「ベルリン陥落1945」アントニー ビーヴァー(著) 白水社 ビーヴァー,アントニー著, 川上 洸 (翻訳)
「ベルリン陥落1945」アントニー ビーヴァー(著) 白水社 ビーヴァー,アントニー著, 川上 洸 (翻訳)(ヤフオク出品本の紹介記事から・・・・・)第二次大戦の最終局面、空前絶後の総力戦となったベルリン攻防。綿密な調査と臨場感あふれる描写で世界的大ベストセラーを記録した、戦史ノンフィクション決定版! ヒトラーとスターリンによる殱滅の応酬を経て、最終章、戦場は第三帝国の首都ベルリンへ…。綿密な調査と臨場感あふれる筆致、サミュエル・ジョンソン賞作家による、「戦争」の本質を突く問題作。 戦争と性暴力は不可欠な関係にある。ヒトラーとスターリンによる殲滅の応酬を経て、最終章、戦場は第三帝国の首都ベルリンへ…。一般市民を犠牲にして遂行されたベルリン攻防戦の惨状を綿密な調査と臨場感あふれる筆致で描く。 数百万の兵員と最新兵器を総動員して交戦した、人類史上、空前絶後の「総力戦・殲滅戦」の最終局面、それがベルリン攻防戦だ。本書は、サミュエル・ジョンソン賞作家が、回想や記録、各国の資料や文書などを綿密に調査し、複雑な戦況、戦時下の一般市民の様子を生き生きと活写した、戦史ノンフィクションの決定版だ。 本書の特徴は、公開された旧ソ連の極秘文書にあたり、驚くべき情報が多いことだ。たとえばここ二十年、ドイツ領内での一般市民、とりわけ女性の被害について公然と議論されるようになった。本書ではこうした成果や証言をもとに、女性に対する性暴力を告発する。しかし、ソ連将兵による性暴力の犠牲になったのは、ドイツ人女性だけでなかった。強制収容所から解放されたばかりのユダヤ人やポーランド人、さらにはソ連人女性にも被害が及び、極限状態を生き延びるために敵兵の愛人となるケースも多く見られた。 また、グロースマンやシーモノフなどソ連従軍作家の記録が描写に起伏を与え、ソ連諜報部員が内務人民委員部に宛てた報告書が初めて公開され、ソ連軍の内情や将官の行動がよくわかる。ほかにも、投降した元ドイツ将官たちの監房での会話を盗聴した記録など、臨場感ある描写が興味深い。 本書は世界で百万部のベストセラーを記録、「戦争」の本質を暴く問題作といえるだろう。解説=石田勇治 写真・地図多数収録 【著者略歴 ビーヴァー,アントニー】1946年、ロンドン生まれ。陸軍士官学校に学び、英陸軍将校として5年間、軍務に就く。除隊後は執筆活動に入る。『スターリングラード運命の攻囲戦1942‐1943』でサミュエル・ジョンソン賞など多数受賞 【目次】 地図/凡例/用語・訳語解説/まえがき 新年を迎えるベルリン/ヴィスワ河岸の「カードの家」/炎と剣、そして「崇高な怒り」/冬季大攻勢/オーデルめざして前進/写真ページ(1~14)/東と西/後方地域の掃討/ボンメルンとオーデル橋頭堡/目標はベルリン/宮廷と参謀本部/とどめの一撃の準備/来襲を待って/エルベ河岸のアメリカ軍/戦闘前夜/ライトヴァイナー・シュポルンに立つジューコフ/ゼーロウとシュプレー/写真ページ(15~29)/総統最後の誕生日/ナチ・エリートたちの逃亡/砲撃下の都市/むなしい期待/市街戦/森林戦/側近の離反/写真ページ(30~49)/総統のたそがれ/総統官邸とライヒスターク/戦争終結/敗者の悲哀/白馬にまたがる男 解説 スターリングラードからベルリンへ 石田勇治/訳者あとがき【イラクの米兵も同じような思い込みの中にいるのではないか?】 赤軍の戦争状態が長引くにつれて、スターリンは「戦地妻」の容認に踏み切ったが、そうした「戦地妻」はドイツ女性へのレイプに対して「わが軍兵士のふるまいは、絶対に正しい」と言い放つ(pp.72-75)。これなんかは、イラクの刑務所で囚人たちを裸にした写真に納まった、アメリカ軍の若い女性兵士を思い出させる。赤軍の兵士たちは「ヨーロッパをファシズムから解放する道徳的使命を引き受けたからには、個人のレベルでも政治のレベルでもまったく思いのままにふるまうことができると」(p.76)思い込んでいたに違いないとしているが、イラクの米兵も同じような思い込みの中にいるのではないか。 