夢みるきのこ

[きのこの文化誌・博物誌] カテゴリの記事

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  奥澤康正さんの労作『冬虫夏草の文化誌』ゲット。

  　　　　　　　　　　　　悼友紀行のおりに触れましたが、僕にとっての菌類世界における戦友・奥澤康正さんの『冬虫夏草の文化誌』が届きました。もともと医真菌の立場から菌類文化人類学をライフワークにしたいとその初心を語っていた氏は、出会いの当初より冬虫夏草に関心は寄せていましたが、21世紀に入って、医院をご子息が立派に継承される直前より、この世界に急速に没入するようになり足かけ10年、それまでに集めていた資料を再検討し、体系化するための新たなチャレンジをはじめ、列島はいうまでもなく、ロシアのウラジオストックまで足を伸ばして、すべてご自分の足ですべての標本採集から資料収集に没頭した結果を、正にタイトルそのものの精緻きわまりない"All about Cordyceps"として凝縮させたのです。菌類世界は分子生物学の進展にともない分類体系が根こそぎ変り、そんな新たな困難も加わりましたが、見事クリアし対照表を完備、古えより最新までの情報をすべて網羅した決定版となっています。本書は、それでも奥澤さんが見つめつづけてきた菌類世界の極くごく一部にしかすぎませんが、人生の折り返し点に差し掛かった氏へまずは心からの賛辞を送り、更なる展開を期待するものです。近来稀なる快挙、本当におめでとう!!。　コンテンツ　第1章　冬虫夏草へのお誘い　第２章　日本・中国の冬虫夏草図譜の歴史　第３章　冬虫夏草図譜の歴史と冬虫夏草属の各論　第4章　冬虫夏草研究の過去と未来をみつめて　第5章　冬虫夏草と漢方・菌類と眼疾患　第６章　はてしない冬虫夏草探索　第7章　資料編　A4判、上製本884頁　オールカラ―、ケース入り　限定500部　ISBN978-4-9906553-0-3  定価31,500円(税込)　問い合わせ発注　株式会社　石田大成社　075-211-9185　(編集係まで)

  2012年08月21日

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  極東アジアの列島弧ならではのきのこブランド力序説　

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清浄光寺藏「後醍醐天皇像」 わが国固有の文化を考える上で見逃してはならないもの、それは三種の神器にはじまるレガリヤの変容だと僕は受け止めているが、このことは21世紀の現代アートの創造に重要な意味をもたらすであろうし、わがきのこブラント力開発にとっても要(かなめ)となるものを孕んでいる。　詳しいことは、これからこのブログでひとつずつQ&Aの形で連載していきますが、1.　鎌倉幕府を倒壊に導いた「建武の中興」の主人公2.　綸旨(りんじ)万能の専制君主3.　自ら法衣をまとい密教祈祷をおこなった異形の天皇4.　南北朝時代を誘引した動乱の主人公として一般に理解されている後醍醐天皇は、約１５０年に及ぶ鎌倉幕府が100年余りを経て後期に差し掛かった正応元(1288)年に、後宇多天皇の第二皇子として生を享け、蒙古来襲以後、疲弊していく御家人たちの幕府政治に不満が噴出する時代の空気をうまく自身に招き寄せ、天皇専制の新時代を実現するが、その理想の王国は2年余りで瓦解し、吉野へ移りその3年後の延元4(暦応2、1339)年8月、52歳の生涯を閉じた。しかし、日本史における彼の果たした役割は、とても無視出来るものではなく、そこに室町に花ひらくわが国固有の新しい精神的な文化遺産の萌芽がみられることも見逃してはならない。　笠置は聖武天皇を支えた南都仏教の修験の者たちの木津川を抑える造都資材供給の重要拠点であったのみならず、平安、鎌倉を通して力を蓄えてきた後醍醐天皇を支えた雑密や悪党らの牙城でもあったこと。古代から中世へと流れる日本文化の核心に触れるものがすべてここからはじまっていることを記憶に止めておいてほしい。

  2012年08月09日

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  南北朝時代のもうひとつの日本文化史

  　笠置というトポスは僕の心に大きなうねりとなってさまざまな思いを伝えてきたが、鎌倉から室町に至るわが国固有の文化の発酵期間としての南北朝のもうひとつの日本文化史として、かって紙出力の機関誌『ムックきのこクラブ・3』で展開した影の人物について触れておく必要があるのでここにあらためて再録しておく。  きのこ目の日本史　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　楠木正儀(まさのり)　   　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　湊川神社の楠木正成戦没地 　　湊川の合戦(1336)で討死した楠木正成（まさしげ）や四条畷の合戦(1348)で討死したその子の正行（まさつら)や正時については戦前の日本では「忠君愛国」の鑑として、また戦後は体制の枠外から身を起こした「乱世の英雄」として知る人も多いが、その三男楠木正儀(まさのり)については今日一切語られることはない。その理由は、室町幕府三代将軍足利義満の時代に北朝に移り時を経てふたたび南朝に帰り咲いたことからその変節ぶりに「武人の風上にもおけぬ輩」と後世の人たちの目に映じたことが主たるもので、すでに『太平記』の時代から正儀のことは「父にも似ず兄にも替わりて、心少し延たる者なりければ、今日よ明日よと云うばかりにて、主上の大敵に囲まれて御座あるを、如何はせんと心にも懸ざりける事こそうたけれ」と断じられてきた。しかし、後醍醐帝のめざした建武の新政は単なる王政復古であり、公家に厚く実質的な貢献者であった楠木をはじめとする武人には冷淡で彼らの復権にいささかも配慮したものでなかったことから2年余りで瓦解してしまう。鎌倉幕府の滅亡まで身を挺して戦い、建武朝の実現に甚大な貢献をした正成の身分でさえ従七位左衛門少尉であったことも天皇側から見ればせいぜいそれくらいの人物としか写っていなかったことが察せられる。それでも湊川の合戦で正成が自刃してのち再び国を二分して戦うことになった南朝を支えた正儀は、後醍醐帝の崩御後も南朝の雄として京洛に攻め入り武名を馳せ、その後幾たびかの和平交渉に代表として臨むことになるが、衰えきっているにもかかわらず気位のみ高く北朝の差し出す妥協案を尽く覆す公家たちに、時ここにいたってもなお正儀を支えてくれている一族郎党の行く末を思うにつけうんざりしたことは想像に難くない。山崎正和はこの『太平記』の時代の武士が命を捨てるのは、個人の名誉や富のためではなく、「お家」とりわけ子孫の繁栄のためであり「死の美学」などが介入する余地は全くなかったと断じている。その点からみれば自刃して果てた楠木親子は犬死に近くむしろ特異な例であったといえよう。そんな正儀が突如として北朝に降伏する。四月二日楠木左衛門督正儀上洛　同夜管領対面四月三日夜楠木御所対面　　　　　　　　　　　　　『花営三代記』この短い記述にはあらかじめ周到に練り上げられた会見という雰囲気すら漂っている。管領とは細川頼之、御所とは義満のことだ。しかしいったい「何が彼をそうさせたのか?」。この謎ときこそが本稿の目的であるが、ここで『邪神記』の著者竹内健にご登場いただき、同書の地の巻に納められた「正儀と申楽」に基づき正儀の復権を試みたいとおもう。　足利義満は10歳で父義詮(よしあきら)と死別、11歳で将軍職を継ぐことになるが、尊氏の孫で源氏の正統を継ぐ「貴種」とは言え北朝は尊氏のつくった人工的な権威であることは誰の目にも明らかであり、新興勢力である武人にとっては土倉・酒屋の財力、寺社の情報源、公家・天皇の伝統的権威などすべてを具備する京洛に食い込み君臨する必要があったことから、当時の将軍はもちろん名のある武人たちはこぞって京風の教養を身につけ、それを超える方途をまさぐっていた。細川氏が執事として幼い将軍の芸事を学ばせるために同朋衆を設け、南阿弥(作曲の名手)、琳阿弥(連歌師)という芸事の第一人者を配したが、当時一世を風靡しはじめた猿楽の第一人者として誰を推挙しようかと思い至ったとき、正儀の北朝入りは決まったと竹内氏は推理する。　細川頼之の執事就任は貞治6(1366)年、正儀の北朝入りは応安2(1369)年、大和の結崎座観阿弥の「醍醐寺清瀧権現での七日興行」は応安5(1372)年頃である。　この観世流の始祖である観阿弥(本名服部三郎清次)は、伊賀の国人でのち徳川のお庭番となる忍者の系譜に連なる家系でその母は楠正成の妹であったことから正儀とは濃い親戚筋に当たる。そして大和にあった結崎(観世)、円満井(金春)、外山（室生）、坂戸の四座の猿楽の源流は大和国城下郡杜屋(もりや)の秦氏を名乗る下級の遊芸者集団であり、当然楠木一族にも秦氏の影が色濃く宿っていたと考えられる。　頼之は北朝に根本的に欠落していたものが正統の皇統譜を継承する後醍醐帝の権威であり、帝を支えた南朝勢の人脈だということを熟知していたし、同朋衆に連なる諸芸の第一人者たちは七道の者と呼ばれる五畿七道を自由に行き来できる遊芸者集団の座頭格で、常に義満の側近にはべり情報将校の役割をも兼ね備えておらねばならず、申楽師の中でもそうしたすべての点で特に秀でた観阿弥に注目したと考えられる。おそらく幾たびかの合戦と和議の交渉でお互いの気心が通じ合った頼之、正儀の両名は、この不毛の時代を一刻も早く終らせたいと望んでいたに違いない。頼之は自身の描いたシナリオを完璧に実現するためには貴殿の協力が是非とも必要であると必死で嘆願し、正儀も次第にその誘いに心動かされたのではないだろうか。すでに南北に分かれて消耗戦を繰り返すことに苛立っていた両名は、文化の力で見果てぬ夢である文武両面における武家優位の社会を招来しようと考えたのかも知れない。　そして七日興行の成功を手始めに根回しを続け、いよいよ応安七(1374)年、満を持して義満供覧の上で今熊野神社での神事猿楽「翁」を実現。観阿弥の至芸とその嫡子の鬼夜叉(藤若丸を名乗っていた)の美貌に打たれた義満が、同朋衆に加えたことから彼ら親子の猿楽師としての栄達がはじまったことは言うまでもない。　竹内健はこの間の事情を楠木一族の人脈を駆使した正儀の働きとみる。というのは、正成の学問の師は鎌倉で敗れた和田一族の末裔で飛騨高山で僧となり泉湧寺で仏法を修め醍醐寺座主小野文観(真言立川流の教義で高名だが南朝成立期の講師)と知り合い、のち河内の観心寺の住職となった滝覚坊である。七日興行の醍醐寺、そして義満が観能した今熊野は泉湧寺の寺域であり、滝覚坊の修業寺であることの符合を指摘する。さてここにいたって正儀の心境を改めて拝察するに、北朝への寝返りは建武の新政に裏切られ、必死で支えてきた後醍醐帝も喪い失意の中にあった彼の一族郎党への最後の報恩の思いに裏打ちされていたと見るのは穿ちすぎであろうか。そして、この偶然に近い出来事は些細なことに見えるが火付け役の頼之、正儀の企図した数百倍の激震を日本の文化史、政治史にもたらしたことは間違いない。その事件から5年後の康歴元(1379)年、細川頼之は執事を退き四国へもどり、後を追うように弘和3(1383)年正儀も南朝に帰り咲く。そして正儀逝去の1年後の明徳3(1392)年10月義満の示した講和条件を受け入れ後亀山天皇は京へ戻り三種の神器を後小松天皇に伝え南北朝合一を果たし半世紀にわたる内乱はようやく幕を閉じることとなるのである。そして頼之の執事引退の1年前の永和4(1378)年に義満は京都室町の院の御所であったところに新邸を建て移り住むがそこは都人をもうっとりさせる庭造りをほどこし「花の御所」と呼ばれた。これはすでに義満が頼之、正儀の手を離れ独り歩きするほどに成長したことを意味しており、私から見れば言わば卒業証書の如きものであったと受け止めている。その後の義満の活躍を見ていくと頼之・正儀の決して器用とはいえない武人の精一杯のプロデュースぶりがうかがえ時代の趨勢をしっかりと見すえたものであったことがうかがえる。正成と正儀。親子でありながらかくも評価の分かれる人生を歩んだ二人だが、いずれもまっしぐらに生きぬき乱世のあだ花となったことには違いはない。が、真に時代の枠を超えるための捨石となった正儀の生き方と世人一般の無理解に私は鬼の子(きのこ)に一脈通じるものを感じ同情を禁じえない。

