『沈まぬ太陽』
日本航空がモデルの山崎豊子のビジネス小説。かな? 労働組合のリーダーとして、会社側との交渉に勝ち、年末手当4,2という回答を勝ち取った辣腕の主人公恩地。しかし、そのごり押し振りが会社の経営陣の反感をかってしまい、僻地へと左遷されてしまう。そののち、日本に戻ってきた、彼は、さらに御巣鷹山の事故の処理という仕事に携わる。この事故をきっかけに退任した会長のあとにやってきた新しい会長の下、会長直属の室長として、新しい国民航空改革にとうちこんでいく。その裏で、会社の経営陣は、汚職等、会社の利益を裏の手口で自分たちのふところにいれるような事態になっていく。 腐っていく国民航空内部。しかし、改善の途中で、会長は、辞任に追いこまれ、会長の下で働いていた恩地もまた、かつての左遷の地、ケニアに再度、とばされてしまうのだった。 会社の不正と、戦い続ける善人として描かれる主人公恩地。会社の利益を裏から自分のふところにいれる重役たち。 でも、最初に会社の利益をむさぼり始めたのは、恩地自身ではないのだろうか。 労使交渉での組合の要求は、年末手当4.2だったけど、年末ボーナス4.2ヶ月ってことは、一年で8.4ヶ月ってことですよね。だいたいボーナスの相場は、年間4ヶ月くらいだと、思うのですよ。メーカーがだいたい4ヶ月で、金融とかはもっといいはず。そして、一番安いのが、建築で2.5ヶ月くらいです。今はどうかわからないけれど、昔私が就職しようとしたころの相場はこのくらいでした。 それが、1962年当時に、8ヶ月以上のボーナスを会社側に要求しているわけだから、かなりむちゃくちゃというか。ごり押しですよね。主人公恩地は、このあと、御巣鷹山で死んだ人の遺族の人たちの気持ちをくんで同情的に行動しますが、この最初の時は、労使交渉のために、ストまで結構しようとしています。飛行機がストなんかしたら、どれほどたくさんの人が困ることか、しかも、こんな高額の手当ての要求でどれほど会社の経営が苦しくなることか。おかげで、日本航空のチケットって世界一高いですしね。 御巣鷹山事件が会社の経費節減による安全性の欠如であったとしたら、会社が悪いだけでなく、ここまでの高額のボーナスを会社側に要求した恩地自身の行動も影響しているのではないでしょうか。 後半会社内の経営陣や、関連会社、政治家を巻き込んでの汚職事件などもでてきますが、会社に金を求めることを一番最初にしたのは、恩地自身ではないでしょうか。 恩地自身もまた、資本主義社会の中で、高額の収入を得ることという価値観に洗脳されていのではないでしょうか。会社に迫害されている割には、物語の中でかれの自宅はだんだんランクアッブしていきます。最初は団地住まいだったのが、一戸建てになり、そのあと、さらに現代風のきれいな家になっています。迫害はされてますが、しっかり高給は、もらっているのですよね。家一軒買うのすら、普通の私たちはすごく大変なことなのにね。迫害されても、恩地は決して会社を辞めませんでした。彼の教示にかかわるからと、彼はいいますが、あれほど必死に会社と戦い、かちとった高収入を投げ出すのはばかげています。しっかりと、自分たちが勝ち取った権利は、もらうべきですから、彼が会社を辞めないのは、当然なのかもしれません。 さらに、左遷された土地のケニアでの猛獣ハントや、その獲物を剥製にして部屋に飾っている趣味の悪さといい、御巣鷹山事件での彼の人情味ある行動とのずれを感じてしまいました。 高額のボーナスの要求や、御巣鷹山事件での、補償額の交渉など、彼には、経営者としての視点がありません。そして、ごり押しによって、会社の経営陣側から徹底的に嫌われてしまいます。実際、彼があそこまで強硬な行動をとらなければ、あのあと、国民航空社内で、傀儡の組合ができたり、複数の組合ができたり、かつての組合の同僚が彼と同じように会社側に迫害されることはなかったかもしれません。 恩地は、会社内部の不正を調べるためにアメリカにとびます。アメリカの動物園の中には、「地上最強の生き物」として、その文字の前に、見物している人間たちが格子越しに見えるよえになっているところがあります。ちょうどそこに立つのが恩地です。人間こそ地上最強の生き物であるという、ジョーク。でも、そのほかにも、物語の中で最悪の人物という遠まわしなメッセージでも、あるようにみえました。 8ヶ月も社員にボーナスを持っていかれたら、会社はたちゆかなくなってしまわないのでしょうか。会社の安全性のために必要だと、恩地は言うけれど、安全性のためなら、機体の整備などにも、経費をかけなければなりません。でも、あの巨額の人件費のせいで、整備や機械部品などがけずられたのだとしたら、会社自身の経営が圧迫されているとしたら、どうなのかと、考えると、恩地の行動は、最も、会社の金を食い尽くす行動だったのでは。 そして、狭い日本の中のさらに一つの会社の中での出世を目指す。そんな狭い世界、狭い視点にとらわれている自分自身に、ラストで恩地ははじめて気づくようでした。 そして、今現在物語モデルとなった日本航空が本当に経営不振で倒れそうです。だって、日本航空って給料いいものね。つぶれるはずだよね。とダンナと話します。他の会社が2.5ヶ月とか、4ヶ月とか、さらには、ボーナス減額というきびしい状況で働く中で、高額の給与をもらいつづけているのだとしたら、この先どうなるのでしょうか。 恩地は、会社のためといって、常に誠実に働き続けてはいますが、彼には、経営者としての、金銭的視点がないようにも見えます。会社は打ち出の小槌ではないのですから、たとえ必要であったとしても、いくらでも彼の要求のままにお金をだせるわけでもなく、そいうい方向での見方ができないかぎり、恩地は、アフリカにとばされつづけてしまうのではないでしょうか。 ラストで、ふただひ、アフリカに戻った彼には、もう猛獣ハントはしないでほしいです。 出世とか、お金とか、そんなことに必死になって、狭い日本の中で暮らしてるなんて、どうしてでしょう。私はできれば、世界中をまわるような仕事の人と結婚して、世界中のいろんなところに住んでみたかったです。仕事があって、収入を約束されつつ、世界のいろんなところに暮らせるなんて、ある意味贅沢じゃないのかな。 そんなことに気づく余裕も彼にはなかったのです。というよりも、あの時代日本全体が、そんな価値観の中でいきていたのですよね。長い映画なので、真ん中に10分の休憩がありました。休憩のある映画なんてはじめてかもしれません。トルコあたりだと、結構あるそうですが。トイレにいこうとしたら、ドアの前で、飲み物やホットドック売っていました。商売うまいなぁ。休憩のおかげでエコノミー症候群にならなくてすみました。ははははは。重厚な映画で飽きることはなかったけど、クビがいたくって辛かったです。 沈まぬ太陽@映画生活