ビーヴァーによると、赤軍兵士のドイツ人女性に対するレイプは4つの段階に分けられるという。第一段階は、ドイツに攻め入り、その領内の生活水準の高さを知った赤軍の兵士たちが怒りを燃やして、その怒りの矢を女性に向けていた段階。この段階のレイプには激しい暴力を伴っている。第二段階はやや落ち着いたものの、性的な戦利品として扱った段階。 次の段階はドイツ人女性の側からの接近として考えられる。レイプに暴力が伴わなくなれば、飢餓が進行する中であれば、特に食べさせなければならない子供をかかえている女性は、食物と交換で積極的に春をひさぐ段階だ。第二次大戦期の米軍兵士にレイプが必要なかったのも、大量にタバコや食料を保有していたからだ、としている。この段階でレイプと性的共用の区別はあいまいになり、最終的な第四段階では、「占領地妻」として同棲するようになっていったという【かつて、そしていまも語られる神々の黄昏】 ベルリン。かつてはパリすら凌駕すると謳われた都市。その悲劇的な終焉は、ある種の暗い魅力で人の心をざわつかせずにはおきません。 なんとなれば、物書きこそ魅入られるというものではないでしょうか。 ノンフィクション/フィクションを問わず数多くの作家、売文家、劇作家、漫画家、フェミニストらが、この第三帝国帝都の最後の幕間を自らの著作としました。 スターリングラードに関する著作で高い評価を得た著者が、この主題を扱うことになるのも当然の成り行きでしょう。 実際、読みやすく地図も判り易いのですが正直な所、目新しさを感じませんでした。 先にコーネリアス・ライアンによる66年出版の「ヒトラー最後の戦闘」という名著が存在するのですから、何らかのアドバンテージが欲しいところです。もちろん、60年代に知りえなかったソ連側の情報などは興味を引くものではありましたが、この価格を考えると相応だったかは疑問です。とはいえ、「ヒトラー最後の戦闘」は絶版のまま。第三帝国の最終局面を知るのには現在のところもっとも良い本かも知れません。 【「木も森も見る」大作!】 600ページ余りの大著だが一気に読み終えた。 上はヒトラー、スターリン、下は一介の兵士や民間人の人間ドラマが、細かな史料に基づいて丹念に描かれている。上層部の非情な決定が、末端でどのような悲惨な運命を引き起こすかを、小さくて「卑近な」(しかし生死に関わる)エピソードの積み重ねによって表現しているのは圧巻。それでいて散漫な感じは全く無い。 川上氏の訳文は非常に読みやすく、また氏のソ連に対する同時代体験が文章に深みを与えているようだ。巻頭の地図も充実していて、文章と地図を丹念に往復しながら興味深く読み終えることができた。 日本が戦った相手がアメリカでよかった。また本土決戦が無くてよかった、と痛感した。 【小説としては最高なのだが・・・】 文章が上手で、地図も見やすい。 大冊ながら一気に通読できる。 だが戦史・外交史としてはいただけない。 4号戦車をしばしばティーガーと誤記したり、FW189偵察機をFW190戦闘爆撃機と混同したりしている。 三大国の秘密会談の場面ではまるでスターリンやチャーチルが著者に本心を打ち明けたかのような記述が見られる。 あくまで小説であって論文ではないのだが、出版前に原稿を専門家に校閲して貰っていればなあと思ってしまう。 それでも読みごたえ十分。 買って損はないと言える。 【第三帝国の黄昏を冷静に描く】 多くの書物が取り上げ、最近の映画「ヒトラー最後の12日間」でも描かれたベルリン攻防戦の最終局面。多くの証言や引用を用い、多角的に第三帝国最後の攻防を描写している。ベルリンの市街戦は言うに及ばず、特にソ連軍の侵攻により多くの被害を被った東プロイセンの状況やオーデル戦線、ハルベ包囲網突破の実情が生々しく描かれている。凄惨な戦闘の中、犠牲になった多くの市民や兵士の遺骨は今でも発掘されるという。この犠牲を強いたナチス政権の無能ぶりは明白だと締めくくるビーヴァーの意見に共感を覚えた。読み応えある一冊。