エンブリオ 上・下 (帚木 蓬生)
医療技術的に可能かどうか、道義的にどうかはさておき、主人公が順風満帆すぎるのが気になる。恋愛対象はともかく(ある意味お金で愛人を「買って」いるイメージーだし)潤沢な資金、優良な(口の堅い)顧客、優秀で忠実なスタッフとあまりにもそろいすぎていて、このまま順調に(あくまでも彼的に順調に)進んでいくとは思えないし…それだけ豪腕な主人公といったところか。でも傍から見ればある種の魅力あふれる人物なのだろうな。怖い。と、思いつつ下巻へ。医療の技術と倫理を「法的には全く問題ナシ!」とする主人公にはもはやダークヒーローとしての貫禄さえある感じ。アンチヒーロー?としてはむしろ清々しいかも(笑)で、医学的倫理観についてだけど、「こうするしか(他人の犠牲の上でしか)何何できない」(心臓移植しないと助からない、とか)という状況はこの例だけでなく臓器移植(細部までいえば輸血でさえ)などもそうだろうが、自分のあるいは愛する人の生命がかかってくれば倫理やらなにやら言ってる場合ではない、のかもしれないし、一概に責める訳にはいかないかも。順風満帆すぎる主人公の人生がやはり作為的(ミステリ的に)なのはやっぱり、でした。エンブリオ(上)エンブリオ(下)