丹波・氷上白山権現のヒトクチタケ。
この一月余り過乾燥と低温のためキノコたちは出渋っていた。そんな中でもヒトクチタケだけはビシバシ立ち枯れの松の樹から噴出していた。春山へ足を向ければかならず出会うキノコで珍しくもなんともないキノコであるが、ヒトクチ饅頭のような手ごろな大きさであたらしい個体はニスを塗ったようにテカテカ光っている。カプセルの中の胞子は成熟すると干し魚のような香りを発して木喰い虫やハエを呼び寄せその身体に胞子をつけて運んでもらっている。特に木喰い虫はヒトクチタケの内部にもぐりこみ胞子にまみれて腹一杯胞子を食べたあと、松の樹幹に穴をうがって侵入するがそのとき坑道にこのキノコの胞子をこすりつけていく。そこから菌糸をのばしふたたびの春先にこのカプセル様のキノコをつくるのだ。