月夜の光
-教えてください、貴方は怖くはなかったのですか?青年が問い、女は首をゆるゆると振る。戦は終わり、今は新しい時代、先はあかるく、未来は拓けて。ーわたしは、そう、長くはあの方とはご縁が無くて、でも、。青年が口ごもる。女は黙って、柔らかく微笑んでいる。ーあんなに厳しく冷静だったあの方が、最期にはそんなに、やさしく穏やかだったなぞと、ーわたしは、負傷して、北には行けなかった、だから仏のような、そんなあの方など、知らないのです。激情した青年を諭すように、女が、ゆっくり、ゆっくりゆったりと、口を開く。ーわたしも、わたしのところにも、そんなに長く居たわけじゃありません。ーそれに、あの方が私を、見たことなんてなかったんじゃないかしら。青年が何か言うのを、女は黙って聴いて、そしてまた口を開いて、―あの方は、居続けではありましたけど、ちっとも楽しそうじゃなかった。ちっともおいしそうじゃなかった。どっかに、魂おいてきちまったんだと思ってました。ただ、ただ、夜中に誰もいない庭で、
刀抜いて振り回してる時だけ、生身のおひとなんだなあ、ってわかりましたよ。あたしは、おどされたわけじゃないけど、震えが止まらなかった。月の光が、刃を光らせて、
…忘れられない、んですよ。
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