小学生もキャッシュレス。深圳で進む現実 2018-1-14 News Socra,
中国株をやっている人なら、知らない人はいない「深圳」。 格差の大きな中国の中では、先進地区。中国経済をリードしている。 「広東省深圳市が今、脚光を浴びている。未来感あふれる新たなサービスが続々と導入され、気鋭のベンチャー企業が次々と登場するイノベーション・シティ。停滞感漂う日本とは異なる世界が存在する」(Newsweek 日本語版) ―――――――――――――――――――――――――――――――――― [Part1]小学生もキャッシュレス。深圳で進む現実 2018-1-14 News Socra, 30数年前には人口わずか3万人ほどだった寒村、中国南部の深圳。急速な経済発展を遂げ、今や1000万人を超える大都会に変わり、「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでになりました。一攫千金を夢見る若者が世界中から集まり、新しいライフスタイルやビジネスを次々に創り出しています。 深圳の「豊かさのニューノーマル」、現地からお伝えします。(朝日新聞広州支局長兼香港支局長 益満雄一郎) ここは中国なんだろうか? 深圳にいると、よく自問する。 高さ600mもの超高層の建物が並び立ち、街には電気自動車のバスが当然のように走っている。レストランでは自分のスマホで料理を注文できるため、店員がメニューを持ってこないこともある。若者たちは財布を持ち歩かず、スマホで支払いを済ませる。 そんなIT化が進む街で生まれ育った、一人の少女に会った。 深圳市内の小学5年生、張依然さん(10)。身長は160cmを超え、背格好は長身のお母さんの胡慕雯さん(36)にそっくりだ。算数や理科が好きで、将来は先生になりたいという。 張さんに普段の暮らしについて聞きながら感じ入ったのは、私が知る日本の子どもたちと比べ、IT機器をかなり使いこなしていることだ。 張さんは小学2年生の頃から、GPS付きの腕時計を着けている。「安全対策」として母親の胡さんが、娘の居どころをすぐに把握できるようにするためだ。 中国では実際、子どもの誘拐も少なくないし、交通事故に遭う危険も現実にある。車の運転は日本よりもはるかに荒い。「50人いるクラスメートのうち、腕時計を着けてないのは1~2人ぐらいかな」と張さんは言う。 GPS付きの腕時計は数百元(1元は約17円)。胡さんは「仮に腕時計を紛失したとしても安いし、腕時計にあるデータは外部から消去できるので安全です」と話す。 学習塾の宿題も、スマホ上のアプリで講師とやりとりする。特に使いやすいのが英語だという。英語の会話を聞いて、その内容を書き留めるリスニングと書き取りの宿題も可能だ。月謝は、中国版LINE「微信(ウィーチャット」で支払う。 ノートなどを買う場合も、2年ほど前からタブレット端末「iPad」を活用しているという。実際に文具店に足を運ぶこともなくはないが、「ネットだと自宅まで届けてくれて便利。それに、その方が安い」と張さんは言う。 私には中学生の息子がいるが、彼はまだネットで買い物をしたことはない。ましてや小学生となると、日本でもまだ多くはないと思うが、深圳は違う。胡さんいわく、「1990年代生まれの若者はほとんど、現金なんて持ち歩かないですよ」。 取材中、最も印象的だったのが、現金の将来に対する考え方だ。張さんは毎週10元程度のお小遣いを現金でもらっているが、現金を見る機会がどんどん減っているという。「いずれきっと、現金がない世界がくるんじゃないかな」 私の場合はいつも財布を2つ持ち歩いている。中国本土で使う人民元を入れる財布と、香港で流通する香港ドル用の財布だ。外出時には財布を持つのが当たり前となっている私には、現金のない生活なんて想像もできないが、張さんの目には違った将来が映っている。それも「深圳っ子」としては自然かもしれない。 人口1千万人を超える大都市の深圳は、IT関連の企業で働く若者が多く、20~30歳代が全人口の約3分の2を占めている。 10歳の張さんは、深圳を支える中心世代のさらに「次」を担う存在だが、彼女たちが深圳から中国、世界をどう変えていくのか。ますます目が離せないと思いながら、深圳をさらに歩いた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 深圳的世界(2) 深圳の無人コンビニ、いずれはスマホなしの手ぶら決済も? 2018-1-14 News Socra, 小学生の女の子までもがキャッシュレスで買い物をしている中国・深圳。その流れを後押しするひとつが、コンビニエンスストアだ。アメリカで生まれ日本でより便利になったコンビニが、今は中国でさらに大きく進化しつつある。 深圳で8月にオープンした、店員ゼロの「無人便利店」(無人コンビニ)を訪ねた。(朝日新聞広州支局長 益満雄一郎) 取材に向かったのは、深圳に本社がある流通企業「天虹商場」の無人コンビニ「Well GO」。