  2012年08月07日

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  笠置(かさぎ)探訪

   大和盆地よりも広大な大和高原はもうひとつのまほろば。日本という国の精神史の成り立ちを考える上で重要な鍵を秘めているが、そのキ―ポイントの一つである笠置は夏空の下、あっけらかんとひろがっていた。　　　　　　　　　　　笠置駅頭に立ち笠置山を望む　　　　　正月堂の舞台裏のムラサキヤマドリタケ　北神戸を早朝の5時半に発って、笠置駅頭に立ったのは午前10時。大化の改新頃までは闘鶏(つげ・都祁)国と呼ばれていた大和高原の最北部に位置する笠置は近江の金勝山、室生、紫香楽、春日山と連なる修験の独立国といった観すらある影のまほろばであった。その修験の中心人物が東大寺初代別当の良弁だ。ムックきのこクラブのまほろばの旅は、この夏いよいよ佳境に入った感すらあり、立秋過ぎにたずねる花なき吉野と冬至近くの春日山地獄谷から滝坂の道を歩けば、おのずと古代から室町前夜に至るわが国の庶民の精神文化の息吹きを胸一杯に吸い込むことができるというもの。　　　　　　　　　　　笠置寺山門　　　　　　　　　　　　　　フクロツルタケ　笠置山は全山花崗岩から成る標高わずか288mの独立峰で、登山口から夏のきのこたちと挨拶をかわしながら1時間弱で笠置寺山門にたどりつく。入山料300円を自主投げ銭の上、ここから松まじりの照葉樹林帯のきのこたちの声に耳傾けながらの行場巡りが約1時間。とてもすがすがしい山旅が味わえるが、つゆおとなう人とて無く僕にとっては最高の休日となった。　　　左:　大友皇子が絶壁の鼻に迷い込み神に祈って窮地を脱した云われのある巨岩峰。この場所に笠を置いて目印としたことがこの笠を置くという山名の由来という。  右:  東大寺建立に力をそそいだ金勝族の頭領・良弁とその弟子・実忠の逸話残す千手窟　正月堂の脇にそびえる高さ15.7m、幅12.7mもある前傾した巨岩に笠置寺本尊の弥勒磨崖仏が彫られていたが、倒幕を図り、後醍醐帝がこの山にこもり闘った元弘の変(1331年)の際し、寺もろとも焼失(石が焼けるか!?と思いきや、何か削り取った痕跡もみとめられる)したと伝えられる。そのレーザーによる復元図はその前に建てられた正月堂に残されている。　また、良弁がそこに籠り千手の秘法を修め、その高弟の実忠(じっちゅう)がここから弥勒の兜卒天に入り、東大寺二月堂のお水取りの行法を得たという千手窟があり、その脇の絶壁には高さ12m、幅7mの虚空蔵石があり、当時のままの線刻が残っていて圧倒される。　　   蟻の戸渡り付近から見た木津川                  胎内くくり岩　　 　　毘沙門堂脇のお洒落地蔵　　　　　　　本尊弥勒石の表面　　　後背のみ残った本尊の弥勒石　　　　　　　その復元図　網野善彦により「異形の王権」といみじくも名付けられた後醍醐天皇は鎌倉幕府打倒を期して正中の変(1324)、元弘の変(1331)の二つの変を起こすがたちまち敗退し、隠岐の島に流されたが、その間に足利、新田、赤松、楠木、菊池らの武士団が挙兵し、遂に倒幕成り後醍醐帝を召還、1333年にいわゆる建武の中興の政治を始めた。しかし、その理想の王国は1335年の中先代の乱を契機として尊氏が挙兵したことで、わずか2年余りで崩壊、後醍醐天皇は吉野に逃れ、その後、60年余り国土を2分して争う南北朝の端緒となる。　後醍醐天皇は吉野に籠り3年余りで崩御するが、この建武の新政とそれに続く60年余りの南北朝時代こそが、わが国文化の源泉となったという意味でも、この帝は正に時代の申し子であったと僕は受け止めている。言葉を変えれば、鎌倉幕府から室町幕府へいたる間の2帝並立の南北朝時代こそが、わが国の貴族に変る武士、商人といった新しい文化の担い手をはぐくむ醗酵期間だったのだ。　　千手窟にほど近い絶壁の虚空蔵石　　　　　　　　その尊顔　　左: この山の中興の僧・解脱上人とおぼしき墓(藤原貞慶)  右: 太鼓石　　  左: 列車待ちの1時間ほどの空きの時間にたずねた駅前の栗栖天満神社  右: 天神様を辞して下るさにみた笠置とは思えぬ芭蕉葉と夏雲のコントラスト

  2012年08月04日

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  飛鳥探訪　酒船石

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　酒船石全貌　飛鳥寺伽藍や飛鳥京中軸線設定の基点に置かれた石造物益田岩船と関連があると見られる石造物で東西5.303m、南北2.29mの三角形の花崗岩で岩の上面には皿状のくぼみと直線溝が彫られており、中央溝と左右両側の溝のなす角度はともに28.5度である。(斎藤国治)　同氏は、益田岩船と酒船石の夫々の南北線は約3230m離れているが、両者は＋－・0.5度の精度で平行に据えられており、これは偶然ではありえないと言う。さらに中央溝の方位は岩船の稜線と同じく真西から北へ13度振れており、これも春土用の日没観察台であった可能性が高いと言われる。酒船石は春分、秋分、夏至、冬至の日の日没観測台であったが、益田の岩船石が設置されたとき、酒船石も方位を動かして中央溝を岩船と平行にセットしたと考えられるという。　この二つの謎の石造物には諸説があるが、ともに真西から北へ13度振れていることを合理的に説明できる説は斎藤説しかないと石渡信一郎は「蘇我大王家と飛鳥」の中で述べている。　　  「マダラさまお待ちしておりました」と、酒船石界隈の竹林で瀕死の状態で待っていてくれた赤玉のマクキヌガサタケDictyophora duplicata。  

  2012年07月18日

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  飛鳥探訪　益田の岩船

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　益田岩船　上部にうがたれた穴　貝吹山(橿原市白橿町)のすそ山である岩船山(h.150m)の山中にある台形の石造物。東西の長さ下底で約11m、上部で約7.8m、南北の長さ約8mの花崗岩の塊で重さ約700t、上面には2つの方形の穴がある。　岩船の稜線は真西から北へ13度振れているが太陽が13度の方位で沈むのは、春土用入りから3日の後で、この日は春分から数えて丁度1月目。　古代には水稲耕作の開始時期を知るために日没を観測して春の土用入りの日を確定した。この岩船は春土用の日没観測台の台石とみられ、霊台(古代中国の皇帝が即位の後、これに登り天文・雲気などを望んだ台)も兼ねていたという。　　<斎藤国治「益田岩船は天文遺跡か(岩船実測記)」東京天文台報65号>　と同時に、この岩船は大化以前の飛鳥京造営のための幹線道路・伽藍・墳墓などの様々な建造物の基点とされていたという。そして、現在では見事な竹林に視界が遮られているが東北45度の方向にオオモノヌシを祭る三輪山頂、東北東30度の方向に神武紀にみられる皇祖神タカミムスビを祭る鳥見山頂をそれぞれ望む立地をもって静かに収まっている。　　また、長辺約4.5m、短辺約2.7m、高さ約2mの亀石(明日香村・川原)は、頭を西南に向けており、益田岩船地点の南北線のを基点として、この頭の部分の西端までは東4里=6000高麗尺(35.2×6000) =2112mとなり、ここは巨勢道から飛鳥京中心部に入る古代道路の北側に当たる。そこで亀石は神仙思想における南方の仙境からやってくる神亀を出迎えるために設置されたと云われる。　　　　　　　　　　　　　岩船下方よりの景観　　　　　　　　　　側面の暦文字めく刻印　　　　　　　　                                  側面のアップ       　　　　　　　once more Stone Ship of Masuda in Nara  高麗尺　東魏(534～550)時代の後期に使用された測地尺で1尺=約34.8cm。倭国には6世紀後半に百済を通じて伝えられたとされる。飛鳥京の設計にはこの高麗尺が用いられており、それがこの時代の建造物の特定に役立っていると言われる。　 

  2012年07月18日

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  飛鳥探訪　猿石、亀石など。

  　　       吉備姫王墓内の猿石1                              同猿石2　           　  同猿石3                                高取城大手筋に置かれた猿石　猿　石　　飛鳥村平田の吉備姫墓内に4体(写真は3体)、高市郡高取町の高取城から城下町の土佐に下る大手筋の途中に1体(h77cm)あり、吉備姫王墓内の4体は1702(元禄15)年以降数回に亘り平田梅山古墳(欽明陵)の南の小字イケダの水田から掘り出されたもので、今尾文昭によると猿石はもとは平田梅山古墳の外堤(現、小字ツクエ)に置かれていたが、後にそこから転落したと考えられるという。一方、亀田博は平田梅山古墳の南200mほどのところにある平田キワガタ遺跡(飛鳥村平田)は、池・広場などがある飛鳥時代の苑池で、猿石はその装飾物とみている。その場所がどちらであったにせよ平田梅山古墳の祭祀と関係があった石造物であることには違いがないということになる。亀　石　2002年2月に酒船石の北の流水遺構から発掘された小判形の水槽、導水装置、亀形石。長崎県壱岐の笹塚古墳(6世紀末～7世紀初)出土の金銅製飾り金具。斑鳩町中宮寺所蔵「天寿国繍帳」の断片の三つの亀など。これらは亀形石、亀石とよく似ており、いずれも6世紀後半に百済などを通じて倭国に入ってきた亀信仰を伝えているという。　また、酒船石と亀形石にみられる花崗岩加工技術が、益田岩船、亀石、そして雷丘東方遺跡に近い石神遺跡から出土の須弥山石や石人像にもみられることから、制作年代(推古20)612年とわかっている須弥山石からそれぞれ610年代頃に制作され、酒船石が設置されてまもなく益田の岩船も設置されたと判断されると石渡信一郎は「蘇我大王家と飛鳥」の中で述べている。　さらに、猿石の制作意図であるが、推古28(610)年10月条に檜隈陵の域外に土を積んで山を造り、大柱をその山の上に立てさせたとあり、この山が小字ツクエとみられることから、猿石はこの時ツクエに置かれた可能性が高く、朝鮮の柱を建てる祭りである「蘇塗」の時に演じられる仮面劇があることから、推古紀の大柱はこの「蘇塗」の祭祀と関係し、猿石はそこに展開した仮面劇を表象したものではないかと石造美術にくわしい町田章は語っている。それでは、同日見かけた鬼の雪隠、鬼の俎板と通称される石造物の制作意図は?。こうして謎のますます深まるばかりである。　1つ知識が増えると、10の疑問が湧きおこり、それが連鎖反応を起こして、身のまわりのこうした極く小さな事件が、無数の闇を招来する。還暦以後は、これまでに得た知識をアウト・プットするだけの人生にして次代の人たちにいささかなりとも貢献したいと思っていたが、益々益田の泥沼で、必死のパッチで勉強しなければならなくなる。ああ時間が欲しいね。　　　　　　　　　　鬼の雪隠　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　鬼の俎板　　　　　そんなの「どうでもかめへんで」と亀石云い　(かめへん=構わないの関西弁)

  2012年07月17日

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  井月の生きた時代。

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　炎暑の頃訪ねたい三田市の千丈寺岳　井月が伊那谷で生きた時代は安政5(1858)年頃から明治20(1887)年で享年66歳だ。安政5年と言えば井伊直弼の安政条約締結から尊攘派を弾圧した安政の大獄事件、そして大老暗殺の桜田門外の変といった開国に向けて乱れにみだれた時代に当たり、すべてはペリーの黒船来航の1853年にはじまる。 1837年の天保の大飢饉に触発された大塩の乱に呼応して越後柏崎でも同年、国学者生田万が餓民救済のために同志と代官所を襲い敗死している。慶応4年=明治元(1868)年、彼の郷里の長岡藩は幕府側につき政府軍と徹底抗戦、309名の藩士が討ち死にしている。この年の戊辰戦争(上野山の彰義隊と政府軍の闘い)で捕虜となり高遠藩預かりとなった越後出身の青年・六波羅霞松は井月とまもなく伊那谷で出会い、彼は井月の弟子となって最晩年まで面倒をみた。映画ではお盆の精霊会の日に忠義について2人が対峙するシーンが取り上げられているが、僕には「捨つべきは弓矢なりけり」とこの道を選んだ井月のいのちの軌跡に、このシーンはなぜか蛇足に思われた。　　　　　煩悩の闇路も地蔵祭かな　ここでの田中泯さん演ずる井月は無言のままだったが、実に良い表情をみせてくれていた。　　　　　翌(あす)の日を頼むでもなし枯柳　明治17年12月28日　　　　　落栗の座を定めるや窪溜り　　　　　井月臨終の仮寓にて　井月の奇跡の30年を支えた伊那谷の人々の得もいえぬ人情の世界は映像で充分に語り尽くせている。そして井月の作品も最晩年へまっしぐらのゆるぎのないものだった。霞松はそんな井月をまっすぐに凝視していたからこそ臨終まで井月を慕い続けたのだ。霞松あっての井月、井月あっての霞松。このシーンの余りに常套的な切口にはかえすがえすも残念でならないものを感じた。

  2012年07月04日

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  井上井月の生きた江戸末期を知る能勢奥・三草山ふもとの事件。

