年齢=記号
私には何年も前から不思議に思っていることがあった。どうやら私より年上の方に限られるらしいこと。“自分の”年齢を相手に言う時に、例えば68歳の方なら「ロクハチ」74歳の方なら「ナナヨン」という風に、「ろくじゅうはち」「ななじゅうよん」とは絶対に言わないことに対してなんでだろうってずっと疑問だった。きっかけは、数年前にカフェでゆっくりしていた時、隣に座る高齢の方の会話を聞いたことだった。話の最初から最後まで一度として「〜じゅう〜」という言い方はしなかった。決して。それがずっとずっと不思議でならなかった。私は情報にはとんでもなく疎いので、おそらくテレビか何かで有名人がそういう言い方をし始めたのだと想像するが、「ろくじゅうはち」って言えばいいのに。ただこれは“自分の”年齢を言う時だけに限られた。誰かの噂話をする時には、「◯さんは〜じゅう〜歳」と言う。これについてはひどく違和感を覚えた。が、最近、その気持ちが少しだけわかるような気がする。「ろくじゅうはち」と言うと、そう、自分の年齢が思いの外重くのしかかるのだ。「〜じゅう〜」という言い方は否が応でもその数字が目の前に大きく現れ、あまりにも現実を突きつけられる感じを味わうのだった。「ロクハチ」という風に「〜じゅう〜」を発音しないことでどれだけ軽い軽い数字になることか。いや、もやは数字ではないのかもしれない。ただの記号である。たったそれだけのことだが、胸にドンの響く「〜じゅう〜」重さは一切感じない。自分の年齢を非現実であやふやなものにしたいのだなと、じっと考えてみてそう思った。所詮誰しも自分が一番かわいい。他人のことなど知ったこっちゃない。私自身が「ヨンニ」と言うことはまだないだろう。否、私はもっと歳を重ねたとしてもそういう言い方はしたくないし、「〜じゅう〜」という言い方で正しく表現したいと思っている。とは言え、そういう年上の方の感じ方が少しだけわかったような気がした自分もまた、着実に歳を重ねてきた証拠だなと、ふとおかしくなって苦笑いした。