韓国船に偽装の不審船、北朝鮮領海で消える 2018-12-12 朴斗鎮(コリア国際研究所所長) Japan In-depth
韓国船に偽装の不審船、北朝鮮領海で消える 2018-12-12 朴斗鎮(コリア国際研究所所長) Japan In-depth ―――――――――――――――――――――――――――――― 【まとめ】 ・北方限界線(NLL)通過した不審船が北朝鮮海域に入り消息絶つ。 ・不審船は廃船となったはずの韓国漁船に偽装。速度は軍艦並み。 ・進入に北朝鮮は反応せず、積み荷は謎。国際警備網をくぐり抜ける。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― トランプ米大統領と文在寅大統領が11月30日午後3時30分(現地時間)から30分間、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでの主要20カ国・地域(G20)会談場の片隅で(「プル・アサイド」単独首脳会談を行い、北朝鮮が非核化するまでは制裁を継続することで合意した。 しかし、米国に対して面従腹背を続け、ヨーロッパや東南アジアでの首脳外交でも金正恩の代理人のように「制裁緩和」を訴え続ける文在寅大統領が、トランプ大統領との合意を正直に守るとは思えない。金正恩委員長の年内ソウル訪問を実現するためにも何らかの経済的見返り(制裁破り)を履行していると見るのが妥当だろう。 こうしたことから国際社会の韓国政府に対する疑惑は残ったままだ。 韓国の制裁破りについては、少し前にもロシア船籍などに偽装した北朝鮮の石炭船を受け入れた問題が表面化し(関与船 石炭搬入8隻、精油製品供与2隻。石炭搬入船3隻は52回出入した疑惑)、米国からも警告を受けた前歴がある。 そうした中で、韓国のユーチューブTV「シン・インギュン国防TV」は少し前、韓国の北方限界線(NLL=西海側の休戦ライン)を通過した不審船が北朝鮮海域に入った事実を独自に捕捉・追跡した内容を報道した。それは実にミステリアスなもので、新たな北朝鮮の制裁破り手法とも受け取れる内容であった。 報道された内容は次のようなものである。 ■ 韓国領海を通過し北朝鮮領海内で消えた不審船 2018年10月4日午後11時31分、韓国籍の漁船1隻の船舶自動追跡装置(AIS)(*1)を追跡中、韓国領海からNLL(韓国の北方限界線)を越えて北朝鮮領海に入り、北朝鮮の黄海南道長山串(チャンサンゴッ)沖合い7kmまで侵入した地点でAISが消え去った。どこへ行ったか分からなくなったのである。 この船は、韓国船籍のトロール漁船・ゴールデンレイク801号で、登録排水量は351トン、長さが51.41mとなっているが、実際は日本で600トン近くに増トン改造されていた。MMSI(国際識別番号)は、440687000だが、440は韓国船籍を表し、000は国際航海ができることを表している(00は韓国領海内航海)。 この船の航跡を追跡したところ、アフリカのギニア・コナクリ港(*2)を9月4日の午後7時51分に出港している。1カ月で25,000kmを航海したことになるが、速度が異常に速いと言える。通常漁船の最大速度は10.3ノットぐらいだが、この速度で25,000kmを航海すると最速(24時間休まず航海)でも55日間かかる。ところが、この船は2倍近い速度で韓国領海に入った。 現実には軍艦でない限り不可能なことだ。 この船の動きでもう一つおかしなことは、午後10時ごろ韓国領海白翎島(ペンリョンド)から16kmの地点で一度黄海に出て170度の急旋回で長山串沖7kmに到達し、姿を消したことである。170度の急旋回は通常あり得ないことだ。 ■ 不審船は廃船となった韓国漁船に化けていた この船の所有会社の電話番号にかけてみたところ、一般家庭の電話につながった。登録所在地が釜山チャガルチ市場のビルの504号室となっていたので訪ねたところ、全く別の会社が入っていた。