  　　　　　　　　　　　能勢奥の三草山探訪の折りに立ち寄った岐尼神社にまつわる幕末を語るにふさわしい事件を友人で川西自然教室の井上道博さんが送って戴きましたので、この場でご紹介し、昨日の井月の生きた時代を知るよすがにしてほしいと思います。　　　　　　　　　　　　　　　　　　「徳政大塩味方」　能勢　山田屋大助の乱　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　川西自然教室　井上道博　天保7(1836)年は、春から秋までことのほか雨が多く続いて稲・綿とも大凶作になった。秋の収穫がほとんどなかったため、年を越して天保8年春にかけての村方・町方の困窮は激しかった。在郷町池田の天保8年3月の調べでは、町の人口5239人のうち「夫食(ぶじき)才覚之候者」つまり自分で食料が調達できる者はわずかに821人にすぎず、残る町人口の実に84%にものぼる4418名が「飢人」に数えられていた。この飢饉のひどさは前後にみない米価の高騰となって反映している。川西の下財屋敷に残る資料では　　天保8年4、5月には銭140文。6月朔より280文。9日よりあがり300文になり、11日には308文になり、14日には340文になり、又麦も1升につき220文、又そらまめも1升190文、そのほか青物・ごまめ値高く候ゆえ、人々難儀致し乞食に落ちる人数数知れず。又餓えて死ぬる人数知れず。　この年天保8年2月19日に、この危急を見かねて大坂市中で元天満の与力大塩平八郎が乱を起こした。乱は半日で鎮圧され、大塩父子は乱より1か月後靱本町の隠れ家を突き止められ自殺した。大坂の市街地の5分の1が焼かれたが、大坂市中では次のような歌が歌われていた。　大塩が所持の書物を売り払い　是ぞむほんの初めなりけり　どっと出てそっと引きたる大塩が　又出よふかと跡部おそるる                                               (老中水野忠邦の弟大坂東町奉行)　大塩が我が身の為か他の為か　切支丹やらなにしたんやら　一つ米よせて二つに分けて見よ　家中心もとけて安臣(心)　さらに大塩の乱に誘発された一揆が摂津で起きている。その一つが能勢における山田屋大助の乱である。7月1日夜、能勢村今西町にある杵の宮(岐尼神社)の境内に人々が集まった。2日の朝には「徳政大塩味方」「徳政訴訟人」などと書いたのぼりを立て早鐘・太鼓を打ち鳴らして気勢をあげた。主だった者は5人で山田村の山田屋大助、書家今井藤蔵、剣客佐藤四郎左衛門らという。その日の内に今西村から稲地・平野・神山・垂水・長谷あたりの村々をまわって強制的に人足を集め、その差し出しを拒んだ稲地村の庄屋の家では番人が殺害された。その勢いに恐れて村々もおいおい助勢することになった。また酒屋や村役人など大きな家に押し入っては米や金銭を強要した。一方この日能勢郡・川辺郡村々に各家から1人づつ今晩中に杵の宮へ集合と「乍恐(おそれながら)奉願上候口上覚」という関白殿下宛の徳政令の請願書が廻された。　一揆は7月3日には西送し、中山峠を越え鎌倉村・杉生村(猪名川町)を経たか、阿古谷村から木津村(いずれも猪名川町)へ入ったかで左曽利村(宝塚市)の万勝寺に宿泊した。そして4日には麻田藩木器村(三田市)に至り光福寺で昼食をとったが、ここで追っ手に囲まれ大助は八っ時(午後1時半頃)腰に銃弾を受けて3人は切腹し乱は制圧されたという。　この一揆に参加した村人は33か村712人にのぼった(一説には2千日人とも)。いずれにしても近在を揺るがした出来事だった。　大塩の乱やそれに続く一揆の広がりに恐れをなした時の施政者は、緊急に幕政改革を痛感するようになった。天保12(1847)年徳川家斉が死去し、12代将軍家慶(いえよし)の信任のもと老中水野忠邦が天保の改革を実施した。中心は奢侈品や日常生活全般の倹約・統制で、その厳しさに多くの人には不評で改革は思うようには進まなかった。　天保14年水野忠邦が失脚し、以後異国船の来航など外圧もあり、幕府の倒壊・明治維新へと歴史は動いていったのである。　　　　　　　　参考文献　川西市史第2巻、「幕末維新の大阪」大阪文庫　他　　大塩平八郎(1792～1837)　中斎と号し、江戸後期の儒学者。大坂天満の与力。陽明学者として聞こえ私塾・洗心洞を開く。1836年天保飢饉に際し救済策上申したが無視されたため、蔵書を売って窮民を救い、翌年挙兵したが敗死。幕藩体制下最初の反乱として幕府・諸藩を震撼させた。陽明学は明代の王陽明が唱えた。知行合一(知と行は1つの働き)だとして心が当然とする理は物の理でもある(心即理)。また良知を進めることにより人は充分な働きができる(致良知)と説いて、実践を重んじた。江戸前期の中江藤樹がこの学派の創始者で、弟子の熊沢蕃山は岡山藩主池田光政に仕え善政を行ったとされ、幕末には佐藤一斎、平八郎が出て維新の志士たちの行動の指針となったとされる。  生田よろず(1801～1837)　江戸後期の国学者で平田篤胤に学び、越後国柏崎で私塾を開いた。天保飢饉の際に大塩の乱を聞き、餓民救済のため同志と代官所を襲撃して敗死した。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 

  2012年07月04日

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  映画『ほかいびと』　井上井月のこと。

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本作を上映中のシネ・ヌーボーで頂いたチラシ　　伊那谷の漂泊の俳人・井月と歩く伊那路というべきドキュメンタリー作品を観てきた。井月の故地を訪ね、井月その人を踊るにふさわしい舞踊家・田中泯(みん)を得て、伊那谷の自然と人がしっかりと捉えられた佳作だった。　　井上井月(1822～1887)。安政5(1858)年頃、伊那谷(上伊那地方)へ漂泊してきて以来、江戸末から明治にかけて30年を当地で乞食生活を続け同地で果てた。66年生きた彼がなぜ伊那谷を目指し、人生の後半をそこで無為徒食の生活を送ったのかは謎だが、一説に越後・長岡藩士だったという彼が脱藩してここへ流れきた理由はわからないでもない。書をたしなみ俳諧に独自の表現の冴えを見せ徒手空拳の人生を選びとった井月にとって、幕末から明治の初期、この地には当時まだ80余名の俳諧師がいたといわれ、俳諧師最後の桃源郷と写ったであろうことは想像に難くない。芭蕉は観念上の漂泊の俳人でしかなかったが、その芭蕉を慕い彼の言説をそっくりそのまま実践した井月は、その独特の嗅覚で伊那谷の俳人たちを嗅ぎあてたのであろう。　天明の詩人・蕪村(1716～1783)の時代でも、名を遂げてのち芭蕉(1644～1694)の後を慕い「奥の細道」の旅に出て、各地の俳人たちの余りの冷淡さに失望し途中でその旅を断念して命からがら逃げ帰ってきたほど俳諧世界のネットワークは無縁化していた。それから80年余りのちの開国まじかの日本列島で30年も一処不住の乞食生活を貫いた井月は僕には奇跡としか思えない。　彼は江戸後期の俳人小林一茶(1763～1827)と入れかわるように生まれ「信濃北の一茶、南の井月」とささやかれたが、その過激な生きざまは「定住漂泊」の一茶をはるかにしのぐ。　彼は自身の中に胎動する権威につながる一切のものを突き崩し、一切を放下(ほうげ)しつつ、江戸末期から近代にかけてほとんど最後の俳諧師として生き抜いた。この井月の命の軌跡に肉薄できるほとんど唯一の人は、ハイパー資本主義時代の21世紀のわが国では田中泯以外には考えられない。映画では、俳諧をたしなむ伊那谷の旦那衆らの支えとふるまい酒をたよりに俳諧と書のみで門付け芸を披露しつつ独り死んでいった彼の心の襞に見事にくいさがっていた。　　　　　　　　　　脱ぎすてよ人の心の蛇の衣(きぬ)　井月　とりわけ、この句が立ち現われる夏の渓流(辰野町・蛇石)での泯さんの踊りが素晴らしかった。　また井月は芭蕉の「幻住庵記」をそらんじていたといわれるが、村人から請われて小さい行李に持ちあるいていた芭蕉翁像を前に置いてその一節を筆にするシーンがある。この場面も無一物ながらいつか草庵を建てたいと願っていた井月の未練をにじませていてジーンと胸を打った。　　　　井月辞世の句　「何処やらに寉(たづ)の声きく霞かな」　どこか「しら梅に明る夜ばかりとなりにけり」と死の床で几菫に筆記させ、これには「初春」という題を・・・と言いかけて絶句した蕪村に通じるところがある。　「ほかいびと」井月・・・。藤原新也は『メメント・モリ』で死体を野良犬が喰いあさるシーンに「人は犬に喰われるほど自由だ」と叫んだが、井月の30年の長きに及ぶ晩年を追体験しながら、自由というものをあらためて考えさせられた。　　　　　　　　　　　　　　　　この映画観賞の数刻前、僕を訪ねてきてポーズをとってくれたミスジチョウ

  2012年07月03日

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  川西きのこクラブの三草山探訪会5月27日のこと。

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　きのこ青年の見つけた良形のマツオウジ　猪名川の源流域の能勢の奥にある三草山(564.1m)を訪ねた。猪名川は尼崎の久々知(樹木神と関わる久々智氏に由来する地名)に始まり、伊丹を北上し池田の城辺山(きのへやま・今の池田市木部)の側を通り、宇禰野(今の畝野)で二流れに分かれ東の支流は久佐佐川、西の流れは美度奴(みどの)川と呼ばれ三草山を囲むように最上流域を形成する。美度奴川は三草山西側の木津あたりでは木津川とも呼ばれ、上杉、杉生などの地名とともに杉材の供給地であったことがうかがえる。東の久佐佐川域の久佐佐村は雄略朝に朝廷の膳に供せられる土器作りの技術集団の土師部(はじべ)が置かれており、猪名川は武庫川(河口部は武庫水門・むこのみなと)と並び、古代には丹波、有馬方面の内陸交通と猪名湊と呼ばれた河口部の港湾施設を結ぶ重要な河川であったことが分かる。　僕たちの目指す三草山はかって美奴売(みぬめ)山と呼ばれていた。『摂津国風土記』逸文には、美奴売というのは元々は神の名で、能勢郡の美奴売山に居られた。昔、神功皇后が筑紫の国に行幸した折りに近隣の神々が川辺郡の神前の松原に集い天皇の行幸を祝した時、この神も集い「吾も護りたすけよう」と言い「私の住む山に杉の木がある。これを伐採して船を造りこの船に乗って行幸するとよい。幸いがあろだろう」と言った。天皇の西征は成功し、還りにこの神をこの浦に祀った。またこの船をもこの浦に留め置いて神に献上した。またこの地を神にちなんで美奴売というようになったとある。この美奴売とは現在の神戸市灘区の敏馬(みぬめ)神社のある海岸付近を指すという。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敏馬神社　写真・佐田俊美さん提供　この猪名川の名の由来となった猪名部は渡来系の優秀な木工集団で、秦氏・物部の影が色濃く落とされている。この地が積極的に開拓された5世紀後半、ここに秦氏の集団が入植していたことは池田市がかって豊嶋郡と呼ばれ、『正倉院文書』や『続日本紀』に豊嶋郡在住の秦名が出てくることやこの地が秦上郷、秦下郷とに分かれていたことが知られるからである。三田から川西の地は、わが国の根幹を成す歴史のスクランブル交差点としての役割を果たしてきたことから、僕は鬼(き)の子の日本史の流れを実感するため、暇にまかせてふらふらと歩きまわっている。　　　　　本日の旅の起点となった岐尼(きね)神社　　　標越しに三草山方面をのぞむ　　　　　　　　　　　　　　　カワトンボ　　　　　　　　　　　　　　　　シリアゲの仲間　　　　　　　　　　　　三草山三角点　　　　　　　　　　　頂上直下の清山寺址　　　　　　帯化アザミ(一種のフリ―ク)　　　　　　　　　　　　　　クロヒカゲ　　　　　　 　　　　　　　 塞の神峠　　　　　　　　　　　　　　　　　　ガマズミ　　　　　　　草間よりちょっとキモいマネキンの首　　　　　　　　　クロキツネタケ　　　　　　　　　　　　　　槻並の地蔵　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヤブニンジン　大塩平八郎の乱に呼応して決起の拠点となった岐尼神社から慈眼寺(じげんじ)を訪ね、浄瑠璃の竹本太夫の墓に詣でたのち、ゼフィルスの森として整備中の三草山を目指したが、道中人影もなく、白昼夢のようなチョウの影を追いつつ、静謐の時を数名の人たちと馬鹿話に興じながら歩いた。さえの神峠では数年前のきのこ初心の頃のO君が同行して木の洞にあったマンネンタケを見つけたのだが、この日、往時の記憶を辿って探し当てるとそのままミイラ状態で残っていて感動、O君にとってはきのこの神様からの一種の免許皆伝をさずかったように僕には思えた。以前はここから千枚田のほうへ下ったが、本日は槻並集落へ道をとりひたすら歩き倒して屏風岩のバス停に午後4時きっかりに到着した。道中の槻並集落の山林はマツカサの馬鹿でかいダイオウマツの植林が杉を圧倒して日本の里山とはいささか趣きの異なる風景がひろがっていた。きのこは端境期につき少なかったが、呆たけたクロキツネタケとおぼしききのこときのこ青年が良形のマツオウジを藪の奥から見つけ出してきて参加者全員溜飲を下げる思いがした。　当日仕事のため不参加となったSさんは、他日、阪神岩屋の敏馬神社へ出向いて社殿の写真を撮ってきてくれた。この場を借りてお礼申し上げる。 

  2012年06月13日

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  贋チャリダ―のヒマラヤ越え

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　シリーズ本「チャリダ―」全10冊とビィブッダのきのこシール(中央)　　申垣和ミさんの悪ガキぶり200%発揮本『贋チャリダ―のヒマラヤ越え』をもらった。方々から噂に聞いていた待望の書だ。2004年8月、3ケ月滞在した中国チベット自治区ラサを去り、ネパールのカトマンドゥーまでの1000kmを中古自転車で走破した見るも涙、聞くも涙の物語。相棒はかわいいお尻と作者がいみじくもおっしゃった本書ではペンギンもどきの旅烏さん。この真正チャリダ―が超楽天家の実にたのもしくも面白い人物だ。申ガキさん自身、今でこそ旅烏さんをはるかにしのぐ翔んでる乙女だが、8年前のこの当時は、旅がらすさんのすること・為すこと、ドキドキ・ハラハラの毎日だったようで、こんな時代もあったんだという和ミさんの告白の書としても読める。　僕にとってはさすらう若者たちの最初に出会った人物はビートニク世代のバイブル、ジャック・ケルアックの『On the road(邦題・路上にて)』で、ついでロード・ムービーの決定版『Easy rider』だったが、和ミさんは、白サイ2号というマウンテンバイクならぬジャイアント社といううそ気な会社のごく普通の中古チャリンコでふらふらと旅したところがすごい。当初予定していた足メカの白サイ1号は中国人がメチャ危険だと止めさせたほどの中国製品で、それで1000kmのでこぼこ道を走り切るつもりだったのだから無謀のほどが知られる。　この野ざらしの旅から無事帰還して(道中、描写をぼかしているが死体にも出会っているようだ)、おそらく人生のなんたるかを知ってしまったようで、僕たちの前にときおり出没するサルガキさんは、若いがなにかすでに超えちゃった、いや、いっちゃったような不思議な安定感がありたのもしい。しかも美人であるところがなおよい。　僕のまわりには青春浪人がうようよしているが、彼らは皆、青春を方法化してきた人たちで、色ぼけ、欲ボケ、おとぼけに大ボケ小ボケと、さまざまだが、要するに加齢で呆けるのを先取りしてしまったせいで、呆けきれなくなった人たちだから共通して言えることはストレスがない。すなわちアホウにかぎりなく近い人たちだが、和ミさん世代の青春の持続法はいささか異なるグラデーションが感じられ、どんな続編が送られてくるのかとてもたのしみに見つめている。

