(2014年資料) 張氏粛清、背後に“3者連合” 党・軍・秘密警察 2014-1-5 産経新聞
(2014年資料) 張氏粛清、背後に“3者連合” 党・軍・秘密警察 2014-1-5 産経新聞 北朝鮮ナンバー2だった張成沢氏の粛清の背景が徐々に見えてきた。利権をめぐる争いと、党・軍・秘密警察の“3者連合”により、張氏の命運は決まった。 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権でナンバー2の権力を誇った張成沢(チャン・ソンテク)氏の失脚は何が決め手となったのか。韓国政府の分析や消息筋らへの取材から、ベールに包まれた張氏粛清の背景が見えてきた。 朝鮮労働党の守旧派と朝鮮人民軍、国家安全保衛部(秘密警察)が手を結んだ瞬間、張氏の命運は決した。党・軍・秘密警察と金正恩第1書記をつなぐ人物の動向が鍵を握ったとみられる。 北朝鮮の内情に詳しい消息筋らは昨年10月下旬に起きたという“事件”に注目する。舞台は北東部の54水産事業所。11月に処刑された張氏側近の張秀吉(チャン・スギル)党行政部副部長が所管していた。 「不正に利権を独占している」との告発を受け、金第1書記の命令で乗り込んだ軍の査察部隊に対し、事業所幹部は「行政部長(張成沢氏)の許可なく、立ち入らせない」と激しく抵抗。銃撃戦になり、死者が出たともいわれている。 「金正恩最高司令官の命令に公然と背いた」との報告を聞いた金第1書記が激怒し、最終的に張派排除を決断したという。 行政部傘下の「54部」は水産事業に限らず、石炭や電力、日用品を軍部隊に供給し、軍の「生命線」を握る。もともと水産物や石炭輸出は軍の主要な外貨獲得源で、張氏率いる行政部が次々とこの利権を奪った。 「ここをどこだと思っている。張部長の管轄だぞ」。金第1書記の命令で別の査察が行われた際にも、54部傘下の企業幹部はこう言い放ったと伝えられる。 韓国の情報機関、国家情報院は「行政部の利権介入をめぐる他機関との軋轢(あつれき)が粛清の引き金になった」と分析する。正恩政権は昨年12月中旬の張氏処刑を公表するに当たり、張氏が「自分の部署を誰も触れられない『小王国』に仕立てた」と怒りを示した。 中朝情報に詳しい李相哲龍谷大教授は「張氏には金第1書記も手出ししないとの過信があったのだろう」と指摘する。利権奪取を見せつけるように、金第1書記は張氏処刑後に軍の水産事業所を視察し、軍の水産部門職員を表彰した。 今回の粛清は、金日成(キム・イルソン)主席時代以来、幹部人事を握り、「党最大の実権組織」といわれた党組織指導部が主導したとされる。検閲部門トップの同部第1副部長には、たたき上げの趙延俊(チョ・ヨンジュン)氏が就任していた。 組織指導部をめぐっては、同部が管轄していた警察などの司法権を、金正日(キム・ジョンイル)総書記が後継者(正恩氏)の後見役となる張氏の行政部に移譲した経緯がある。「張成沢は純粋に党の人間ではない」。権限を奪われた組織指導部側はこう見下し、「張派排除が組織指導部の長老たちの宿願だった」(消息筋)とされる。 一方で、「党が派遣した純粋な党の系譜だ」と組織指導部内で評価されていたのが、軍を監督する崔竜海(チェ・リョンヘ)軍総政治局長だという。金主席と抗日戦を共にした崔賢(チェ・ヒョン)氏を父に持つ「血統の良さ」ゆえの信任だった。 崔氏が昨年、金第1書記の視察に同行した回数は150を超え、側近中で突出していた。張派への「軍の不満」と「組織指導部の意向」を金第1書記に進言できる立場にいたわけだ。 金主席時代から政敵の粛清などで中心的役割を担ったのは国家安全保衛部だった。張氏はこれまで保衛部幹部らの失脚にもかかわったとみられており、張氏への反発は部内に根強い。結局、金元弘(キム・ウォンホン)部長は張派排除に同調、党・軍・秘密警察の“3者連合”が成った。皮肉にも、金元弘氏と崔氏の地位を引き上げたのは張氏本人だったという。 張氏は拘束前、金第1書記と直接会って弁明する機会を求めたが、阻まれたとも伝えられる。 (桜井紀雄)