我が国発酵食文化のパイオニア・奥村彪生さんよりの贈り物
いよいよちょっと背伸びの庶民が取り組む「きのこと発酵文化」の面白い試みをどう構築していくか、毎日思い浮かべながら仕事をしていますが、明後日に迫ったムックきのこクラブの奥村彪生さんを囲む会に先立ち、本日届けられた小包は、まさしく開けてびっくり玉手箱。 奥村さんの食に関する飽くなき探求は尋常ではなく、発酵食文化に関しても、自らの足と舌で探し当て、日本人の肥えた味覚に合うように手を加えた食品だけでも、数冊本が書けるほどの域に達していることが、ビシバシ伝わってきてはいましたが、本日のそれは、まさにその究極のものでした。 それは、一箸手をつけたらたちまち、彪生ちゃんと知り合いであることのしあわせを改めて噛みしめることになる美味な彪生オリジナルのキムチ。僕のつたない文で台無しにする前に彪生さんの肉筆原稿を転載しておきますので、ムック会員は二日後に味わうキムチがどんなものか、どうぞしっかり目を通して予習しておいてくださいませ。 日本の漬物のルーツは朝鮮です。糟漬(室町時代に奈良漬と名を変える)や須須許理(鎌倉時代に糠漬に、室町時代に貯え漬、江戸時代に沢庵漬と名を変える)、醤漬、味噌漬などです。奈良時代に水須須保理と呼ぶ今日韓国でいう水沈菜(みずきむち)が伝わっていました。 私は日中友好条約が結ばれる前から韓国の人間国宝で宮廷料理伝承者の黄慧性さんにキムチの作り方を教わりました。民間で漬けるものとは味も香りも異なります。ニンニクや唐辛子は全く入りません。李王朝最後のお后を出した家でキムチをご馳走になりましたが、ここも宮廷風にニンニクや唐辛子は入れていませんでした。日本の白菜漬より味と香りが強いかな、という感じでした。 私は韓国を南から北へとキムチを食べ歩きましたが、南は味が濃く、ニンニクと唐辛子の量が多く、北へ行くほど逆でした。それはうまみ料に使う塩辛が異なることが原因です。南はイワシ、北はアミ、または石斑魚(いしもち)です。 私の作るものは韓国でなく日本的。その理由は白菜そのものの味や固さが異なるからです。あちらのは茎柄は薄く固い。日本はその逆です。日本の土は水分が多いために軟らかく、そのうえ味は水っぽい。 ために4つにさいてから2日風干ししました。うまみ料は塩辛を使用せず干し海老、煮干し、鰹節、昆布です。香り付は韓国の貴族風に少量のニンニクとショウガ、韓国産セリ(日本のものは香りが乏しい)、深炒りのごま、柚子の皮です。いずれもが際立たないようにおだやかに仕立てました。リンゴやナシの飴(昨日作る)も入る。 3%の塩で重石をして4日下漬けをして仕上げました。今日で3日目ですが、発酵し始めました。韓国のように粥は入れていません。とろみがついて味は良くのるのですが、私はあのすえ臭いにおいがいやなのです。日本的に白菜そのものの味を味わいたいためです。ですから汁もからめて食べてください。残った汁にごま油少量混ぜ、そうめんを冷やして食べるとおいしいです。毎日少しずつ発酵がすすみます。その変化を楽しむのも一興です。 明後日には皆さんに持っていきます。 熟成の生ニシンに玉葱の酢漬けをのせて食べるのを一品とかれこれ2週間(現時点)経過した長崎産1,2kgの鯖に6%の砂糖と塩でしめた鮨で桜の葉すしを作って持っていきます。お会いできることをたのしみに。もちろんキムチの昆布は刻んでお酒の友に。 なんとも2日後に同席できる人は、しあわせすぎて昇天しないように心しておでましくださいませ。 超一流の書家も顔負けの達筆で僕の教養では誤読があるかもしれませんが、期日が迫っていますので、取り急ぎ転記しておきます。 僕にとっては何といっても、日々味が微妙に変化していく発酵食の醍醐味がたのしめるのがうれしいかぎりです。 古くて新しい友人の期待をはるかに超えるスターとしての登場に「きのこと発酵文化」の前途は、いよいよ洋々たるものになってきました。