  2012年06月12日

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  跡部物部の本拠地を歩く。

  　　　　　　　　一滴の雨粒　　　　　　　　　　　　跡部物部の本貫地の跡部神社　一滴の雨粒からはじまる旅を続けて延々25年の歳月が過ぎた。大いなる無駄をつくしてようやく物部守屋の墓所にまで辿りついた。時が満ちるということはこういうことだろうか?。渋川郷は物部守屋が蘇我馬子に不意をつかれ取るものもとりあえず辿りついた別荘で陣営を立て直し、敵を迎え撃つ手はずを整えた。しかし、彼には蘇我氏たちの真意が計りかねたのではないだろうか?。なぜを繰り返しながら射殺されたと僕は推測する。   教科書で習った聖徳太子や秦河勝をも巻き込んだ仏教導入の是非をめぐる争いとは異なる三韓の動向を反映した国際政治上の対立が顕在化したものとみられる。中大兄皇子の乱心は守屋謀殺ののち、蘇我へと及び、秦氏の動向すらそののち国史から見えにくくなっていく。大化の改新と呼ばれた維新に当たる事件はそろそろ再検討されるべきときが来ていると僕は思う。守屋の名誉回復もそのときなされなければならないように思える。　　　　　物部氏の氏寺とされる宝積寺址に建つ渋川天神社と尾形の整った狛犬 　　　　　　　　　　　　守屋墳　　　　　　　　　　　　　　　　　　守屋の首洗い池　　　大聖勝軍寺の門前に建てられた守屋墳。明治までは塚状の丘の上に一本松が植えられただけのものであったが、明治のはじめに藤原氏の系譜につながる堺県知事小河一敏(おごうかずとし)が墓碑を建立。　　　　　　　　　　大聖勝軍寺　　　　　　　　　全国の守屋系神社がズラリ守屋墳を囲む　玉垣にはMOOKきのこでも採りあげたアテルイを祀る片埜神社の名前も見られ、ここの宮司の養父家とのつながりが伺われる。　　　　       1.沙門天　　　　　　2.広目天　　　　　　　　3.増長天　　　　　　　　4.持国天　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　聖徳太子像の四囲に立ち太子を守護するかのような四天王像　　本来仏法の守護神である四天王は本寺では四大臣像と呼ばれ、上図左よりそれぞれ秦河勝、とみのあかえ、小野妹子、蘇我馬子に摸せられて、ここでも政敵のはずの聖徳太子、蘇我氏、物部守屋はなかよく祀られている。今回は都合で植松にある渋川神社へは立ち寄れなかったが、広大な社叢林とにぎはやひ命を祭るとされるのでまた機会があればきのこの季節に改めて訪ねたいと思っている。  

  2012年06月09日

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  金星の日面通過の日、湖東、金勝山(こんぜやま)にいた。

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　金勝山・重ね岩をかすめる金星内合の日の太陽　去る6月6日、太陽面の上部を左から右へ約6時間30分かけて通過するという。次にめぐってくるのは105年先とあってマスコミをにぎわした。しかし、月食、日食とは異なり太陽の1/32ほどの大きさで内合となった金星の太陽面移動のショウを肉眼で見届けることは難しくかつ又、さほどの意味はない。　しかし、この日僕は何をしていたかはとても重要だ。たまたま平日休暇を賜った僕は、つい数日前まではそれとは知らずに草津の良弁、秦氏、物部にゆかりのある金勝寺尾根を歩く計画を立て、実際、早朝家を出て花崗岩からなる連峰をさすらっていた。　金星は、神武以前に大和を統治していたもうひとつの天孫族・物部のトーテムで、『先代旧事本紀』にはニギハヤヒの伴をして生駒山に降りたった32人の防衛(ふせぎまもり)、副官の五部人(いつとものかみ)、職能集団の五部造(いつとものみやつこ)、その配下のニ十五部人(はたちあまりいつとものをのかみ)、そして天磐船の乗組員の船長、跡部首(あとべのおびと)等の祖・天津羽原、舵取り、阿刀造(あとうのみやつこ)等の祖・天津麻良、そして船子として倭鍛師(やまとかぬち)等の祖・天津真浦、笠縫(かさぬい)等の祖・天津麻占、曾曾笠縫(そそかさぬい)等の祖・天津赤麻良、そして川西きのこで目下探索中の為奈部(いなべ)等の祖・天津赤星の4名とある。この神武以前にヤマトに君臨したもうひとつの天神の流れこそが原大和を創った勢力なのだ。それは、かって出雲と呼ばれた勢力とも関わり、三輪山の蛇になぞらえられた大いなる鬼(もの)の主、オオモノヌシに重なる。　『日本書紀』神代記には、異伝として天津甕星(あまつみかぼし)、またの名を天香香背男(あまのかかせお)と後発の天孫族の壮絶な戦いの記事が神話世界の出来事として挿入されている。天津甕星は天にあって甕のように威力ある大きな星。<かか>とは赫、のちに山田の案山子とされた香香背男(=案山子翁)は、天にあって赤く明るい男で、天空で太陽、月の次に明るい星は、明星と呼ばれる-4.4等星の金星以外にない(木星-2.5等、水星-1.9等)。ここからわが国の国史にある「さわに蛍火のかがやく神、蠅のように騒がしい邪神」としての月神、星神は、太陽神に淘汰され徐々に勢力を奪われて行くが、時を経て妙見信仰や月読信仰として復活する。そこには秦氏、物部の勢力の悲願がこめられているように思えてならない。そして、空海が明星を得て悟りを開いたとされるのも、秦、物部とのつながりが立ち昇ってくる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　金勝山中にて　さてこの5月下旬から6月初旬の10日余りの日々は、私の中で思い思いの位置を占めていたさまざまな事象が激しくショ―トして火花が飛び散るような探訪が重なり、大忙しの日々であった。5月21日の金環日蝕、6月4日の部分月食、そして6月6日の金星の太陽面通過と単なる天空の動きが切実なつながりをもって呼応し始める日々が続き興奮ぎみで過ごした。 

  2012年06月08日

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  北方異民族慰霊37年大祭

  　　　　　　　　　　　祝詞奏上　　　　　　　　　　　　　　　　　お祓いの儀   昭和の日の朝、恒例となった北方異民族慰霊祭を斉行。　昭和の大戦の生き証人が次々と鬼籍に入っていく昨今、この慰霊祭は葉桜の季節に昭和という時代をふりかえるささやかな場を提供してきた。とりわけ僕にとっては、この集いはきのこを通して広がる「異」というひとつの巨きな世界をかいまみさせる絶好の機会と捉え重要視してきた。　異邦人。戦争遂行の当事者たちから見れば、兵力とならぬものはすべて異であったと言っても過言ではない。その目に見えぬ多くの異を祀っている碑が、明治以来の国家神道の中で生まれてきた護国神社にあるということの意味は大きい。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本年もごく少数の人たちに支えられて無事敢行　僕にとってこの昭和の日は、そうした歴史の表面には決して現われない多くの死者たちの声を伝える営みと捉えている。  

  2012年04月30日

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  2012年4月22日のこと、四天王寺聖霊会。

  　　　一心寺本堂とその脇の石の地蔵の西の彼方には通天閣を望むことが出来る。　　石の鳥居の西側、怜人町は上町台地の端に当たる。ここから清水坂がかっての渚を思い起こさせる高台になっている。その怜人町の南の斜面には、一心寺がある。法然らが専修念仏による浄土門の教えを説き、財力のある貴顕のみとおもわれてきた魂の救済を殺生を職業とする武士や庶民、被差別民にも広げる努力を続けた布教の拠点、四天王寺の「別所」のあったところだ。　　　　　　　　　　　太子堂の奥処にかって秘かに祀られていた守屋の祠　四天王寺の聖霊院太子堂の奥処には四天王寺創建以来の物部守屋の祠があり、ひそかにまつられてきたといわれる。この祠を守ってきたのは秦姓の舞楽を伝承した散所の人たちであろう。このように蘇我氏や聖徳太子のゆかりの地にはなぜか政敵の守屋、物部氏の影が見え隠れしている。　　　　大江神社、護国神社へ登る参道　　上町台地から下寺・えびす町へ下る清水坂　　　　　　　　　　　　　　参道脇の山吹　　　　　　　　　　　　　　石の鳥居の扁額の名残り　上町台地から清水坂を下り、大江神社参道から再び上町台地へのぼる途中には山吹が咲き誇り静かな雨の日曜日の情趣をいやがうえにも掻き立てる。　石の鳥居へともどると聖徳太子の筆になると信じられてきた「釈迦如来転法輪処、当極楽浄土東門中心」と大書された扁額がかかっていたとされる。梁塵秘抄には「極楽浄土の東門は難波の海にも対へたる / 転法輪所の西門に念仏する人参れとて」とあって当時ここから海が望めたのだ。この鳥居の元で真西に沈む彼岸の中日の落暉に掌を合わせると禍を福に転じ、死に際しては浄土に往生できるとされた。彼岸という概念も、ここ四天王寺の石の鳥居周辺に集う庶民や病者たちの悲願が寺を動かして定着したと言われる。四天王寺は全国の大伽藍の仏教寺院にめずらしく、弱者に対する慈愛の心を寺全体で示したほとんど唯一の場所だったのだ。この鳥居周辺から能の『弱法師』、歌舞伎、浄瑠璃の『摂州合邦が辻』が生まれたのもここがそうした追いつめられた人たちの最後の避難所だったことからもうなづける。だからこそ、秦氏の末裔を名乗る天王寺楽人たちは故なき差別を受けつづけてきたのである。秦氏物部がきのこ(鬼の子)だという意味がおわかりいただけただろうか。　雨の一日、四天王寺伝承の伎楽の数々を鑑賞し、聖徳太子絵堂で弘法大師とないまぜになって崇められた太子信仰のキャラクターを偲び、石の鳥居から浄土を望んだ当時の民衆を偲び、夕陽が丘界隈を行きつ戻りつしたことは長く記憶にとどまることだろう。

  2012年04月24日

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  きのこ文様の鬼瓦

  　　　  　　　　　奈良市平群町大字椿井小字峯堂　の常念寺脇の地蔵堂　鬼瓦。　平群町椿井の融通念仏宗の常念寺の本堂に隣接する方形の地蔵堂の屋根の鬼瓦のひとつにきのこ文様の鬼瓦がある。年代的にはさほど古いものではなく、近世以降のもののようであるが、こうしたマツタケをあしらった図柄の瓦はめずらしく、集合時間に遅れぬようかけ足で訪ねてみた。法隆寺より十三峠を越えて難波へ通じる街道の圏にある平群町は聖徳太子ゆかりの伝説に色濃く染められており、とりわけここは字名の通り、花椿の豊富な土地柄で、ツバキキンカクチャワンタケには不自由しない。　　　　　　　　　　　　聖徳太子ゆかりの井戸のほとりの落椿に取りついたツバキキンカクチャワンタケ　　ツバキキンカクチャワンタケ　Cibolinia camelliae 　一年前の春に地上に落ちたツバキの花に付着して胞子は発芽、菌糸を伸ばし、花の組織を分解しながら成長し、晩秋の頃には菌核をつくる。そして翌春、花椿の季節にきのこを生じる。子のう盤(チャワンの部分)は径3～18mm、ときに20mmを超える。また柄も細くて長く10cmを超えるものもざらで手入れの行き届かない椿の下にはごく普通にみかけられる。が、今回は特大サイズのものも多々見つかり、花木の数の豊富さを物語っている。                     

  2012年04月02日

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  けがれによる差別ときのこ。

  　　　　　　　　　　　　　　　　僕は、人類の乗り越えなければならないもっとも大きな課題はゆえなき差別だと考えてきました。思想史、宗教史の中で穢れが無数の差別を生じさせ、制度によって固定化してきたことは事実です。21世紀に入って根絶するどころかエスカレートの一途をたどっている戦争のもっとも熾烈なものは、一神教同志の差別に基づいています。この差別の原因となっているけがれ感こそが文化として植え付けられてきたものです。　一方、きのこはなぜおそれられ、また反対に蔑視されてきたのだろうか?。僕のきのこ文化の中心的課題はまさにこの問題にすべて含まれます。　文化人類学では、安定した秩序を撹乱するような新しい要素、バランスのとれたシステムの中に入ってきた異分子を危険な要素として、それをケガレとみなして排除していく事例をさまざまに取り上げてきました。沖浦和光さんは「どっちつかずで分類できないもの」「中心から外れた周辺にあるもの」もこうしたケガレとして組み込まれてきたと言っています。　たとえば古代、王化の及ばぬ辺境の人たちを「化外の民」として賤視してきましたが、この差別もケガレから解明できると。かっての蝦夷、現在のアイヌたちのことは戦前までは土人と呼んで何のはばかりも感じなかったのが僕たちなのです。「土人法」なんて法律まであったのですから驚きです。　僕が亡父から継承してきた毎年4月29日昭和の日に神戸市護国神社で斉行されます大戦殉難北方異民族慰霊祭は、悲惨な戦争を二度と繰り返さぬための集いであると同時に、そうした僕たちの心に巣くう「異」に対するささやかな差異・偏見をみつめるひとときだと思っています。　また神社の禁忌では「五体不具」もケガレの中に入れていますが、障害者差別の問題もケガレに端を発しているとみています。皮膚の色の違い、生まれ育った文化体系の異なる外国人にたいする差別も同様です。　この差別はやがてインド、中国では制度として固定化され法律に組み込まれていきました。わが国でももちろん律令の中で貴・良・賤として制度化されていきます。　きのこのことを僕は仏教思想の中での女性蔑視の言葉「三界に家なし」を援用して菌類の造胞子器官でしかないきのこのことをきのこ屋さん自体が誤ってとらえているとして動物でも植物でも、ましてや菌類そのものでもないきのこは「三界に家なき生物です」と言ってきましたが、この永遠の異邦性こそがきのこを他生物から区別し、それがまれにしか出会わないことからやがてそれぞれの意識の中で差別となっていきました。　きのこの先生をはじめた最初の頃、「食べられる?食べられない!!」には躍起になる親子が、毒と聞くとよく確かめもせずにまるでけがらわしいものにでも触ったかのようにポイ棄てにしていました。それが面白くて僕は「きのこを食べるなんて信じられない。マツタケでも古いのは毒でっせ」と言うと、てきめん両手一杯に抱えてやってきた妙齢のご婦人やその子供たちは取り返しのつかないことをしたといった様子で棄てていました。あげくの果てに「先生、こんなにきのこを触ってしまいましたが、身体に悪いことはないでしょうか」と聞く始末。いくら冗談好きといっても「いや、悪いですよ。いずれ死ぬでしょう」とは僕にもとても言えませんでした(人間はいずれ死ぬのですからまんざら嘘でもないのです)が、その取り乱しようが面白くてよく連発したものです。　それほど、きのこは馴染みのうすいいきものだったのですね。それもつい2～30年前のことです。きのこが可愛いなんて女の子たちが言い始めたのはつい最近になってのことです。この時、僕は差別というのはこうした些細なことから生じることを見続けてきました。 

