる仕組みである。直列に繋がった量産ラインを止めるのは、簡単なことではない。トヨタ生産方式で、仕掛在庫や工程間在庫が極小化されると、ある工程を止めることが、前後の全ての工程の停止を意味する。全工程の何十・何百人という作業者の仕事を止めるとなれば、たとえ1分間ラインを止めるだけでも、その損失は少なくない。しかし、作業者や管理者がラインを止めることを躊躇してしまえば、製造品質は危うくなる。だから「止める・呼ぶ・待つ」が必要になる。---クルマのボディについたほんの小さな傷を見つけた時に、瞬時の判断で、生産ラインを止めるボタンを押せるかどうか。生産計画に遅れが生じており、残業の恐れがあるとしたら、このまま見過せば早く帰れるし、問題は起きないかもしれない。逆に、たまたま1台についていた傷を顕在化させることで、残る何百台にも傷を付けかねない要素を排除できるかもしれない。このような現場のプロセスがうまく回っていることが、製造品質・設計品質改善のPDCAを成立させることにつながる。欧州車に乗っていると、設計上の目論見性能は素晴らしいのだが、小さな不具合や不安定さでは、日本車に負けている部分がある。その要因の中には「止める・呼ぶ・待つ」の効果もあるのではないか。