株式会社ゴールドレイクは2009年9月30日に不渡りを出して倒産し、存在しない会社だったのだ。 そこで会社が倒産した後、この船がどこに転売されたかを、この会社を知る漁業関係者にインタビューしたところ、韓国では150トン以上の漁船は採算が取れないので中国に売られたのではとの答えが返ってきた。中国は北朝鮮の漁業権を買い取っているので、それもありうるかと思われたが、その後引き続き調査した所、実は不渡りを出した時点でアフリカ西海岸のラス・パルマスに停泊していたので、そのまま他の会社に渡っていたのである。 ゴールデンレイク社の元現地職員を探し、電話でインタビューをしたところ、次のような回答がメールで返ってきた。 「社長様こんにちは。ゴールデンレイクは801号と803号があったのですが、801号は当時ラス・パルマス(*3)に行って出航できずに係留されていました。結局、代理店が古鉄業者に売り払い、ラス・パルマスの南側港湾で廃船処理されました」。ゴールデンレイク801号は、物理的にも完全に消滅していたのである。 ■ 不審船の積み荷は謎のまま ところがこの船が再びこの世に出てきて韓国領海に現れ、NLLを越えて北朝鮮領海に入ったのである。しかし、韓国軍は探知できなかった?のだ(白翎島韓国軍のレーダーは40kmまで有効なので十分に補足できたはず)。 また、この船のAISが長山串沖7kmで突如消えたことも知らなかった。北朝鮮側も何の反応も示さなかった。誠に奇怪なことが起こったのである。 ただ、この船が「瀬取り」取り締まり警戒中の米国、日本、豪州、カナダ、ニュージランドなどの国際的警備網になぜ引っかからなかったのだろうか? そこには天候が関係していたと思われる。 この不審船が東シナ海を航行していた丁度その頃(10月4日)は、台風25号(コンレイ)が北上し、韓国に向かっていた。台風を避けるためにこの海域の国際的監視に穴が開いていたのである。台風北上に伴い監視飛行機は、日本の横田基地に避難していた。東シナ海の海域は完全に空いた状態であったのである。 このことを知ってか知らずか、この時期にゴールデンレイク801号に化けた不審船が韓国領海から北朝鮮領海に入り、消えてしまったのだ。 この船の積み荷が何かは分からない。北朝鮮の密輸品であったのか?アフリカで受け渡しされた韓国側の「贈り物」であったのか?いまもって謎のままである。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 朴斗鎮(コリア国際研究所 所長) 1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)など。 (*1)AIS(船舶自動識別装置)・・・AIS(船舶自動識別装置)とは、船舶の識別符号や船位、針路、船速などの情報をVHF無線によって自動送信し、他船から送られてくる同種の情報も自動的に受信する装置。 (*2)コナクリ・・・・コナクリ(フランス語: Conakry)は、ギニア共和国の首都である。また同国最大の都市であり、大西洋に面した港湾都市である。 (*3)ラス・パルマス・・・・西アフリカ沖合い約100キロメートルの大西洋上にあるスペイン領カナリア諸島最大の都市。正称名は、シウダド・レアル・デ・ラス・パルマス(Ciudad Real de Las Palmas)。諸島東部の島々で構成するラス・パルマス県の県都。人口35万4863人(2001)。1478年カスティーリャの軍事拠点として建設され、すでに15世紀末には行政と港湾機能の面で重要な町であった。19世紀末にはラス・パルマス港の隣にルス港が完成し、大西洋航路の寄港地として栄えた。現在は農・水産物加工、造船などの工業が立地し、トマトやバナナ、水産加工品などを輸出する。温和な気候、美しい旧市街などにより観光・保養客が多数訪れ、航空路の便もあるが、両港の利用旅客数および船舶数はスペイン第3位である。ラス・パルマス港は漁港としても重要で、ビーゴに次ぐ水揚げ高をあげている。