  2012年03月13日

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  月天(チャンドラ)のこと。

  　　　　　　　　　　地天を語れば月天も語らねばならないだろう。インドの神々に詳しい斎藤昭俊氏によれば、以下のとおりである。　リグ・ヴェーダでは空の王はソーマだが、後期ヴェーダ時代には、ソーマ(Soma)が月の神と同一視された。月の神はチャンドラ(Candra)である。チャンドラは八方の守護神(ディクパーラDikpala)のひとつとされ、危難のときに拝まれた。銅色の男の姿で表わされ、旗は赤、まだらの羚羊の牽く車に乗っている。　インド仏教では、チャンドラ、アーディトヤ(太陽)、インドラ、ヴァ―ユ、シヴァ、クペーラは仏陀の従者となっている。　わが国ではチャンドラは月天とされ、十二天のひとつで、金剛界胎藏界両部曼荼羅の外院に位置している。3または5羽の鵝に乗るか、鵝の車に乗る。赤髪で右手は腰に当て左手に月輪をもつか、あるいは白蓮花を持っている。　ソーマが月の神となった背景には、きのこが太陽光にではなく月の光に反応して子実体をもたげることと無関係ではあるまい。　ソーマ、アムリタはそれぞれ神々との交信を可能にする至上の飲み物、甘露に比定されてきた。アーリヤ族の南下によってもたらされたシャーマニズムの流れはソーマの争奪として様々なメタファーの形でアートの中に残されている。ただこれらのイコンを解読し核心に迫る文献資料はすべて隠喩や暗号の形でしか残っておらず推測の域を出ない。が、世界宗教の聖典にはこのことに関して実に多くの章句を残している。　今日では、ソーマがほぼベニテングタケであったことは守るべき権威をもたない人たちの間ではほぼ定説となりつつあるが、僕にとってベニテングタケはきのこ世界のキティーちゃん的キャラであることを定着させることのほうが面白いと考えている。　お絵かきをおぼえはじめた幼稚園児が花というとワンパターンなチューリップを描くように、きのこといえば傘に水玉模様をのせたベニテングタケを描くことはすでに定番となっているのはこのきのこのもつ強烈なオ―ラにもとづくものだろう。しかし、これだけでは何か物足りない。もう一歩ひねることで面白いキャラができあがるように思える。

  2012年03月03日

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  インドの神様のこと。

  写真は若いコツブタケの断面。時間の経過にともないすべてが胞子となり飛散する。法隆寺ではコツブタケの野ざらし状態のこれに出会った。そこできのこポエムは「身を粉にし役目終えたるコツブタケに春日あまねし」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　インドの神さまは実に多様ながら、その手がかりとなるのは以下の通り。　まず、ヴェーダの神様。自然を神格化し、その卓越した力が尊崇され、儀礼と結びついて犠牲によって力をつけてきたようです。そして時代によってその役割と名称が変って行きました。　古いヴェーダでは、世界の創造者としてブラジャーパティ(Prajapati)で、ディアウス(Dyaus)を天、プリティヴィー(Pritivi)を地として、この二人を両親として他の神々は生まれてきたとされます。ただ、この両神は、インドラ神、ソーマ神から創られたとする2説があってなかなか複雑です。　リグ・ヴェーダでは、神々の数を33以上とし(一説には300、3000、39とも)、アグニ神を地、ヴァ―ユ神あるいはインドラ神を空とし、ス―リャ神を天としています。　しかしアーリア人がインドに定着してまもなく、ディアウスはインドラ神にとって代わられます。ディウスピタ―(天の父)　これらの神々は不滅ですが、独立した存在ではなく、善を成し、犠牲を行ってアシュラや悪霊を打ち破ったことによって神となります。アシュラはインド以外の地では善神ですが、インドでは不善をなし続け悪役にされつづけ神格を与えられずアシュラのままにとどまります。お気の毒!。　時代は下ってプラーナの神は、第二聖典と位置づけられるラーマーヤナ、マハ―バ―ラタ、プラ―ナを典拠として、古代のバラモン中心主義と異なり、バラモン教の中心がシヴァ神、ヴィシュヌ神、とウパ二シャ―ドの中心的原理であるブラウマンの擬人化のブラウマー神の3神の信仰に変り、現在に至るヒンドゥー教の中心を成すようになります。　この3神を中心とする考えは、7世紀のグプタ朝に於いてすでに定着しており、土着の文化を吸収し、融合してきたことが知られます。　ここではヤ―ダヴァ族の長であるクリシュナは、ヴィシュヌ神の化身であり、ラーマーヤナのラ―マの化身でもあり、仏教創始者の仏陀の化身でもあるとされ、これらは部族統合の反映とみられています。シヴァ神もいくつかの性格を相(Murti、ム―ルティ)として表わし、地方の女神をシヴァ神の妃パールヴァティと同一視してシヴァ神崇拝と女神崇拝の密接な関係が生じてきます。　第二聖典の成立は、ラーマーヤナ BC300年頃。マハ―バ―ラタはBC200年頃、そしてプラーナはどんなに早く見積もってもAD8世紀以降で、プラ―ナではラーマーヤナ、マハ―バ―ラタの人物や英雄はすべて神となっていること、そしてヴェーダ時代は同じ神々を崇拝していたのが、プラ―ナに至っては一つの神の優越性を示し、他を非難し、あるいは化身として崇拝する形に変っている。この1000年近い時間の熟成作用の結果が、現代のヒンディーを創り上げているということは記憶にとどめておく必要がありそうだ。　仏教の神々も仏教側からは当初ヒンディーとの差別化をはかるため、仏陀はデ―ヴァではないとされ、Yakkha、Angiras、Nagaといった神霊にちかいものとされた。そして最盛期には仏陀はすべての神々を超えた存在とされる。アショーカ王の頃にはこの考え方がすでにみられ、小乗仏教諸派はこの考え方を支持し、大乗仏教もこれを継承した。グプタ朝以後、ヒンディーが隆盛になってくると、ヴェーダ―ンタ学派の哲学的思惟に拠って、これに対抗してヒンデ―諸神は根本の仏の現われに他ならないと説かれるようになる。大乗末期にこの考えが現われ、真言密教において顕著となる。仏教の曼荼羅にインドの神々が座を占めているのはそうした発想に基づいている。　ただ、ブッダという言葉は古いウパニシャ―ドでは単に「真理を悟った」というだけにとどまり、ジャイナ教でも、宗教の違いを超えて聖人、賢者のことをブッダとし、スッタニバ―タのような古い聖典ではブッダ=聖人、修行者のことを指している。　　　　　　　　　　　　　 

  2012年02月29日

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  きのこナイト in 大阪

  　　　　　　　　　　　RIMACONA-LABの作曲で披露された耕太郎さんのきのこソングの数々　　西心斎橋のスタンダードブックストアで開かれた飯沢耕太郎のきのこナイトに行ってきた。東京の恵比寿での同名イベントが好評だったため、関西でも開催しようということになったらしい。耕太郎さんのトークはきのこの映画がメインテーマ。そのうえ、彼が作詞したきのこソングをリマコナ-ラボが歌うというので、以前からぜひ聞いてみたいと思っていたので楽しみに駈けつけた次第である。耕太郎さん作詞の曲を中心に4曲(Mushroom Head,そのきのこ、キノコリ-キノコラ、まどみちよさんのきのこ)聞かせてもらったが、リフもなかなか楽しく、また、彼自身もリコ―ダ―で特別参加し多才ぶりを発揮していた。　　　リマコナ・ヴォーカルの柳本奈都子さんは、オレンジ・ペコ―を一段と艶っぽくしたような声の持主で、相棒の原摩利彦さんのキーボードがまた音楽的にもとても素晴らしく、これは来るだけのことはあったと感じたことである。　かってのシュールレアリスム運動はブルトンの資質もあって音楽のジャンルのアートがとても手薄であったことが一つの特徴だが、僕のヘテロソフィアアートにおいては、音楽、現代アートは、それだけでキノコチックなもので、別段ワン・パターンのきのこが登場しなくとも立派にきのこアートだと考えている。そんな意味でもとてもチャーミングなきのこアーティストの登場にうれしくなってしまった。　      　　    きのこの登場する映画を熱っぽく語る耕太郎さん　　　  マダラのイベント参加作品　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　参加者のフリ―ドローイングイベント　　　会場ではきのこ青年大江君はパッと見にはちよっとレトロのブレザーだが、よくみると無数のきのこがかくし味になっている究極のおしゃれスーツを着て登場、また毎号「MOOKきのこ」の素晴らしい表紙絵を手がけてくれ、目下超多忙の現代アートの城戸みゆきさんも来ていて久しぶりにしみじみ語りあったことである。 　　　 　   　　　

  2012年02月25日

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  2012年ムックきのこクラブ始動!!。

                                        枯蓮のうごく時きてみなうごく　西東三鬼　僕がJ-FAS日本キノコ協会を創始したもっとも大きなテーマはT・T・K(すなわちTHROUGH THE KINOKO)であった。きのこ、すなわち見えるものを通してその彼方に広がる見えない世界を感得する力を奪還することであった。　ものの背後にうごめく世界を感得するためには想像力が不可欠だ。あらゆるアート、そして宗教文化はその見えないものを形にする限られた人たちのものであった。　きのこをつくる菌類は、そんな選ばれた少数の人たちの特権のように思われてきた世界を生物界の最底辺を占めるきのこたちを通して万人に開かれたものにするためのモデルとして最適の生きものだと初めて出会った時感じたものだ。以来25年、僕はそのことだけを追求して今日に至っている。　そして時代はようやく僕の考えにシンクロする人たちもちらほら現われてきた。「潮もかなひぬいざ漕ぎ出でな」(額田王)の心境である。　いよいよ本年はそうした新しいトレンドに自覚的に関わり共に太らせていく人財を確保するための様々な試みを始めるべき時なのだ。　見えないものを見るためには、想像力が不可欠だ。そして、なによりもその想像力の質が問われなければならない。　僕のT・T・Kメソッドでは、その想像力を「自然」に基礎を置く。きのこを食べたい一心の人たちと無言でつきあいながら、25年の間ひたすらきのこを観照する旅に連れ出してきたのもそのためだ。　人間は、栗本慎一郎がいみじくも喝破したように『パンツをはいた猿』である。とりどりのパンツ(すなわち文化)をまとって着ぶくれ状態になり、ちょっと大切なところが蒸れはじめた猿が現代人だ。「このままではエレクトしないではないか」と危惧しているのは僕だけだろうか?なんて冗談はさておき、自然に基礎を置くということは、何ら難しいことではない。　自身の身体的なもの、すなわち生物的な本能の部分を再発見し、蒸れたパンツを少し脱ぎ捨てて風通しを良くし、まず心身のバランスを回復することなのだ。　野性生物は、過剰を知らない。そんな生物的な痕跡を身体にとどめる僕たちが豊かな生活を望みアートを目指すためには常に「ちょっと背伸び」で充分なのだ。このちょっと背伸び、あるいは現実生活からつま先立つ民芸的な世界が僕たちの目指すアートであり、きのこシアター構想の核心部分を成すものだ。このプロジェクトはシュールレアリスム芸術運動がかってそうであったように二流志向、あるいは超一流をめざすもので一流の虚しさを身をもって示すことにある。したがって、大きな意味での新文芸復興運動(ネオ・ルネッサンス)でもある。きのこポエムの開始はこうした思いに関わっている。　大半が目に見えない世界のいきものであったがために地球最後の征服されざる生物のままで今日まで来た菌類は、かろうじてぼくたちの目に触れてきたきのこ・かび・酵母(真菌類)を通して人類とあえかながら親密な関係を築いてきた。　まずは「きのこのある風景」に身を置く充足感を満喫することからはじめよう。　その上でちょっと背伸びの能力を磨いていこう。こうした等身大の発想からは制御の不可能な原子力エネルギーを扱うことの無謀さは自明である。そんなあたりまえのことを極くあたりまえに拒絶する文化(きのこパンツ)を再創造するのだ。　これからの10年、どれだけ今述べたことを"It is natural!"と受け止める人たちを作れるかはまったくの未知数だが、世代を超えてアート運動として太らせ伝えよう。　そのためには、個々人のアート生活を、個々人の枠組みの中にとどめず、ひとつの大きなうねりに参入するための視点を持つ。ムックきのこクラブのメンバーはぜひ、不揃いのきのこのままにそのことに自覚的となり、総合芸術の中での自分自身を位置づける努力を続けていってほしいと願っている。 

