父と母
父が亡くなったのはバタバタと忙しない3月末だったが、私は大学3回生へ、妹は高校を卒業して既に大学入学が決まっているという、あと数日で新生活が始まる時期だった。あまりに突然の出来事で私たち3人は途方に暮れたが、それでも日々は巡り生活していかなければならない。母は専業主婦だった。その数年前に入院していたこともあり、今更働きに出ることはおそらくできないであろう。私と妹は静かに目を合わせ、「学業は諦めて働こう」とそう頷き合った。すぐに母にその旨を伝えた。だが、母は即座に二人とも大学は出なさいと言った。きっとお父さんもそれは望んでいない、と。今すぐに蓄えがなくなることはないから、あなたたちの大学の費用はずいぶん前から貯めていたから、と絶対に首を縦に振ることはなかった。結局、私たちは学業に専念することになり、私はピアノを教えるアルバイトを、妹は飲食店でアルバイトを、母は自らの身体に鞭打って2年間仕事に出た。私は知っていた。母がこう思っていたことを。あの子、大学を卒業しなかったら中卒になるわ。この時代中卒はさすがにねぇ、親としてそれだけは避けなければ。そう、母は私が中卒という学歴になることを誰よりも恐れたのだった。そうして私は晴れて大学を卒業し、学歴は大卒となった。高校の時のように途中で投げ出すことがなかった私を見て、母は心の底からホッとしたことだろう。今私はぐうたらして偉そうにのさばっているけれど、私がこうして生きられているのも、すべては両親のおかげなのである。