変わり果てた街、息ひそめ。新疆ウイグル自治区。ウルムチ騒乱10年 2019-7-4 朝日新聞
変わり果てた街、息ひそめ。新疆ウイグル自治区。 ウルムチ騒乱10年 2019-7-4 朝日新聞 中国・新疆ウイグル自治区で、漢族と少数民族のウイグル族が衝突した「ウルムチ騒乱」から5日で10年になる。騒乱は中国政府とウイグル族の関係を変え、今に至る対立の大きな契機となった。様変わりした街でウイグルの人々は息を潜めるように暮らしている。(ウルムチ=宮嶋加菜子、平井良和、冨名腰隆) ■ひしめく中国国旗/厳しい監視/宗教「中国化」 6月下旬、ウルムチ市中心部に2018年にオープンした観光施設「国際大バザール」周辺には、赤い中国国旗がずらりと掲げられていた。 10年前、ここで治安部隊とウイグル族が激しく衝突。周辺にはウイグル族の居住地が多くあったが、騒乱後に再開発された。 歩行者天国の入り口には安全検査ゲートと武装警察の詰め所がある。食料品店を開くウイグル族の男性は、「観光客も多く訪れるようになり、にぎやかになった」と淡々と答えた。 だが、大通りを一本奥に入ると空気は一変する。 暗い路地にはウイグル族の小さな商店が並び、路地の先には建物を取り壊したがれきの山が重なる。 民宿を営むウイグル族の男性は「ここにはたくさんのウイグル族が住んでいたが、立ち退きを求められ、家が壊された」と話した。 記者が質問していると、3人の警察官が黒い盾を持って記者の背後に立った。その途端、男性は口をつぐみ、下を向いて黙り込んだ。民宿の入り口には、監視カメラが設置され、記者と男性をとらえていた。 真新しいビルや観光施設が立ち並ぶ表通りと、厳しい監視の目が光る路地裏。痛々しいほどの光と影のコントラストが街を覆う。 ウイグル族の居住地が漢族の住む街に変わる「漢化」も進んでいる。 市北部の一号立井地区は、かつて地方から出稼ぎでウルムチに出てきたウイグル族が多く暮らしていた。古い住民によると、騒乱後、当局はウイグル族を強制退去させ、跡地に高層マンションが建った。住民の多くは漢族だ。 マンションと向きあう一角には、立ち退きを免れたウイグル族が暮らす低層の古い団地が並ぶ。住民は安全検査のゲートを通らないと出入りできず、張り巡らされた鉄条網の中に押し込められるように暮らす。 ここに住むウイグル族の女子大学生(22)は、「ウイグル族が少しでも良い生活を送ろうと思ったら、安定した仕事に就くしかない。公務員試験を受けるために勉強している」と、滑らかな中国語で話した。ただ、会話中は黒いマスクをつけたままで、表情はうかがい知れなかった。 共産党政権が恐れるのはイスラム教の過激思想が広がり、独立の動きにつながることだ。騒乱以降、武装グループによる襲撃事件が続発。政府はウイグル独立を目指す過激派勢力の犯行と断定し弾圧を強めた。過激思想の浸透を防ぐとして、統制の強化は一般住民の信仰や習俗にも及んだ。 ウルムチ郊外にある「新疆イスラム教経学院」。中国政府が2・79億元(約44億円)を投じて17年に拡充したイスラム教指導者の養成学校だ。自治区に2・5万カ所あるモスクを支える人材を育成するため、地方出身者の寮費を免除するなど手厚く支援する。 学院では生徒にイスラム教の学習と並んで中国の法律を学ばせる。例えば、近年、「ニカ」と呼ばれるイスラム法上の結婚契約に基づき夫婦を名乗る例が増えているとして、中国の法律に沿って役所に婚姻届を出させるよう指導する。 アブドゥリクフ・トムニヤズ学長は、「いかなる宗教も法律を超えて活動することなどできない。『中国化』は何らおかしなことではない」と主張する。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― ◆キーワード <ウルムチ騒乱> 2009年6月、広東省の工場で漢族がウイグル族を襲った事件を機に民族対立が高まり、同年7月5日、新疆ウイグル自治区ウルムチ市でウイグル族住民による大規模なデモが発生。治安部隊と衝突し、当局発表で197人が死亡、1700人以上が負傷した。騒乱後、政府がウイグル族への統制を強める一方、武装化したグループが警察署などを襲う事件が続発。「テロとの闘い」として弾圧を強める政府に対し、国際人権団体などはウイグル族への深刻な人権抑圧が行われていると批判している。