  2012年02月14日

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  福島と向き合う講演会

  　　　　　　　　　　　　　　　　飯館村酪農家　長谷川健一さん　2月11日夜、さよなら原発神戸アクションの主催する福島と向き合う講演会が神戸の兵庫中央労働センターで緊急に開かれ、飯館村酪農家の長谷川健一さんを招いて「飯館村であの日から起こってきたこと」の詳細を聞かせていただく機会を得た。彼はその話の終り近くで、本年の1月、恐れていた井戸水から高濃度(14.1mSv)の放射線量が検出され、いよいよ新たな行動を余儀なくされる事態に立ち至った現状を語られた。放射線量は十津川水禍の昨年夏には相対的に低下するなど、流動的だが、ただちに避難すべき現状を見つめつつも、なんとか継続して住み続けたいという村人たちの思いが、除染に一縷の望みを託そうとしている現在、棄村を訴えることの困難さも少し漏らしていた。長谷川さんは講演と質疑に応えたのち、結語として「差別のおきない体制づくり」と「風化をさせない」ことを目下最重要課題として活動していると述べられた。　そのあと、一海真紀さん(福島のこどもたちを招きたい!明石プロジェクト事務局)、橋本慎司さん(兵庫県有機農業研究会副代表)、市川哲さん(肩書は日本キリスト教団篠山教会牧師だが水産関係のスペシャリスト)らが所信を。　前迫志郎　福島原発事故からいのちと食を守るネットワーク　この日私がかけつけたのは、昨年9月18日「品川宣言」を起草した友人の前迫志郎氏がその想いを語ると聞いたからであった。がここでも彼は事態は悪化こそすれ好転することはないという立場でますます見えにくくされてきた福島の現状「南相馬では複数の大人に脱毛や異常出血が出、福島の自殺者を含めた老人の死亡率が昨年の12倍以上という現実。チェルノブイリ25年の実態を知れば、政府、マスコミ、学者が一体となって宣伝している除染・帰還政策は東電を生きのびさせ、福島県民を棄民させる策以外の何モノでもない」とし「福島から人がいなくなることを目標に頑張る」と訴えかけていたのがとても印象に残った。      

  2012年02月13日

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  神格化されたきのこ

  　　　　　　　　　　2009年秋の戸隠で出会ったベニテングダケ　あらゆる宗教の原型は神との交信にあり、心身離脱のオ―トマティズムにある。それを容易にしてきたのが、アムリタ、ソーマなどさまざまに呼びならわされてきたベニテングダケだ。このキノコはメソ・メキシコのテオナナカトル(神の肉)、すなわちマジック・マッシュルームと呼ばれるシロシ―ベ・グループとは全く異なる受容の歴史を持っている。　古くはR・G・ワッソンの『聖なるキノコ・ソーマ』以来、古代社会におけるイコンや文献にみられるキノコはこのきのこではないかとされてきた。これらの研究は菌類民族学として根強く研究され、現在ではソーマは4種の植物の混合体だと言う研究者も出て、いよいよこの研究もひとくぎりがつけられる様相を呈してきた。本年は我が国2度目のエジプトブーム再来の年といわれ、ピラミッド文明を地球外生命体のなせる業という意見もドキュメンタリー映画で示唆され、サントリー・ミュージアムでのエジプト展など準備がすすめられすでに週刊誌『ポスト』ではエジプトピラミッドの謎として16ページカラ―グラビア特集が組まれた。　いずれにせよ、スフィンクスやピラミッドを創った文明や楔文字文明のシュメールに、このきのこの神格化された謎がちりばめられている。その痕跡はベニテングダケと一見無縁にみえるエジプトの諸神殿にも見られ、ヒンディーに至っては実にさまざまに伝えられている。きのこによる神々との交信は、僕たちの世代では「それがどうした」というほどのものでしかないが、しかし、謎は謎。解明される必要がある。そしてこの謎の解明は実に実り多い副産物をともなうものかもしれない、と僕は睨んでいる。　深層心理学の世界、ファシズムにつながる政治世界の問題が明るみに出る可能性もある。　きのこの神格化の歴史はポスト一神教世界の到来を待ち望む人たちにとって、それは様々な示唆を与えてくれることだろう。僕はむしろきのこの幻覚性よりもそうした父権制の限界を鋭く問いかけるものとしてこのきのこの神性をみる。

  2012年02月06日

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  栂尾高山寺のよもやま話

  　　栂尾・高山寺は神護寺を再興した文覚上人がここにも手を入れ神護寺の別所としたもので、彼が流罪になり佐渡へ流されるたのち荒廃。それを弟子の明恵が後鳥羽上皇の院宣を得て華厳宗の道場として再興した。1206年のことと伝えられる。ここで入宋した栄西が持ち帰った茶の種を贈られ、茶園を広げ茶を広めた。室町時代に流行した闘茶では栂尾茶を本茶とし、他産の茶を非茶として喫し本茶を言い当てる遊びがはやった。ここの茶が宇治に贈られのちの宇治茶の隆盛をまねくことになる。それが江戸期の黄檗宗にもつながっていく。過日、なんば高島屋で開かれた黄檗展はそんな意味でも感銘の深いものだった。ここで若冲の墨絵にも出会ったことはなんともうれしいことであった。　この『夢記』の著者明恵は、空海を慕いはしたものの南都仏教の華厳宗の継承者として法然の専修念仏には真っ向から反対したことでも知られる。　人と人の流れはそうした紆余曲折をともないつつつながっている。　そんなことをきのこは一部始終見つめて、厳冬期の先般、僕たちを迎えてくれたのだ。　僕は栂尾の呼び名に罪とがの咎ということをなぜか当ててみたいと思った。ここが別所であったこととの関連である。 

  2012年02月02日

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• 葛野秦氏の本拠地「嵯峨野」

  　鬼の子伝の執筆を続けるにあたり、葛野秦氏の本貫地・嵯峨野を抜け、愛宕山をムックきのこクラブの人たちと目指した。10時清滝バス停集合としたので、僕は5時に起床して、嵐山から徒歩で清滝まで秦氏のことを念頭に置きつつ歩いた。途中落柿舎とこれまで度々訪ねた去来の墓に詣でてきた。　去来の墓は、僕の好みにぴったりのちいさな碑(いしぶみ)で何時来てもうれしくなる。俳諧師にふさわしい墓である。こうした無数の鬼の子たちが我が国の今日までを支えてきたことを思わずにはいられない。　写真は向井去来の墓。供花と比べればその大きさはおわかりいただけると思う。我が国の律令制以来の身分制度、貴、良、賤　の三層構造の賎こそがわが国の歴史を推進してきた。この層こそが、百姓(オオミタカラ)からドロップアウトした膨大な数の無名の人たちであり、彼らは国家的忠誠よりも、最下層の民たちの魂の救済を真剣に考えた人たちを輩出した階層で多くは墨染の衣を着し、自ら表の世界からは賎民の身分に甘んじながら、国境を自由に往来できるポジションを確保し、その中から傑出した一部のものは裏の世界で、すなわち心の世界での真実に生きようとした人たちだ。空海、最澄にはじまり芭蕉や蕪村につながる墨染の僧形の非・良民の伝統である。　　　なぜ僕がきのこという不思議な生き物に魅せられたかを問い詰める中でつかみとった鬼の子の世界。それは非・良民たちの意気に感じるものであったとは実に痛快である。

  2011年11月14日

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• 鬼女紅葉。

  　謡曲『紅葉狩』に登場する戸隠の鬼女紅葉は、多田源氏と深く繋がっている。というより多田源氏は摂関家に近寄り、平安中期の武士団成立時の中心的存在で、大江山の鬼にはじまりさまざまな鬼退治の伝説を一手に引き受けた感すらある。　観世信光作の謡曲では後述する平維茂(たいらのこれもち)が紅葉狩で酒宴に興じる女房たちに引き入れられるが、実は女は戸隠山の鬼女で、維茂は八幡宮の神剣を得てこれを討つという筋書きだが、当時流布していた鬼女伝説には以下に述べるように多田源氏が登場する。　奥羽会津に住む伴笹丸(とものささまる)夫婦は子のないのを嘆き、第六天の魔王・摩利支天に祈願して、一女をもうける。名を呉葉(くれは)といい、美女にして管弦の道をきわめ、たぐいまれな女性として噂が高かった。もちろん土地の長者から嫁にとたのまれたが、もとより笹丸親子は野心があり都での栄達を望んでいたので魔王よりさずかった超能力を駆使して、呉葉の分身をつくり、身代りとして長者の家に嫁入りさせ、大金を受け取り、京都へのぼり四条通りに店を構えた。或る時、源経基(みなもとつねもと・多田源氏の始祖)の奥方が店の前を通りかかると店の奥から妙なる琴の音が響き、その余りの美しさに魅せられた奥方はその弾き手である呉葉を屋敷に出入りさせるようにする。そこで経基の寵愛を受ける身になりやがて懐妊する。それからは本性を現わし、夜な夜な妖術を使って奥方を襲い苦しめるようになり、たまりかねた奥方は比叡山の僧侶に祈祷を依頼し、呉葉はその正体を暴かれ、囚われの身となって戸隠へ配流されてしまう。その呉葉が身を隠したのが鬼無里の荒倉山だったのだ。ここでも超能力を使い村人の崇敬を集めるようになるが、もともと魔性の女、やがて村人を襲い人肉を食い、生き血をすする鬼女の正体をあらわにする。　そこで都から鬼女征伐のために平維茂が派遣されたが、第六天魔王の加護を受けた鬼女の妖術に妨げられ、武力だけではとても歯が立たないので、北向観音と戸隠大権現との力を借り、激しい戦いの末、ついに降魔の利剣(ごうまのりけん)を用いて紅葉を倒したという。　鬼無里(きなさ)という不思議な地名は、そんな伝説に彩られた土地柄なのだ。今は鬼女も居らず、おやきのおいしいのどかな鬼無き里となっている。戸隠もうでの折りに一度は訪ねたいと思っていたところだったので今回やっと立ち寄れてとても幸せだった。　写真は鬼無里のいろは堂本舗のおやき。

  2011年11月01日

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• なつかしいポンレベック

  　僕がナチュラルチーズ普及振興会社兼レストランの企画部長していた頃、ウォッシュタイプのきのこの初体験はこのポンちゃんでした。フランス語にはあまり強くありませんが、エヴェック橋という意味でしょうか。ノルマンディー地方のAOCチーズで、前回ご紹介したフランスはサヴォア地方のAOCチーズ「ルブローション」同様、饐えたパンティーのような匂いの、しかし、格別においしいチーズです。外皮もしっかりしていましたので、捨てるにしのびず、全部食べちゃいました。このノルマンディー地方のチーズのうまさは、林檎と関係が深いと聞いて当時チーズの宣伝文句に使っていました。林檎をしぼってシ―ドル酒(りんごの発泡酒)、そしてそれを蒸留してできるコニャックと良く似たカルバドス酒を作ったときに出る大量の搾りかすを乾燥させて牛たちの飼料にしているから、ミルクにはカロチンはじめリンゴに含まれるたくさんの微量成分が豊富で独特のうまみをかもすということです。本当か嘘かは食べてみればすぐにわかりますよ。　そんな次第で、今日は焼き立ての食パンを買ってきて、シードルはないので、パッションフルーツのワインと、それからまた素敵な友人からもらったハーブ、こちらももらったとき犬小屋(ケンネル)と聞こえたように記憶しますのでフェンネルかな?。それとゴマの香りのする葉っぱのサラダで、とにかく香り高い食材ばかりを丸かじりして夕食をすませました。本当に命ながらえてよかったとしみじみ思える晩餐でした。好きなものは食べ過ぎて、ポンレベックちゃんは1/2ポーションの200g喰っちゃいました。しあわせでーす。

  2011年10月24日

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• 仲秋の名月の昨夜、うれしいチーズをもらっちゃった。

  　むら雲の隙よりドラマチックに見え隠れした仲秋の名月の昨夜、久しぶりに月の食べ物を賜った。ウォッシュタイプのチーズ、ルプロ―ションRublochonだ。半信半疑で持ち帰りパッケージを開けてみて、まさに私の愛したナチュラルチーズであることが判明した。もう20年近く前に私はヴェンチャー企業として紡績会社が立ち上げたナチュラルチーズ普及レストラン「フロマージュ・KRO」にチーズも菌類利用の食べ物だから是非にと招かれて3年余り企画部長をやったことがあり、当時関西には全くといっていいほど稀有な存在だったナチュラルチーズ全般、とりわけその頃、饐えたパンティーの臭いのすると言われたウォッシュタイプのチーズの拡販の企画をやっていたのだが、その私がはまったのがこのルプロ―ションだった。ウォッシュタイプというのは、チーズの外皮を水やその土地の地酒で洗いながら熟成させるチーズの総称でフランス産のものが多い。ポンレベック、ヴァシュラン・モン・ドール、リヴァロ、マンステール・ジェロメなど、強烈な匂いが特徴のチーズである。しかしその匂いとは裏腹に、味はとてもソフトで喰わず嫌いでなければ、くさやと同じで必ずはまる食味があり、僕は初めて口にしたとき、カルチャーショックのようなめまいを感じたが、すぐに虜になってしまった。雑菌で腐敗しているかのように粘っこい汗をかくのでその菌の繁殖を抑えるために外皮を洗うのだ。香り高い赤ワインがぴったりくるチーズである。ルプロ―ションはフランスサヴォア地方の産で、ウォッシュタイプの中ではやや硬めのチーズでクリーミーさが取り柄。「月々に月見る月は多けれど月みる月はこの月の月」。そんなフルムーンの夜に、月の形そのものをなぞったような500gもあるチーズを賜ったのだから舞いあがってしまった。しかもちょうど食べ頃。しばらく生きながらえることができそうだ。

