夢の続き
続きものの夢を、見たことはありませんか。もう、随分前の話ですが、私は逃げる夢をよく見ていました。はじめは、そこがどこなのか、自分が何者なのか、何に追われているのか、さっぱり分かりませんでした。ただ、暑い、行ったこともないような、貧しい民家の立ち並ぶ狭い路地を、どんどん逃げていく夢です。しばらく時が経って、その夢を忘れかけていたころ、続きを見ました。私はどうやら香港にいるらしく、またしても蒸し暑いなかを必死に走っていました。なぜ、香港だと思ったかというと、建物の様子と、人込みに紛れて逃げていくときにかわされている言葉が中国語だったこと、そして、人々の顔が、アジア系だったからでした。その夢の続きを見たとき、今度は自分がどこかの国のスパイで、香港マフィアのある情報を手に入れたか、もしくはそれを握っている人物を知っているらしいということが分かりました。追ってくる連中は、皆、小奇麗なスーツを着ていて、帽子をかぶっています。時代は20世紀初頭のようです。いつものように私は、蒸し暑い所を逃げ回っていましたが、香港ではなく、シンガポールかマレーシアか、場所がかわりました。それは、すれ違う人々の顔が、アジアでも、日焼けした南方系の顔に変わっていたからそう思っただけです。最後にその続きを見たとき、とうとう、自分が出てきました。洗面台の鏡に向かってヒゲを剃っています。私は、初老のヨーロッパ人、しかも男でした。ついに逃げ延びて、アジアを脱出し、薄いコートに帽子をかぶって、そのホテルを出ました。外は、深い霧に包まれた朝でした。霧の中から一人の男が現れます。私は、そうなることを知っていました。彼は、私に、情報を知っている男の名前を言わなければ殺す、といい、私は頭に銃口を感じました。私はその名前を知っていました。そして、一瞬、ほんの一瞬だけ迷いましたが、「言えない」といいました。ぱっと目の前が白くなって、すぐに真っ暗な闇になりました。私は夢の中で、「死んだんだな」と思いました。そして不思議なことに、その時かばった男が、実は今の旦那だと直感したんです。それを最後に、その不思議な夢の続きを見ることはなくなりました。私は夢の中で、彼を売らなかった、そんな自分がとても誇らしく思えました。