復刻ブログ その1
http://ateliermusique.jp/ それでは、スタッフの熱いリクエストにお応えして、過去に一旦ひっこめたブログを、少しばかり再アップしていきますね… ~ひどいことをしたもんだ・乗っ取りライヴ~ 若いということは素晴らしい。何かをやってみたい衝動にかられた時、恐れず・迷わず・疑わずの精神で突っ走る事ができる。それが若さの特権だ。人間はある程度年齢を重ね、人生経験を積むと保守的になる傾向がある。何かをやってみたいと思っても、その先に待っている失敗や良くない結果を恐れて、行動に移さないままやめてしまう事がよくある。世間を知らないという事は時として大きな武器になる。大人はとるに足らない雑音に惑わされ、大事なものを見失う。若者は濁りのない目でそれを見きわめる。たが、その特権も良し悪しで、裏目に出る事もままある。 今日は、私のそんなハチャメチャな体験談をお話しよう。 それは私がまだ高校1年生の時の話だ。 その頃私は、あるロック・バンドでベーシストとして活動していた。まだお尻にカラを付けたヒヨッコバンドだ。にも関わらずその頃の私達は自信過剰で、自分逹はメチャメチャ上手いバンドだと思い込んでいた。 これ、メキメキ上達する初心者が陥りやすい錯覚で、私達はまさにそれであった。でもこれは一面大事なことで、思い上がりであろうが何であろうが、その自信はライヴやレコーディングなどでプラスに作用する。自信を持ってプレイすれば、それは音に反映され聴く人の心を動かす。たとえ下手でも何かは伝わる。いい意味での自己陶酔、自分が楽しめなきゃどうするの...ってやつね。逆にそつなく上手にできても、自信を持っていなければ、人は感動しない。聴く人はプレイヤーのその心の動きを音を通して鋭く見抜くのだ。大切なスピリッツはいつまでも持ち続けていたいものだ。 話を戻そう。 その頃、同級生の中に同じくバンドをやっている連中が何人かいた。少しだけ面識のあったS君が私に歩み寄って来て、「ムナカタ君、今度俺たちライヴやるから見に来てよ」 私はドラマーのMとサイド・ギターのYとの3人で見に行った。場所はとある市民会館。様々な催し物の為に広く市民に解放されている場所だ。中に入るとこれがなかなか広い。キャパ300人といったところか...私達もこういう所を利用してよくライヴをやったものだ。 で、もったいつけていたS君のバンドの演奏がやっと始まった。オープニングはクリームの「サンシャイン・ラブ」...イントロが鳴ったとたんにズッコケた。M・「...なんだありゃ?、...寝てるのか?」私・「......?」Y・(絶句)M・「あいつ、バスドラムを全然踏んでないよ」私・「いかにも」Y・(笑) S君には悪いが、チューニングもボロボロで、それはもう演奏の体を成していなかった...場内には寒~い空気が充満...私達3人は、それでもしばらく我慢して聴いていた。 ...が、最初にシビレを切らしたのが、ドラムのMだった。曲と曲の合間にズケズケとステージに近づいて行き、S君バンドのメンバーに向かって何やら言い始めた。このMという男、とんでもない破天荒な奴で、突然何を言い出すか、何をやらかすかわからないのだ。ステージからまた客席に戻ってきたMは私に耳を疑うような事を言った。「ムナカタ、お前あいつと知り合いなんだろ?じゃあ俺たちと演奏を代わるようにお前から言ってくれ。こんな演奏、聴いていられるか、だいたい金を払った客に失礼じゃないか!」 この男はそんな交渉をしていたのだ。 何を言い出すのかと思いながらも、それもそうだな...と私も同感した。言い出したら聞かないMである。ムードはだんだんそっちに傾いていく。ギターのYも賛成。決まりだ。 でも、ここでひとつ問題があった。私達のバンドメンバーは今ここに3人しか居ない。リーダーでリード・ギターのKが居ないじゃないか。Kは私よりひとつ年上で、彼の友人のOと一緒に何も弾けない私にベースとギターを最初に教えてくれた先輩である。 私・「...どうする?、Kを呼ぶか?間に合うか?...」Mが公衆電話に走る。M・「来る、来る!、Kが来てくれるぞー!」会場では相変わらずひどい演奏が続いていた。私達3人はグッと我慢してKの到着を今か今かと待った。 しばらくしてKが到着。ステージ上の演奏を聴くや否や、「こりゃひどいなぁ...」さあ、再び交渉だ。曲の合間を見て、今度は全員でステージに歩み寄る。M・「さっきの話だけど、ちょっと代わってよ」私・「1曲でいいからさ、ね、頼むわ」S君も嫌そうな顔をしながらも、「...じゃあ、ちょっとだけなら...」 ラッキー! S君のバンドメンバーはしぶしぶ舞台のソデへ...私達はすかさずステージに上がり、楽器を手にして円陣を組んで相談。K・「よし、あれをやろう」全員・「OK!」 Mのカウントと共に得意のロックン・ロール・ナンバーが炸裂!会場の空気は一変した。曲が終わると同時に、割れんばかりの拍手が...バカウケである。こうなりゃ1曲ではやめられない。続けて2曲、3曲とやった... 突然、ドラム以外の音が全部消えた...真っ暗な場内には観客のざわめきが...そして、S君バンドの冷たい視線...そう...S君が全ての電源を切ってしまったのだ。「失礼しました!」と、私達はステージを降りた。 ~でも、このスリル感はたまらなかった~ そしてまた客席に戻った私達は、彼らのライヴの続きを見た。エンディングはディープ・パープルの「ブラック・ナイト」だった。真っ昼間だというのに、「サンキュー・グッドナイト!」と言ってライヴを締めていた... 翌日、学校の廊下でS君とすれ違った。挨拶をしたが無視されたのは言うまでもない。若かったとはいえ、今思えばホントにひどい事をしたものだ...もし、逆の立場だったら... S君には、改めてお詫び申しあげたい。 ごめんなさい。