  2011年09月13日

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• サカサクラゲ

  　　　さかしまに世界を見直すことも視点の転換にとってもよさそう。サカサクラゲは一生さかさまで暮らすのかな?。

  2011年08月23日

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• ミズクラゲ

  　　　　　　　　　　　　島港くらげまどろむ昼の潮　　マダラ　　若書きの短詩にかってこう記したのがミズクラゲちゃんたち。　写真はスカートの下からのぞいたもの。

  2011年08月23日

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• 短かった夏。

  　今年の夏はほとんど無きに等しいくらい短かったというのが僕の実感。　自然界もガタガタのまま推移している。そんな日々の谷間のクラゲたちとの対話はしばし心和む。のんびりタイプのアカクラゲ。「狭い地球そんなに急いでどこ行くの」せかせかタイプのタコクラゲ。いつもヘコへコ踊っている。どんよりタイプのミズクラゲ。「何があっても動じないよ」だって。眉をひそめることばかりの身辺。ときおりばっさり全て切り捨ててしまおう。直視し続けてもどうにもならないことが多すぎる。　この夏はぼくたちの戦後66回目の夏でもある。　きのこにからめて日本にもあった植民地についての記憶を喚起する物語を紡ぎたいし思っている。二十四節気の処暑の今日、いつとはなしにふと思い至ったことがある。　日も随分と短くなってきた。いったんクラゲに真似び、まどろんでから考えることとする。　写真はへこへこダンスのタコクラゲ。

  2011年08月23日

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• 無限大ふたつ重ねて秋立てり

  　8月8日は、きのこ暦にとってもっとも重要な日。それは無限大が二つ、わたしたちの螺旋形を成す生の営みのおわりにしてはじまる起点となる日なのである。いよいよつぎのステージの開始である。おりしも立秋。野山のきのこもこの日を境に秋モードに切り替わる。 写真は酷暑をものともせず登場したてのひら大のオニイグチ。

  2011年08月08日

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• ベニタケに出会った

  　　今日は、ひさしぶりに夕方からフリーとなったので、帰宅途中の雑木林を通ってかえることにした。ヤブレハツタケに似たベニタケが私を出迎えてくれた。(ベニタケは一目瞭然と思いきやなかなか同定はむずかしく柄が下部に向かって細くはならないことから和名は留保)

  2011年05月25日

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• 雨の四天王寺

  　　聖徳太子の命日にちなみ、繰り広げられる伎楽の舞。仕事がはねてそのままかけつけたが、すでに終わっていた。昨年の同日は、大阪に出ており早退してかけつけたので一部始終を見聞した上に、守屋の廟にも詣でることができた。今年も雨に見舞われ、昨年同様、六時堂の中で舞われたようだ。　ただ残念だったのは物部守屋の廟への門も閉ざされていて、再訪することがかなわなかったこと。　ともあれ私の今年からの課題は、古代史の中で謎の多い鬼の子の歴史をアカデミックとは異なる方法で形にすること。日下、枚岡を皮切りにここ四天王寺と来て、いよいよ住吉大社から奈良の法隆寺、磐船神社、田原本の秦楽寺、明日香へと繋がって行く。　せっかく足を伸ばした大阪なので、本家・釣鐘饅頭を買い求めて頬張りながら、夕陽が丘からギャルの町・心斎橋からナンパ方面を散策することにした。写真は雨の四天王寺の夕べ。

  2011年04月23日

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• 「アルゼンチンタンゴ　伝説のマエストロたち」に感動。

  　新曲が出なくなって久しいモダン・ジャズに辟易しながらも、ジャズの精神を探しあぐねていた当時の私に、「STUDIO VOICE 7」1990年7月号の特集記事・熱帯音楽への航海を書店で見つけ精読、そしてこの切り口の斬新さに圧倒された。「なるほど、ジャズに私が求めていたものはこれだ」と想いを新たにしたことだった。それから世界中の熱帯音楽、民俗音楽の世界をさまよい20年あまりの歳月が流れたが、きのこに魅せられて協会に入ってきた高校時代ザっパに参ったというMさんとはそんなヘテロとしか言いようのない音楽でも面白いほど趣味が一致し、いろいろな音楽の旅をつづけてきた。　そんなMさんが表題の映画に関して「久々の音楽映画の快挙!。是非観て欲しい」と電話の向こうからと言われたが、マイナー系映画館の興業、しかも短期間の上映ですでに終了していて歯ぎしりしたものだった。不憫に思ったのかM君はそんな僕に映画のDVDと同CD2枚を届けてくれた。ところが本年になって宝塚のシネ・ピピアで音楽映画・昨年のベスト10というくくりで上映してくれることになり、さんざん迷った末、最終日のレイト・ショウで観てしまった。　しかし、それは全くの正しい選択だった。この映画は劇場サイズでみるにふさわしい内容で、全編感動につぐ感動。さめざめと涙があふれるのを途中から拭くのも面倒になり、涙でぐちゃぐちゃの顔になりながら観ちゃった。もともと変形しているので周りにさほど気づかれることもなかったのがちょっと不満だったくらいだ。　とりわけ、それぞれの当時現存していたマエストロたちの語りはほれぼれするものだった。　「タンゴは人生そのものだ。タンゴが育つ土地はブエノスアイレスだけ。ここでは失うもののないミュージシャンたちが人生を賭けた音がある。」　・・・ホセ・ぺぺ・リビエ―ラ　まさに私がきのこと出会ったときに直観した人間の生きざまの究極のものがここでは語られていた。「失うもののない」表現者たち。これこそが、私がきのこに象徴されるヘテロ・アートの小流れを先へ先へと運ぶ人たちの存在証明なのだ。『MOOKきのこ』13巻はそうした極く少数の失うものとてない表現者たちのいのちのカタログだったと思っている。　この映画の撮影開始から昨年5月までに出演マエストロたちの内8名までがすでにこの世を去ってしまったとのことだ。しかも死が勝利をおさめるその日まで、下町の片隅で若さを重ねてきたであろうマエストロたち。そんな彼らの精神のなんと気高く、初々しい気迫にみちていたことか!!。　「あらゆる芸術の中核には不断の青春性がある」・・・、この映画は私がこの齢になってようやくつかみとったヘテロ・アートの原理を強く支えてくれるものであった。　帰宅してからCDに収録されたそれぞれのナンバーを息つめながら聴き入ったが、またまた涙がこみあげてくるのを抑えられなかった。

  2011年03月07日

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• 生駒山西麓近鉄石切駅から眺める大阪平野は古代、海だった。

  　生駒山の西麓、石切駅から眺める大阪平野は神武東遷の時代は海だった。石切、日下のあたりが海岸線で、現在の大阪城のあるあたりが上町台地の突端、岬であった。日下から石切神社への途次、みとめた町川(写真)も古代には海底であったことになる。　神武天皇のヤマト入りをはばんだのもこの地なら、日下の姫を欲しいと願い出た暴君・雄略天皇の申し出をことわって退散させたのもこの地で、ここは物部につながる日下族の聖地であった。ただ、日下神社は本殿も拝殿も完膚なきまでに切り刻まれ、駐車場となっていて鳥居後の礎石と小詞のみが残されていて痛々しいかぎりであった。石切神社は皇祖神に直結する天孫を祭神としているにもかかわらず、かろうじてでんぼの神さんとして庶民の崇敬を保っているにとどまる。それでも元春日神社とも言うべき社がその痕跡を今日に伝えており、奈良と河内の切っても切れない関係が浮かび上がってくる。そのキー・ワードこそが日下なのである。日下、和邇、物部、中臣、秦、そして民話の浦島太郎も・・・。

  2011年02月04日

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• 追儺の夜

  　　　　　　　　　　　鏡中の鬼と向き合う追儺の夜　きのこと出会って、鬼というものについて考えさせられることが多くなり、鬼とつきあいはじめて25年の月日が流れた。今年は鬼の子のこともぼちぼちまとめていきたく、日下にはじまり、三輪山から石上神社へ至る山の辺の道、枚岡神社とまた巡りたく思っている。　私にとって節分すなわち追儺よりも今日が新月で陰暦の元日に当たること、そして明日が立春であることのほうがもっと心騒ぐ事件なのだが、愛(かな)しい鬼の面と齢の数に少しばかり満たない豆をギャラリーの常連さんからいただいたので、鏡に向かって私の鬼加減と、その背後にうごめく無数の鬼の子(きのこ)たちをあらためて確認することにした。　鬼はすなわち隠(おん)、目に見えないが実在の確信または確認できるもの。21世紀はそんな鬼の跋扈する時代である。それを私はキノコチックな時代と名付け、そのテーマに添ってこれから意見を吐き散らしていきたく思っている。

  2011年02月03日

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• きのこのイコノロジィ(図像学)開設。

  　　　わけあってこれから以下のブログできのこの宇宙誌めいた断章をつづっていくことになりました。またお立ち寄りください。 http://palfan-japan.cocolog.nifty.com/

  2011年02月02日

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• 生駒西麓日下の地

  　生駒の西麓・石切から日下、善根寺町はわが国建国に到る重要な痕跡が色濃く残る地である。近鉄奈良線石切駅、枚岡駅周辺がその中心地。1月末の極寒の日曜日、早朝よりこれまで何度となく訪れてきたこの地を再訪し、2月の「山の辺の道」踏査へとつなぐ手がかりを探ってきた。日下神社、元春日神社、石切矢箭神社、そして爪切り地蔵とデジカメ片手に10数キロ歩いたが、心底冷えたこの日、石切神社社前の東洋のラビリンスともいうべき商店街で黄爵ジャガイモのほかほかおでんと熱燗でいのち拾いした感があった。　写真は元春日神社の神籠岩。

  2011年02月01日

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• 道元のこと

  　　　　　　　　　　去年今年(こぞことし)貫く棒のごときもの　　虚子　マンションのクリーンスタッフという塵とかかわる生活に入って、禅家、とりわけ道元と関わらざるを得なくなってきた。　比叡山で修業し、野にくだり鎌倉仏教の基礎を創った親鸞、日蓮、道元の中でも私は禅家の始祖となった道元は避けて通ってきた。彼の『正法眼蔵』は100巻を目指して死ぬ直前まで書き連ねられた著作で、とても難解、宋代の中国禅の専門用語まじりの文章はほとんど頭に入ってこない。不立文字(ふりゅうもんじ)を標榜しながらも、彼ほど多くの言説を弄した宗教家もいない。しかし、中世という時代の胚胎したものの中心に道元がいるということはこれまでも思ってきたので、これから60の手習いを始めることになりそうだ。しかし、手はある。芭蕉に弟子が著した言行録の三冊子、去来抄があるように、道元にも一番弟子の懐奘(えじょう)の著した『正法眼随聞記』という臨場感溢れるルポがあるのだ。ここらあたりから攻めたいと思っている。　道元によれば「心身脱落」とは悟りを得た瞬間のことをいうが、高崎直道氏によればそれは「心塵脱落」の誤記であろうと述べている。心の塵を落とすとはなかなか分かりやすい。　仏教の教えは生きている内に死ぬ方法の発見である。悟りとはそれに近い心身の状態であろう。ただ、頓悟したのちも生きることの中にさまざまな矛盾が生じる。結局究極の悟りは無いというのが私の考えで、そのため道元はひたすら座禅すること、只今の一刻一刻を精いっぱい意識的に生きることを勧めたと思っている。塵がうっすら積もると時間というものに連続があるように思えてくる。しかし、その感覚は間違いで時間というものは一秒一秒非連続であるということを彼は言いたかったのではないか。そんな思いを確かめるためこれから彼とも付き合ってみよう。　写真は1月16日に八坂神社奥の将軍塚より見た京都市内。中央の広大な緑が京都御苑である。日本の都に顕著な現象で、東京にも江戸城(皇居)が中央にデンと腰を据えている。

  2011年01月22日

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• 月読み神社の陰陽石

  　秦氏も中臣氏もある時点から我が国の自然宗教、神道、仏教などありとあらゆる宗教文化を集成し、掌中に収めようと努めるようになった。　これは非農耕民たちのいのちに次いでたいせつにしてきたものの水源をおさえ、真実無名のものたちの心の支えとなる何かを見据え形にしたいという思いがあったのではないだろうか?。それらはやがて我が国の七道の者と呼ばれた大道芸人や歌舞音曲の徒、零落した神人、巫女などの心の支えとなっていった。そして修験のものと呼ばれる山伏などの大もとである空海の末裔たちも・・・。私は空海に渡唐を勧め、真言密教の根本となる神々の体系を整えさせたのも秦氏であると考えている。　ただ、月読社には、この陰陽石(写真)とその脇にリンガのような三角の石が据えられており、これは秦氏の目指したものとは似て非なる代物で、月依石はまだしも、蛇足もここまでくるとやり過ぎと感じてしまった。枚岡のとなりにいます石切神社の祭神ニギハヤヒが忘れられ、ふきでものの神さんとして今日に至っているのとよく似た現象で、ここには文化の陳腐化とも言うべき取り違えが存するように思われる。　秦氏も中臣氏もどういった思いから、我が国古来からの太陽信仰にはじまり、石神に到るさまざまな自然神と、のちに伝わってくる仏教の神々をも体系化しようとしたのかをもっと真剣に考えてみるべきであろう。ここには人類の文化というものの核心があるように私は思っている。生物多様性の問題にもこのことは通じている。没価値な存在を没価値のままに受け入れることがまずあらゆる思想の原点にあるべきなのだ。神社という装置はその思いにもっともふさわしい場所であるはずなのだ。　月読命や星神天津甕星(あまつみかぼし)が日本の神話に極く一瞬の間登場し、その後、杳として姿を消してしまうのはなぜなのだろうということに思いを致せば、この世界が太陽だけで成り立っていると考える輩が如何に智恵が足りないかがわかりそうなものだし、そう思い至れば、何かご利益宗教とは別に人々の心の糧として神社や仏閣がどうあるべきかが見えてくるはずだ。新しいものを付け加える必要はまったくなく、欠けているものを復元する努力こそが今もとめられている。その足りないものの存在を象徴的に指し示しているのが菌類のアート表現、すなわちキノコだと私は考えてきた。　どうも今言った私の考えからすれば、この陰陽石には春日大社の社殿の下に見え隠れする磐座(これとて私からすればすでに単なる石にしかすぎない)とは異なり、安直な発想がみえかくれするのだ。月読み神社の風格を損なうといっても過言ではない。　聖スポットに立てば何かビシバシ感じるという人たちにも私はやせ細った精神の持ち主と感じてしまうし、時には不快感さえ抱いてしまうのと同様である。　神社のなにもない空間には見えないものがみなぎっており、それはそれ以上のものでもそれ以下のものでもない。金銭的価値は全くないが、そこに立つだけで生きてきた甲斐があったと感ずる程度のものなのだ。　芭蕉はつねに高悟還俗とさとした。庶民性こそ私のもっとも愛するところだが、庶民や名もなき民という人生を徹底して貫こうとするとき、高く悟って俗に還るという彼の本意をしっかりと自覚すべきであろう。特に庶民の心をどうにでももてあそぶことのできる立場にある宗教人はなおさらのことである。　この日私は素晴らしい一日をたまわった。そんな道中のふと感じた違和はささいなことではあったが、あえてここで書いて水に流そう。