実験店はこの会社の倉庫の駐車場の一角にある。一見すると、鉄道輸送で使うコンテナのような箱形の建物で、広さはわずか12平方メートル。商品の陳列スペースをのぞくと、店内は人が歩くがやっとの狭さだ。 利用者は事前に会員登録を済ませておく必要がある。店の入り口に貼り付けられたQRコードを自分のスマホで読み取ると、ドアのカギが開く仕組みだ。 店内には、飲料やパン、お菓子など350種類の商品がところ狭しと陳列されている。なにせ日本の一般的なコンビニの半分以下と狭いので、品ぞろえは必要最小限といえる。「今のやり方だと、おでんのような店内で調理する商品は売れないので、何とかならないか検討しています」。案内してくれた天虹商場の謝志強さんは言う。確かに品ぞろえは、有人コンビニに見劣りするのは否めない。 それでも、支払いは有人コンビニよりもはるかに手っ取り早い。商品には金額などの情報が盛り込まれたタグが取り付けられていて、買いたい商品を無人の「レジ」に置くと機械が金額を集計、金額とQRコードが表示される。支払いはスマホでできるよう事前に設定しておけば、QRコードを読み取って数秒もすれば完了だ。 逆に、現金では支払えない。 スマホでの支払いは中国で急速に普及している。スマホ支払いなどのモバイル決済は2016年、前年の約5倍の58.8兆人民元(約1千兆円)という巨大な規模にまで膨らんでいる。 中国のネット通販大手「阿里巴巴」(アリババ)系の「支付宝」や「微信支付」といった決済サービスが一般的で、スマホでお金を払うたび、自分の銀行口座からお金が引き落とされる。 天虹商場ではもともと、1日あたりの売り上げを875元(約1万5千円)と予想していたが、ふたを開けると予想の約2倍の1600元前後で推移しているという。無人コンビニが珍しいこともあって、ちょっとした「観光名所」になり、お客が予想以上に多かったこともあるが、「立ち上げは順調です」と、天虹商場のコンビニ部門責任者、朱艶霞さんは言う。 「無人コンビニといっても商品陳列やタグの取り付けは手作業。完全に無人にはできない」と朱さん。 とはいえ店員の数は減らせるため、運営コストは有人店舗の約4分の1で済むという。中国の人件費は大都市を中心に毎年上昇しているだけに、これだけ大きくコストを減らせるとなれば、経営側にとっては大きな魅力だろう。 私も試しに、ミネラルウォーターを1本買ってみたら、とっても便利だと実感した。だが、朱さんは「お客の買い物をもっと快適に、もっと短時間にしたい」と、まだ満足していない様子だ。 朱さんたちがさらに目指しているのは、スマホすら使わない買い物だ。 朱さんによると、お客の行動は4段階に分けられるという。①スマホをかざして入店②商品選び③スマホで支払い④出店、だ。もし①と③のプロセスを省略できれば、利用者は気ままに店に入り、欲しい商品を選んでそのまま店外に持ち出せる。わざわざスマホをかざす必要もないし、「レジ」の前で並ぶ必要もない。 そのカギを握るのが、顔や手のひらの静脈などで個人を識別する認証技術だ。まだ検討段階だというが、これを導入できれば、店に入った瞬間に買い物客を特定できる。商品を持ってそのまま店外に出ても、出た瞬間に自動課金されるので、万引きも防げる。 だが、そもそも無人コンビニが中国全体でどれだけ普及するかは、まだ見通せていない。利用者のプライバシー保護について、今はそれほど大きく取りざたされていないが、懸念する人も少なくない。 技術的にも、商品につけられたタグを読み込む装置はまだ費用がかさみ、量産化でコストを下げる必要もある。顔や静脈による認証も、さらなる技術改良は不可欠だ。当面は、深圳のような大都市で試験的に開店し、技術が追いつくかどうかを確認しながら、店舗網の拡大を判断するのだろう。 そもそもコンビニほど、私たちの日々の暮らしを変えたものはないだろう。24時間営業は言うまでもなく、ATMの設置や宅配荷物の受け取り、防犯や災害時の拠点など、新たな機能を次々と備えて、もはや単なる小売店ではなくなっている。産業史の観点からみても影響は大きい。 たばこ店や米屋などの零細商店が中心だった日本の流通業界に、セブンーイレブンなどコンビニが1970年代以降、フランチャイズ方式による大量出店という手法を持ち込んで、産業地図を一気に塗り替えた。もともと1920年代に米国で誕生したといわれるビジネスが、日本で進化した。 それでも長らくコンビニは、どれだけ便利な場所にいかにたくさんの店を出せるかという出店戦略が成否のカギを握る構図自体に、さほど変化はなかった。中国の未来型コンビニは、こうした「勝利の方程式」に最先端のITをいかにいち早く導入できるか、という新たな要素を持ち込んだ。 今や深圳だけでなく、北京などでも無人コンビニの運営が始まり、今年の中国は「無人コンビニ元年」とも呼ばれている。競争がどんどん激しくなっていくのは確実だ。 だが朱さんは、深圳にいるからこその強みを背景に自信をみせる。「私たちは、深圳のIT企業から最新技術の提供を受けることができる。技術面ではまったく心配していない」