  2011年01月13日

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• 松尾大社磐座への導入口にある天狗岩

  　松尾大社は早朝のため磐座(いわくら)へ登る許可申請が出来ず、登ることは断念。しかし、松尾大社から月読社へまわり、渡月橋への道中を歩いたが、疏水めいて民家を縫う小流は水量も豊富で小雪が間断なく注ぎこんですがすがしい。ときおり背にあたたかい日差しを受けて京都の冬のエッセンスをすべて満喫でき痛快きわまりなかった。葛野秦氏の氏神は、現在酒の神様となっていて全国からこもかぶりの清酒が献じられている。神体山の松尾山への入り口には小滝が流れており、その脇の露岩に天狗の顔が。参詣者の誰からともなく言いだしたことであろうが、そう言われてみれば天狗の顔が浮き上がってみえなくもない。秦氏の事跡と全く無縁ながら余興として載せておく。　本日は、寒風にさらされながら午後中水仕事をしていたが、寒さはさほど感じなかった。なにか満ち行く月の気配に身体中が目覚めているかのようだ。　今年の僕のテーマは「キノコチック」。このテーマに沿いイメージレッスンを開始している。

  2011年01月12日

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• 洛西・葛野(かどの)秦氏を訪ねる旅。

  　雪がちらほら舞う成人の日の10日、松尾大社にはじまり、月読神社、大堰川の渡月橋、大酒神社、広隆寺(蜂岡寺)、双が丘(ならびがおか)、木島神社をめぐってきた。京都の冬のエッセンスを一身に浴びながら、巡るほどに心が洗われていくようなすがすがしい一日であった。双が丘は町中の赤松、スギ、コナラなどの雑木から成る小丘で磐くらもあり、登る人とてなくすがすがしい小山で以前から辿ってみたいところだったが、本日ゆくりなく実現できた。路面電車まがいの京福電鉄(嵐電)もたのしい乗り物で嵐山駅構内には足湯ももうけられなかなか粋な計らいで感心した。　広隆寺の、聖徳太子が秦河勝に贈ったとされる弥勒菩薩と、同じく通称、泣き弥勒といわれる二つの木造佛の面前ではじっくりと時間をかけて対話を重ね、古代人の太陽信仰の記憶を今に伝える木嶋坐蚕社(きじまにますこのやしろ)神社の三つ鳥居を踏破して旅の目的はすべて終了した。この日の印象はまた改めてここでも紹介するが、写真は弥勒像との対話を終えて堂の外へ出た折りにみとめた放生池の水底の枯れもみぢ。この日、ようやく成人の日を迎え、大人になった最初の日の印象としてここに掲載しておこう。

  2011年01月10日

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• 映画『デザート・フラワー』を観てきた。

  　連休の中日、私は早朝1回きり上映されるテアトロ梅田の『沙漠の花』を観に駈けつけてきた。やはり梅田ともなるとこんなマイナー系の映画でも行列ができ、小さな映画館がほぼ満席。上映映画の質と相まって劇場のロケーションもとても重要なことを示唆している。　その映画は、身体工変の文化と伝統をもつイスラム圏の沙漠の遊牧民の家庭に生まれた女性・ワリス・ディリーがアフリカの砂漠世界から抜け出してトップモデルの地位を獲得するまでの数々の辛苦の人生を現代ヨーロッパ世界での華やかなシーンに乾燥サバンナ地帯での生い立ちから脱出までの映像をからめながら進行する。しかし、その眼目は終章に到ってしめされることになるが、その伝統をもつ社会に生まれた女性はすべて不衛生きわまりない手段で生後まもなく女性的な部分をすべて切除され、その部分を縫合し貞操を強いられ、加えて結婚の暁にはその女性をめとった男性が縫合部分をナイフで切り裂き、一体化するという生涯に亘って苦痛しかない凄惨な人生を強いられる女性差別の実態を告発したものだ。映像でも充分伝わってくるが、その伝統と慣習には口減らしの意味もたしかにあるようで、事実ワリスとその2人の姉妹は施術後、感染症で高熱にうなされ、妹の一人はそれがもとで亡くなり、もう一人も出産の直前に赤子もろとも死亡したと彼女みずからが語る。しかし、リヤ・ケべデ演じるワリスの半生は強靭そのもので、さまざまな人生の岐路でかろうじて救いの手が差し伸べられるのをしっかりと掴み生き抜いていく様は爽快でもあった。　しかし、生きる勇気を与えられ鼓舞されるといった内容からはほど遠い映画で、鑑賞後強烈な余韻とともに何度もワリスとその背後にうごめく無数の性差別を受け続ける女性たちの影がちらつき深く考えされられるものをもっている。　観客の入り次第では、今月14日頃に上映は終わるというがぜひ見て欲しい映画のひとつである。梅田ではテアトロ梅田(早朝9時45分はじまりの1回)、神戸ではシネ・リーブル(夜の7時過ぎからの1回)の2館のみなので急ごう。

  2011年01月09日

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• 宝石のような１日。

  　正月早々、貴重な休みをたまわった。いつもなら、ついフラフラ出て行くのだが、今日はじっと我慢。　年末年始より、私はここ数年来キノコにからめて継続してきた秦氏・物部氏らの痕跡を求める旅を見つめなおしている。ゲニウス・ロキ(土地の精霊)としてのキノコの声に誘われながら普段気付かないささやかなこれらの氏族の遍在する痕跡を探し求める旅も続けていると段々にイメージが出来上がってくる。わたしの中で固定観念と化しつつあるそれをもう一度すべて崩しながら、ジクソーパズルの一断片として見つめなおす作業を今はじめている。　これらの氏族は5世紀雄略朝の頃から文献にあらわれるのだが、いずれも多くの枝流に分かれきのこ的宇宙を形成してきた。その本拠地が上桂に密集する。近く彼の地を訪ねるに際して、もう一度私の中でイメージの再構築を行うため今日はそれに没頭したいと思う。　写真は、白髪岳の肩のあたりから振り返った丹波の松尾山。

  2011年01月06日

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• クヌギタケらに見送られて文保寺川をさかのぼる。

  　文保寺境内で見かけたクヌギタケの群落、そのほかこの日の登山にはモリノカレバタケ、エリマキツチグリ、ヒノキオチバタケ、コガネキクラゲらが精いっぱい応援してくれていました。

  2010年12月25日

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• 白髪岳の冬ひだまりに座し、ココアを愉しむ。

  　白髪岳はかって登った折りの藪こぎを強いられた印象にほど遠く、よく整備されており、快適な山旅であった。　

  2010年12月25日

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• 白髪岳は新羅から来ているかも。

  　白髪や白髭はともに新羅に由来するという有力な説がある。そして新羅の語源は英語のSilk、蒙古語でSirkek、満州語でSirgeでいずれも絹に由来する。そして秦氏や聖徳太子が導入した仏教は、新羅仏教(私宅仏教)で、蘇我氏が導入した仏教は百済仏教(伽藍仏教)である。こうした微妙な温度差から古代史は定説が大きく覆る可能性がある。秦氏と新羅の深い関連が味摩之、白髪岳、松尾山と三拍子そろったJR篠山口からすこし北西のほぼ忘れられた地点から立ち上ってくるのだから驚きである。　そうこう考えていると舞鶴道の春日あたりより竜骨のようにそびえ立つ三尾山の三尾も秦氏とゆかりのある氏族であることが浮かびあがってくる。　　ムックきのこクラブは赤穂坂越の大避神社からはじまったことは記憶に新しいが、旧年の猪名川の秦氏と物部の関連につながり、三田の羽束師・物部の神奈備に相当する羽束山ともうひとつの原大和の頭領・ニギハヤヒ(石切神社の祭神)、そしてようやく丹波の秦氏の神奈備に相当する松尾山、白髪岳と広がってきた。また時々おつきあい願おう。たかがきのこだが、されどきのこの世界は実に奥深いものがある。今年もきのこを訪ねる旅をつづけながら、新しい発見を重ねていきたい。　写真は頂上付近にイワクラも散在する松尾山(687m)。味間集落の文保寺より登り、松尾山を経由して、岩稜を登る楽しみも満喫できる白髪岳に到り振り返る。京都の嵯峨野の入り口にある松尾大社の背後の松尾山は223mで山頂にイワクラをもつ神奈備山でその昔は日崎峯と呼ばれた。蚕の神社の三鳥居が古代のレイラインを示すことはほぼ定説となりつつある。

  2010年12月25日

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• 白髪岳ふたたび。

  　山と渓谷社がかって「山の写真」という雑誌を刊行したが、1年を待たず廃刊となった。その当時私は山岳写真に凝っていたので、モニター登録して山旅のレポートを送る作業をはじめた。虚空蔵山、そして白髪岳。当時西宮市に住んでいた私は、多田繁次の「兵庫の山々」や「北神戸の山」を参考に、三田から篠山の峰々を経巡っていた。山の名にしては白髪岳というのはちょっと違和感があったが、まったく心に止めることなく数回登った記憶がある。　しかし、篠山の多紀アルプスの三岳で全山「きのこの山」状態に遭遇しその日からきのこにはまってしまった私は「きのこを学び」(この食えない世界は研究が進まず、きのこの基礎学問はごく一部のお金になるきのこを除けば、アマチュアの渾身の努力にもかかわらず、それを体系化する浜田稔氏のような捨て身の学者が非在のため、おそらく我が国ではすべて無に帰するであろうという危機感もあって)、アマチュアのきのこ趣味の新たな切り口を求めて活動をはじめた。日本キノコ協会とそれにつづくムックきのこクラブとはそのための機関なのである。　私が想定する「きのこに学ぶ=ヘテロソフィア」というのは、きのこに代表される普通でない生き物=ヘテロ生物がそのなじみのなさ、異質感ゆえに碌すっぽ検証されることもなく価値のない生物として無視されてきたことのなかに人類の最大の過ちがあるということ。そして、しあわせに生きる(=この地球を優生種のみで満たすべき)ということの中に必然的に発動される差別化の原理(ティモス)こそがその元凶であると考え、没価値(価値の未分化)なものの生存権を計算づくの判断を差しはさまずにみとめる地道な活動を続ける以外に生態系のバランスを恢復させる手だてはないということをアートという人の心にストレートに響く方法を通じて展開してきた。　「没価値な生物にかくかくしかじかの価値があるから大切にしようね」というのが目下流行の環境問題や生物多様性を支える一神教的なチャリティ(神との距離をたえず測り自身を律する生活)の原理なのだが、そうではなく神からも見放された没価値な生き物を没価値のままに基本的生命権を認めようという啓蒙活動が私のめざしているものなのである。　こうした生活を実践してきた人たちこそが、我が国に固有の無用者の系譜、唐木順三の「中世の文学」で詳述された無名の沙弥(還俗した破戒僧の総称)につらなる人たちとその表現者たちだったのだ。　歌人、俳人、芸能民、七道の者、など漂泊の芸能民がその中心である。欧米ではジプシーと呼ばれる大道芸人の世界に通じる。　そんな中で、古代史の中で常に政治と一線を画してきた殖産氏族の秦氏(政治史から排除されてきた鬼の子の中核にある巨大勢力)と出会った。渡来してきた当初は絹糸、絹織物産業、鍛冶、冶金産業、灌漑治水産業、建築、都市計画などの先進技術を駆使したゼネコン的な活動に従事してきたが、大化の改新と平安京造都の後は、政治的な世界から距離を置き、地方へと分散していき、わが国の基盤整備に挺身した。そして、文献史的には今いった漂泊の芸能民の多くが秦氏の神々を奉祀してきたことで芸能プロデューサーとしての側面ももっている。　しかし、白髪岳にはそんなことを一切思い至ることなく登ってきたことだった。ところが味摩之(みまし)のことを書紀で読み、全国に点在するミマあるいはアジマ地名を調べていて、丹波の味間集落が白髪岳のふもとにあるということがわかったのだった。　地図をつぶさに調べてみると、白髪岳の隣の山を私はずっと高仙寺山と思ってきたが、よくよく眺めてみると括弧して「松尾山」とある。ふもとの文保寺は松尾山文保寺である。　松尾という名は渡月橋や太秦(うずまさ)界隈にある葛野(かどの)秦氏の本拠地の神社の名である。ここまで煮詰まると、この疑問は本年中にけりをつけておくべきと思い立ち年の瀬の迫った冬至すぎの一日を登山と味間集落散策を決行した。　　写真は、白髪岳と松尾山の途中で望見した味間集落。今は茶の名産地としてその名をとどろかせているが、かっては漂泊の伎楽師たちの居住地であったことが偲ばれる。

  2010年12月25日

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